第262話 序列

『【ファイアウォール】!』


 赤Tが自らの四方を炎の壁で覆った。

これにより、ロンゲの動きを把握しようというのだろう。

ロンゲが炎の壁を通り抜ける瞬間がわかれば対処が可能だという判断だ。

しかし、俺と視覚共有しているカメレオン1の視界もその炎の壁により遮られてしまった。


 これでは青Tの様子がわからない。


『ヘラクレスオオカブト、青Tをサポート、上空でロンゲの動きを捉えろ!』


 ヘラクレスオオカブトには、青T上空で周囲を警戒してもらう。

しかし、眷属の視覚共有では、ロンゲの姿を捉えることは出来なくなっていた。


『あはは、ほらこっちだ』


 ロンゲが赤Tを甚振るように高速移動し、ダメージを与えて行く。

ロンゲは赤Tの視線を良く見ているようで、死角から攻撃を加えていた。

せっかくの炎の壁も、見ていない時に突破されたのでは、意味がなかった。


『どこだ!』


 赤Tの焦りの声が聞こえる。

炎の壁のせいで青Tとの連携も出来ていない。

せめて青Tに背中を任せて戦えば良かったものを。


 その時、カメレオン1の視界に炎の壁が揺れるのが見えた。

カメレオンは左右の目を違う方向に向けられるため、偵察任務にむいているのだが、それは視覚共有によって視界を共有している俺には嬉しくない視覚情報だ。くらくらするのだ。

幸い、この時はカメレオン1の正面に異常が発生していた。

そのため、しっかりと異変に気付くことが出来た。


 そう思ったときには、もう目の前にロンゲが来ていた。

雷纏の高速移動だ。

このまま背中に剣を振り下ろされれば、カメレオン1も危ない。

カメレオン1は赤Tの肩に乗っているのだ。

赤Tの背中に向かうロンゲの剣が、カメレオン1の視界に映る。


『ひゃっ!』


 赤Tがカワイイ声を出すと、後ろを振り向く動作で剣を横に薙ぎ払った。

その剣がロンゲの剣を打ち弾く。

その動きは、カメレオン1の舌が齎したものだった。

カメレオン1が赤Tの首筋を思いっきり舐めてやったのだ。


 それを背中側からの嫌な予感と感じ取った赤Tが有無を言わさず剣を薙ぎ払ったのだ。

その攻撃は剣を弾くに留まらず、ロンゲの腕にダメージを与えていた。

一筋の血がロンゲの右腕を滴り落ちる。

それにより雷纏の状態は解除されたようだ。


『ふん、いーザマだな。

序列5位・・・・が舐め腐って魔法で攻撃しねーで、剣神の加護持ちの俺様に剣で接近戦を挑むからだ』


 赤Tがロンゲを心底バカにした口調で言う。

俺でさえ、序列5位の言い方には引っ掛かったぐらいだ。


 その序列とはヤンキーのカースト順位といえるものだ。

最下位の8位がパシリ、下から2番目の7位がブービー、そして下から4番目の5位がロンゲなのだ。

ヤンキー5とはそう言った意味が含まれていた。

ちなみに赤Tは2位、青Tは4位となる。


『私を5位と言うな!』


 ロンゲはその嘲りを敏感に感じ取ったのだろう、身体から放電しはじめた。

ヤンキーの世界で侮られ続けたという気持ちが鬱憤となっているのだろう。

だから、仲間だった赤Tを処分するなどという任務を嬉々として受けたという事か。

かなり歪んでいるが、気持ちはわからなくもない。


 最下位のパシリなんて、あだ名から酷いからな。

しかも麗をレイプしようとして、ボコボコにされていたからな。


『ウォーターカッター』


 その感情に流されたロンゲの隙を突き、青Tが魔法を放つ声が聞こえた。

カメレオン1の視界の外なため気付かなかったが、どうやらロンゲに向けて水魔法を放ったようだ。

その声に反応してロンゲが高速移動を再開する。


『ぐわ!』


 しかし、足を取られてその場で盛大に転倒してしまった。

ウォーターカッターはブラフだった。

水の刃は飛んで来ず、青Tの水魔法は足元を泥濘にしていたのだ。


 そこに水魔法による大量の水が降って来た。

ロンゲも赤Tもずぶ濡れとなる。

これによりロンゲが赤Tに雷魔法を放てば、自らも被害を受けることとなったのだった。


 青Tの頭脳プレイだ。

炎の壁は消えたが、ロンゲも高速移動を封じられた。


『おのれ、貴様ら!』


 ロンゲがまた自らの身体から放電を始めた。


『ぐわ!』


 その電気が水を伝わり赤Tに向かう。

そしてカメレオン1もその電気にやられてしまう。


『バカが、私が感電するわけがないだろ!』


 カメレオン1との視覚共有が切れつつ、最後の念話による盗聴だけが届いた。

慌ててヘラクレスオオカブトに視覚共有を移すが、その視界は遠く、赤Tとロンゲの様子はあまり把握出来なかった。

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