第247話 田んぼ用地探索

 2人で手分けして探そうと思ったのだが、ここは魔の森。

どんな魔物が居るかも判らないため、しばらくは一緒に探すことにした。


「とりあえず森の切れ目まで西に飛ぼう。

草原の北側あたりが丁度土地が低いと思う」


「了解」


 あそこで森が途切れているのは、何らかの理由があるはずだ。

木が生えにくいのか、魔物がそうさせているのかは判らないが。

あそこはインセクターという虫人間がいるため、植生をコントロールしている可能性もある。


 空を飛ぶと、あっという間に草原の上空に到達した。

地上を伺うと、クモクモが作りワナワナが維持している罠が良く見える。

海に作る罠の簀立すだてのような形で、入り込んだ巨大バッタが中へ中へと入ってしまって出られなくなる構造になっている。

巨大カマキリをおびき出す餌も中心付近に置いてあり、その中心にてワナワナが糸で絡め捕って一網打尽となるのだ。

この獲物が同級生女子のパワーレベリングとお小遣いの元となっており、定期的に罠にかかった魔物を狩りに来ている。

俺たちの地上での行動半径はここまでとなっている。


「案外狭い行動半径だったね」


 紗希がこれまでの活動を振り返ったのだろう、そう感慨深げに言う。

思えば、ここで色んなことがあったな。

ああ、やばい。結衣の背中とか、紗希の下着姿が目の奥に浮かんでしまう……。


「あの時は死ぬかと思った。

今思うと、転校生くんに助けてもらってなかったら、こうして居られなかったかも」


 うん、かなり際どい状況で治療した覚えがある。

際どいのは傷の状態と患部の位置だったけどね。


「そういや、ベルばらコンビもあの時思いっきり衝突したのに、今では大親友みたいになってるな」


 昨日の敵は今日の友を地で行くような関係性なのかもしれない。

とことん殴り合った宿敵同士が、その後で和解して仲間になるという感じだろうか。

運動部あるあるかもしれない。


「あ、あれワナワナだ」


 草原の上空を通過中に、アースタイガークモがシュタッと右脚を挙げて挨拶していた。

その右脚の根元には緑のバンダナが巻いてあった。

野生のアースタイガーと区別するために巻いたバンダナだ。

緑のバンダナはワナワナの目印だ。


 これは裁縫女子が瞳美ちゃん知識から得た技術で染めたものだ。

青と黄を染められるようになって、初めて緑が作れたのだ。

緑色の草の汁で染めたのでは綺麗な発色にはならなかったのだ。


 俺たちもワナワナに敬礼を返して先に進む。

いよいよ未知の領域である草原の切れ目へと向かう。

このまま西進すると、また森が現れて、次の森の切れ目は隣国領となる。

俺たちは、ここで北上を開始した。


 草原は植生を変えてススキのような背の高い植物になった。

いや、水辺の葦のような植物なのかもしれない。

つまり、水が豊富な地に辿りついたのだろうか。


「ここら辺が良さそうだね。

湧き水でもあるのかな?」


 その水源が見つかれば、水量次第だが、わざわざ井戸を掘ることも運河を造る必要もないかもしれない。


「あそこ、池? 沼? 湖?」


 紗希が発見したのは、円形の水溜まりだった。

その分類は良くわからないが、サイズ的には池に該当するのだろうか?

いや、池は人工的な雰囲気があるから、沼なのだろう。

どこからか湧いた水が最終的にここに集まって、地面に吸い込まれているようだ。


「降りてみるか」


「そうだね」


 これだけの水量があれば、田んぼに水を引く農業用ため池と同じように扱えるだろう。

問題は、この沼が最も低い地形だということだろう。

ならば、この沼に湧き水が注ぐ前の場所を田んぼにすればよい。

水が足りなくなったら、なんらかの方法で運べば良いのだ。

そんな調査のために沼の岸辺に降りようよしたのだが……。


ビュン!


 ひも状の何かが沼の中から飛び出し、上空の俺に向かってきた。

カブトンが咄嗟に避けるが、なんか粘っこい汁が俺の体にかかった。

涎だ。つまり、飛んで来たひも状の何かは生物の舌だった。


「上空に退避!」


「わかった」


 俺と紗希はその射程距離よりも上空に避難した。

よくよく観察すると、沼の中には巨大なカエルがいて、俺たちを食おうとしていた。


「ああ、そりゃそうか。ここは魔の森だからな」


 開拓するには、まず魔物との争いに勝利しなければならなかったのだ。

水辺の魔物ならば、カエルだけではないだろう。


「ワニとか居そうだね」


 紗希もそう思ったらしい。

観察しているとカエルがザリガニと戦い始めた。

たぶん、お互いに餌と認識しているのだろう。


「ちなみに、ザリガニは美味しいらしいぞ」


 日本の一部地方ではアメリカザリガニを食用にしているらしい。

ウチダザリガニはフレンチの材料にもなるとか。


「エビ! お土産に狩って帰ろうよ」


 紗希はこの後に待つ危機よりも、食い気が勝ったようだ。

だが、紗希よ。ザリガニはどっちかというとロブスターだ。

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