第264話 窮地

『手こずらせてくれましたね』


 とうとう赤Tと青Tは地に伏してしまった。

辛うじて生きているのはHP自動回復のスキルのおかげだろうか。

そして、ロンゲのMPが必殺技の雷化により急激に減り、これ以上スキルを利用できず雷化が解除されたからでもあった。


『もう動けないでしょう?

止めは私の手で刺してあげましょう』


 MP切れだろうに、そうではないと強情したいのだろう。

ロンゲは自ら手にした剣で2人に止めを刺す気だった。


『ヘラクレス! 2人を守れ!』


 俺は2人を守るためにヘラクレスオオカブトに守るように命じた。

なんとか俺が到着するまで時間稼ぎをして欲しかったのだ。


ドーーーーーン!


『ぐわ! 人食い虫魔物か!』


 どうやらロンゲは雷化のスキルをもう使えないようで、ヘラクレスオオカブトの刺突をまともに横から喰らって吹っ飛んだ。


『カメレオン1、赤Tを隠せ』


 俺は赤Tを物陰に隠してもらおうぐらいの気持ちでそう命じた。

しかし、カメレオン1は予期せぬ行動に出た。


 カメレオン1は、赤Tの上に覆いかぶさると、赤Tごと光学迷彩のように消えた。


『くっ、エドワルド卿赤Tがいない?』


 起き上がったロンゲが赤Tがいないことに困惑する。


『どうせ隠れているのでしょう。

後でゆっくり殺させてもらいますよ』


 そう言うとロンゲは青Tに視線を向けた。

気を取り直して青Tを攻撃することにしたようだ。

その眼前にヘラクレスオオカブトが立ち塞がる。

その行動で視界が大きく揺れる。


『ええい、忌々しい虫め!』


 ロンゲの腕から雷が放たれ、ヘラクレスオオカブトに当たった。


ブツン!


 その攻撃により視覚共有が解除され念話も繋がらなくなってしまった。


「カメレオン1は?」


 カメレオン1は、赤Tに覆いかぶさって完全に隠すためだろうか目を閉じていた。

その隠蔽能力をフルに使っているのだろう。

これを邪魔してしまうと、赤Tの居場所も露呈してしまう。


「まずい、現場からの情報伝達手段を失った!」


 俺は現場の状況を知る術を失くしてしまっていた。

こうなったら、今以上に早く現場に到着する努力をするしかない。

何が出来る? 考えろ。


 カブトン以上の移動速度となると、飛竜か。

まだしっかりとした騎乗訓練をしていないし、乗り移るとしたら不安だが、ここは仕方がない。


「眷属召喚、飛竜!」


 カブトンに掴まれた俺の真下に飛竜が現れ、カブトンと同じ速度で飛んでいる。

このままカブトンに離してもらえば飛竜の上に落ちる。

スカイダイビングで飛行機から飛行機に飛び移るようなものだろう。

しかも、俺はしくじってもパラシュートが無い。

そのまま落下して終了だ。

あまり気持ちの良いものではないが、この際我慢するしかない。


「カブトン! 離せ」


 カブトンは俺の命令を忠実に守り、俺を離した。

俺はそのまま落下し、飛竜の首元にしがみついた。

つもりだったが、思った以上に飛竜の身体はスベスベだった。

俺の手は飛竜から離れ、風圧によって後ろへと流された。

飛竜の背は、その強靭な鱗により掴み所が無く、俺の身体はそのまま後方に滑って行った。


ガシ!


 その背中をカブトンが支えてくれた。


「カブトン! 助かった」


 カブトンはそのまま俺を前方に押して飛竜の首に跨らせてくれた。

これは絶対に鞍と手綱が必要だ。

鞍と手綱は地上でしか付けられないからな。

準備もしないで飛竜に乗るもんじゃない。

とりあえずロープを出して、飛竜の首に播いた。

そのロープにしがみ付くしか俺にはやり用が無かった。


「これでなんとかなるか。

よし、飛竜、徐々にスピードを上げろ」


 飛竜がスピードを上げると、先程以上の風圧が俺を襲った。

以前の遊覧飛行レベルとはさすがに違う。

カブトンに抱えられていた時は、高速でもカブトンが風の防御魔法で俺毎覆ってくれていたらしい。

飛竜もスピードを上げると乗り心地が全然違う。


「ならば自前の風魔法でなんとかなるはず。

【エアシールド】」


 俺は風魔法で風の盾を出してみた。

俺の目の前に風を逸らして後ろに流す風の道を作ったのだ。


「おお、これならもっとスピードを上げられるな。

飛竜、スピードアップだ!」


 風の盾が上手く行き、俺は更なるスピードアップを果たした。

そして、ある事に気付いた。


「しまった。眷属召喚で現地に眷属を送り込めば、目は確保出来たか!」


 ヘラクレスオオカブトとカメレオン1に視覚共有が繋がっていれば、そこへと眷属を遠隔召喚出来たかもしれなかった。

しかし、今はもうその手を使うことは出来ないようだった。



 ついに遠目で現地が見えて来た。

これは遠目スキルではなく、肉眼で見えたということだ。

赤Tの火魔法とロンゲの雷で疎らな木や草原が燃えて煙が出ていたのだ。


 どうする?

到着するのは良いが、ロンゲにどうやって対抗する?

ロンゲはMPが尽きたと思われたが、ヘラクレスオオカブトに雷魔法を使って来た。

これはMP自動回復のスキルを持っているということだった。

時間が経てば経つほど、ロンゲのMPは回復してしまう。

そうなれば、必殺の雷化をまた使われてしまうだろう。


「眷属召喚カメレオン3、カメレオン纏!」


 俺はカメレオン1が赤Tを綺麗に消したことを思い出し、カメレオン3を召喚して纏った。

これにより俺はカメレオン人間となって姿を消すことが出来るようになった。


 今の俺の見た目は怪人カメレオン男だろう。

嫁には見せられない醜悪な姿だろうことが容易に想像できる。

だが、背に腹は代えられない。


 俺は現場に到着すると姿を消してロンゲの傍に飛び降りるのだった。

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