第257話 赤Tと青Tその1

『ちくしょう、なんて魔物が濃いーんだ』


 カメレオン1と視覚共有して赤Tの様子を探ると、トカゲ系の魔物と戦っているところだった。

相手は地球にもいるタイプのオオトカゲだ。

コモドドラゴンに似ている。


「そういや、モササウルスを出すまでに、トカゲ卵マラソンした時に出したやつに似てるな」


 あの時、放出したトカゲに確かこのタイプが複数いた。

赤Tが戦っている場所は、疎らな木々と草地が見て取れる。

おそらく、草原を越えた先の森をさらに越えた先、隣国に近い魔の森の領域だろう。

まさか、あの放出したトカゲがあそこまで進出したのだろうか?

それとも以前からの生息地か?

もしも隣国まで道を通すとしたら、面倒なことになりそうだ。


 オオトカゲは毒持ちだ。

しかも明確な毒を注入するのではなく、噛まれると雑多な細菌に感染することで、その毒素でやられるらしい。

病気系は回復ポーションが効かない。

麗の祈りならば治療可能だが、面倒な相手だ。

眷属化しなかった理由はそんなところにもある。

モドキンみたいに猛毒を抑えることが出来るなら良いが、病気系となると事故があると嫌だろ?


『ぐわ!』


 赤Tのお付きの騎士が噛まれた。


『大丈夫か!』


 すかさず赤Tがフォローにまわり、騎士を助ける。


『すみません。噛まれました。毒持ちです』


 オオトカゲの毒には回復ポーションが効かないのは知っているのだろう。

赤Tも焦っている。


『面倒な魔物が居やがるな。

【クリーン】! これで少しは症状が緩和されんぞ』


 赤Tが騎士の傷口に【クリーン】をかけた。

たしかに毒の素が病原菌によるものであれば、【クリーン】で綺麗にすれば予防効果があるかもしれない。

赤Tもなかなか経験豊富なようだ。


『ありがとうございます。赤の勇者様』


 騎士は赤Tに心酔した表情を見せる。

なかなか慕われる良い勇者じゃないか。

どうやらヤンキー時代よりは、品性に改善が見られるようだ。


『このままでは、工兵も入れらんねーな。

ここは足の速い騎獣で突破すっか』


 確かにオオトカゲの足はそんなに速くはない。

鳥や竜系の騎獣で突破すれば怖くない。

いや、道が整備されれば馬でも問題ない。

俺が道を通すことになった時は、そこらへんを考慮しておこう。


『怪我人も出たし撤退すっか。

次は騎獣を連れて来て挑むしかねーな』


 ああ、戻ってしまうか。

となると青Tは隣国側まで行ってもらわないとならないかもな。


 赤Tは怪我をしたお付きの騎士を気遣って、撤退して行った。

おそらく騎士は体内に入った細菌との戦いで今夜は発熱することだろう。

その気遣いが出来るとは赤T、あれでも勇者なんだな。

そういやヤンキーは仲間には熱いって言うな。

だからこそ、青Tの仇に固執するのだろう。

青Tは生きているというのに面倒な奴だ。


 赤Tが撤退したため、青Tの進路を変更する。

今までは赤Tの到達予測進路へと向かわせていたが、直接隣国へと向かうルートにヘラクレスオオカブトを乗せる。


「この様子ならば、上手く邂逅出来れば簡単に事は済みそうだ」


 この時の俺は、そう楽観的に思っていた。

まさか、あんなことになるなんて……。

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