第246話 候補地探し
「水なら渓流があったじゃん」
俺たちが田んぼ造成の話をしていると、そこに紗希が割り込んできた。
そういえば、皆が最初に飲んだ水はその渓流の水だったな。
俺は飲めなかったけどね!
懐かしいな。生卵で飢えを凌ごうとしたんだよな。
しかし、その渓流こそ、下流で例の橋がかかっている川となるのだ。
つまり、王国側に近すぎる。
その周辺に田んぼを造ったら、稲を王国に奪われてしまう懸念がある。
「そこは地理的に駄目だな」
「ならば運河で水を引っ張って来るとか?」
「その運河が王国の兵も引っ張って来るぞ」
それに、そんな長い運河を造って、維持はどうするのだ。
「駄目か」
紗希が残念がるが、北側に渓流が出来るほどの水量があることを思い出しただけでも、その意見には価値があった。
「渓流の元になる水源がその上流、つまり山側にあるってことだから、無意味じゃなかったぞ」
温泉拠点から北に行くと山脈が連なっている。
その万年雪が溶けて地下水となり、湧き出して渓流となるのだ。
その地下水は利用できるかもしれない。
「今は地上に出ていない地下水を導いて、川にしてしまえば良いな」
湿地帯があれば、そこに湧き出している水は、おそらくそんな水のはずだ。
そんな地下水の一部が地下深くまで浸透して温められたのが、ここの温泉なのだと思う。
「私が探知魔法で温泉に影響が無い水脈を探すよ」
瞳美ちゃんが魔法の出番なので張り切っている。
やっと大金を使った中級魔導書が役に立つからだろう。
井戸と言っていたけど、横井戸的な穴を水脈に繋げて、そこから自然に川となれば良いが、駄目でも運河で引いて来よう。
「よし、空から田んぼの候補地を探そう」
「あ、私はパス」
結衣が直ぐに降りた。
麗から空の旅の恐怖を聞いた女子たちは、ほとんど眷属に抱えられての空移動を拒否する。
「私もー」
瞳美ちゃんも、当然無理だよな。
「仕方ない。僕が行くよ。
湿地帯を探せば良いんだよね?」
うん、何故か運動部系は大丈夫なんだよな。
紗希が候補地探索に付き合ってくれることになった。
「田んぼの候補地は、温泉の排水が小川になって流れて行く南側じゃなく、山脈に近い北側を探す。
そして王国側の東ではなく隣国側の西に絞ろうと思う」
温泉の成分は稲の育成に悪いかもしれないと思っている。
ここの温泉の成分は硫化物だと思われるのだ。
温泉を川に排水したせいで、その先の湖から生物が消えたなんて話もあるのだ。
それと、米は水の温度が高すぎると不味くなるという話も聞く。
温泉の排水が混ざった水で稲を育てるなんて論外だろう。
そして農業国はどうしても王国にだけはお米を渡したくないらしい。
東側に田んぼを造って、王国に稲を盗まれるような事態にはしたくない。
それならば、隣国側の西に田んぼを造れば良いということになるわけだ。
「紗希、手分けして北西側を探査するぞ」
「おー。僕はクワタンに乗れば良いんだね?
なんだか、ワクワクして来たぞ」
さすが運動部。空を飛ぶという非日常もジェットコースター感覚で楽しめてしまうんだな。
2人して屋敷を出ると、その前の馬車回しの広場に立つ。
「眷属召喚、カブトン、クワタン! 俺たちを乗せて飛んでくれ」
俺たちの目の前の空中にカブトンとクワタンが召喚され、そのまま飛んできて背中側にホバリングした。
そして6本の脚で俺たちを抱え、そのまま上空に飛び立った
「おー、良い眺めー」
紗希は、全く動じなかった。
これなら安心して探査が出来ることだろう。
「探し出すのは湿地帯だからな」
「わかったー」
こうして俺と紗希は田んぼ候補地を探しに北西の空に飛び立った。
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