第258話 赤Tと青Tその2

 ヘラクレスオオカブトと視覚共有して、念話で行き先変更の指示を出した。

距離的に赤Tが隣国内へと戻ってからの接触となりそうだ。

青Tは青の勇者装備で6本の脚に掴まれているが、さすが大型種のヘラクレスオオカブト、その重さにも苦も無く空を飛んでいる。


 余談だが、腐ーちゃんの腐食魔法で溶けてしまった鎧の右脚部分は、カドハチに発注して補填されている。

しかし、その色を青の勇者の鎧と同じ青にすることは、青Tの生存を示す手掛かりと成り得るため、そこだけノーマル色の銀色になっている。


「さすがヘラクレス。フルプレートの騎士も難なく運べるか」


 さちぽよを運んだカブトンは、女子の重さであったにも関わらず、そのフルプレートの重さに結構難儀したらしい。


 昆虫はその身体の構成物質から、巨大になればなるほど強度的に外殻が厚くなる必要があり、その本体となる中身が圧迫されて生存できなくなる。

それが昆虫の大きさの限界だと言われている。

しかし、この世界の魔物は、魔法による補助に加え、魔物素材といわれる構成物質が特殊なために、巨大化が可能となっている。

そして、その巨体が飛ぶ仕組みも、物理法則を無視できる魔法の補助が関与していると思われる。

その効果が自らにのみ反映しているために、運搬する物体の重さは魔物のパワーに依存するのだそうだ。


 ◇


 暫くして、ヘラクレスオオカブトから念話のノックがあった。

俺は視覚共有と念話で青Tの情報を共有する。

ヘラクレスオオカブトの視界には撤退する赤Tたちの背中が見えていた。


「やっと誤解が解けるな」


 そう思った時、赤Tが右手をヘラクレスオオカブトに向けて掲げた。

その右手から、火魔法の火炎弾が発射された。

爆裂魔法だった。


 慌ててヘラクレスオオカブトを回避させると、赤Tについているカメレオン1にも視覚共有と念話を繋げる。


『例の人食い昆虫魔物だ! やはりここに居たか!』


 赤Tはヘラクレスオオカブトを人食い昆虫魔物だと決めつけていた。

あの俺たちが移動している場面を目撃され、そう報告されてしまった結果だった。

それが情報共有されていて、せっちんたちとは国の逆方向にいる赤Tの元まで届いていたのだ。


『赤の勇者様、魔物が鎧を抱えています!』


 そのお付きの指摘で赤Tの視線がヘラクレスオオカブトに向く。

そしてみるみる怒りの表情へと変化していった。


『あいつか! あいつが青Tを食いやがったのか!』


 赤Tはヘラクレスオオカブトが抱えている鎧が青の勇者の装備品の鎧だと気付いたのだろう。

魔物がそれを持つ=青Tを食ったと思考が繋がったのか。

赤Tの鎧と同じ特別製の唯一無二だからこそ、それは確信となったのだろう。

斜め上の発想をするとは面倒なことになった。


『待て、私だ! 私は生きているぞ!』


 青Tが攻撃してくる赤Tに声をかける。


『ふさけんな! あいつは自分を私などとは言わねーんだよ!』


 青Tの執事化が面倒な結果になってしまっている。

ヤンキー時代の青Tならば、俺と言う所なのだろう。


『待て! 話合いをしようではないか。

それが終わってから攻撃しても遅くはないだろう』


 その青Tの問いかけに、赤Tは少し困惑したようだ。

それは青Tの声に聞き覚えがあったからでもあるようだ。


『わかった。そこへ降りろ。

魔法で狙ってんのを忘れんなよな!』


 赤Tは目の前の草地を指定すると、数歩後退った。

青Tは指示通り、そこへとヘラクレスオオカブトに降ろしてもらった。

ホバリングして青Tを降ろしたヘラクレスオオカブトが、そのまま空へと帰って行く。


 それを目で追った赤Tの視線が、ゆっくりと青い鎧姿の青Tに向かう。

俺は、その様子をカメレオン1の目から観察していた。

ヘラクレスオオカブトが離れたことで、監視カメラが1台になったようなものだ。


『顔を見せろ!』


 赤Tが青Tに命じた。

青Tはそれに抵抗することなく冑の顔覆いを上げる。 

その様子は正に敬礼だ。

実は敬礼の発祥は、この冑の顔覆いを上げる動作から来ているという説があるぐらいなのだ。


『青T!』


 顔を確認した赤Tがその鎧の主が青Tだと認識した。


『ああ、そうだ。赤T!』


『生きていたのか……。いや、誰に洗脳されてんだ?』


 赤Tがいきなり青Tが洗脳されていると言い出した。

青Tは答えに窮している。

青Tも洗脳状態にあることを自覚しているのだろうか。


『王国が洗脳を隠すために死んだと嘘をついてんのか?

それとも……』


 赤Tは、同級生たちに洗脳をした王国の仕業かと思ったようだが、違う可能性を思い浮かべたようだ。


『おまえ、例の貴族に洗脳されてねーだろうな?』


 まずい。例の貴族こと俺が洗脳したのは事実だ。

こちらから指示を出すことも出来ないし、青Tに任せるしかないのか。


『変な貴族だと思ってたんだが、魔物を使役すっとなると、まさか魔王の幹部じゃねーのか?!

青T、お前は魔王の配下になったんか!』


 赤Tの妄想がとんでもない方向に行ってしまっている。

いや、俺の職業に魔王があるから、あながち間違ってない!

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