第263話 連携

『くっ、一瞬スタンしちまった。

うわ、なんだてめぇ!』


 赤Tの声が聞こえる。

どうやらまだ無事なようだ。


『【アイスランス】!』


 青Tが氷魔法でロンゲを牽制しつつ、赤Tの元へと駆け寄って行く。

これによりヘラクレスオオカブトの視界に赤Tとロンゲが入り込んで来た。

そこには急にカメレオン1が現れて戸惑う赤Tと驚いた表情のロンゲがいた。

カメレオン1は雷にやられて麻痺してしまい、その光学迷彩がとけてしまったのだ。

これでこっそり同行させていたことが赤Tにバレてしまった。


『これが肩こりの原因か!』


 赤Tがカメレオン1に剣を振り上げ始末しようとする。


『待て赤T、そいつはお前を守っていたんだぞ!』


 カメレオン1同行の事情を知っている青Tが赤Tを止める。


『そうか、先程振り返ったのは、こいつが教えたのですね?』


 ロンゲも先程赤Tが背中に目があるかの如く振り返った理由に気付いた。


『そうなんか? そういやさっき首筋に悪寒が走りやがったのは、こいつが首筋を舐めたっつーことか?』


 赤Tも理解した。

そうなるとカメレオン1に仲間意識を持つのがヤンキー気質だ。


『おい、おまえ、俺の子分にしてやるわ』


 そう赤Tが言うと、カメレオン1と赤Tの間に何かのパスが繋がったのを俺は感じた。


「なんだ、これは?」


 カメレオン1が赤Tの眷属になったのならば、俺とカメレオン1との繋がりが切れるはずだ。

眷属譲渡がそれにあたる。

しかし、俺とカメレオン1との眷属の絆は切れてはいない。

このままカメレオン1が復活すれば、視覚共有も念話も繋がることだろう。

つまり、カメレオン1は俺の眷属でいながら、赤Tにテイムされたような状態になっているのだ。

俺はカメレオン1の事を眷属として使い続けられるし、赤Tも使役魔物としてある程度カメレオン1の事を使えるのだろう。

試さないと判らないが、おそらくは俺>赤Tでカメレオン1は命令をきくはずだ。


『何をごちゃごちゃと!』


 ロンゲが焦れて剣を振るった。

その剣筋はカメレオン1に向いていた。


キーーン! ビリビリビリ


『おい、俺の子分に何しやがる?』


『その気持ち悪い魔物を、貴様に代わって成敗してあげようとしたのですよ』


 ロンゲの剣には雷の電気が纏わりついていた。

それが赤Tの剣から赤Tのガントレットにも流れる。

しかし、電気というのは流れやすい場所があるとそこを通る性質がある。

赤Tの全身はフルプレートで覆われている。

そして足元には電気の流れ易い水が地面を覆っている。

その電気は赤Tの剣から鎧を通り、一気に足元へと流れた。

アースだ。多少赤Tの腕にも流れたが、その影響は少ない。

先程は足から電気が入ったために、抜ける先が無く身体に流れてしまったのだ。


『さすが青Tだぜ』


 その効果に赤Tは青Tを賞賛する。

その時、とまどうロンゲの元についに青Tが到着した。

そして氷魔法で壁を作るとロンゲを閉じ込めてしまった。


『バカめ、氷壁のおかげでまた高速移動が出来るわ』


 氷壁はロンゲを閉じ込めると同時に泥濘を硬く凍らせてしまったのだ。

これで泥濘に足を取られることは無くなってしまった。

ロンゲはまた雷を纏うとその氷壁の唯一の隙間を高速移動で抜けようとする。


 しかし、その隙間はまさに青Tが槍を構えている真正面だった。

槍が恐ろしいのは、そこへ突っ込んで行った速度こそが、必殺のカウンターとなってしまうことだ。

ロンゲは正に、その罠へと高速移動で突っ込んで行った。


『まじか!』


 ロンゲが気付いた時には目の前に槍が突き出されていた。

止まるに止まれずロンゲはその槍に黄金の鎧の胸を激突させる。

しかし、そのまま刺さるかと思われた槍は、鎧の丸いカーブに促され、脇へと逸れた。

ロンゲが激突直前に少し身体を捻ることが出来たのが幸いしたのだ。

だが、その衝撃はロンゲの高速移動を阻止するに充分だった。


『俺の黄金鎧が!』


 ロンゲが鎧についた大きな傷に凹む。

それが隙となった。


『赤T!』


『おうよ!』


 背後の氷壁を火魔法で溶かし、赤Tが突っ込んでくる。

その剣は炎に包まれ、必殺剣となってロンゲを襲った。


 はずだった。

だが、そこにあったのはロンゲの幻影であり、赤Tの剣はそれを素通りしてしまっていた。


『なっ!』


『よくもコケにしてくれましたね。

こちらも本気を出すとしましょうか』


 ロンゲの身体は雷そのものとなり実体を持っていなかったのだ。

これはヤバい。早く到着しないと2人が危ない。

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