第245話 田んぼって1年後のためかよ
俺たちが異世界召喚されたのが、2学期の始業の日――つまり9月だ。
俺たちがこの世界にやって来た時期も、どうやら同じ9月で季節感も変わらないようだ。
そこらへんは、異世界召喚のお約束というか、似通った世界だからこそ召喚が成立するものらしい。
あれからまだ4か月は経っていない。
今は12月の中ごろという感じだ。
南にある農業国では年に数回お米を作付けし収穫出来るようだけど、この温泉拠点では、気候的にどうなのか不明だった。
そもそも王国や隣国で稲作が行なわれていないことから、栽培に向いていない可能性がある。
仮に年1回しかお米が作れないとして、12月ともなれば、お米は既に収穫期を過ぎており、作付けは来年の4月まで待つということになる。
「つまり、来年の4月に向けて田んぼを整備するということか」
気の遠くなるような長期プランだった。
そのためには領地の安定、この土地の領有の維持が必要になる。
せっかく田んぼを造ったのに放棄するなんてことになってはならないのだ。
「栽培時期は魔法でどうにかならないの?」
結衣がそう訊いて来たが、俺はそんな知識は持ち合わせていない。
そういった知識は瞳美ちゃんに丸投げだ。
「瞳美ちゃん、どうなの?」
「中級魔導書には、畑に肥料を与える魔法とか、植物の生長を促進する魔法はあったよ。
後は土魔法で開墾とか、水路の建設とか、井戸の掘削魔法とかかな?」
「稲をビニールハウスで作るみたいなことは出来ないかな?
秋に植えて春に収穫するみたいな」
「日本でもやってないから無理なんじゃない?」
そこらへんは田舎の子。結衣も田植え時期は把握しているらしい。
「それもそうか」
距離的に農業国とそこまで気候は違わないと思うのだが、案外魔法農耕技術の差かもしれないな。
ノブちんが農業国に派遣されたのも、豊穣神の加護を持ってるかららしいし、その特別な力で、なんらかの影響を齎しているのかもしれない。
ノブちんに訊いておけばよかった。
「とりあえず来年9月の収穫に向けて田んぼを造るか」
いや、それってまるで元の世界への帰還を諦めて、ここに定住すると決めたみたいだな。
それに反発する同級生もいるかもしれないな。
だが、帰還方法を知るには、王城の召喚魔法陣を調べなければならない。
青Tも、さちぽよも、そこらへんのことを調べる間もなく洗脳され、帰還する方法はないと教えられていた。
俺たちの誰かに隠密スキルが手に入ったら、調べに行くというのも有りかもしれないが、それはあまりにも危険すぎる。
捕まったら王国に洗脳されて手駒にされるのだ。
王国を相手に戦えなければ、調査は無理と思った方が良い。
さすがにそこまでするには、戦力が足りなすぎる。
「一度、全員で話し合う必要があるな」
だが、俺はあんなことのあった元の世界にあまり未練はない。
自分のためにだけでも田んぼを造ても良いという気持ちはある。
「何を話し合う必要があるの?」
どうやら独り言が大きすぎたようだ。
結衣と瞳美ちゃんが何のことかと頭に???を出している。
「ああ、田んぼを造ると、1年のスパンでここに定住するということだろ?
皆は元の世界に帰りたいだろうと思って、定住感を出すのはどうかと思ったんだよ。
まあ、俺は残るから田んぼはあっても良いかと思ってるけどね」
「私は大樹くんと残るよ?
結婚ってそういうものでしょ?」
結衣が当然かのように言う。
「私も帰れないと思ってるよ。
だから……」
瞳美ちゃんも帰れないと思っていたようだ。
だが、その後の台詞は聞こえなかった。
そういや、麗が瞳美ちゃんも娶れと言ってたな。
もしかして、そっち系のことだったのかな?
「ならば残るメンバーのために田んぼは造っちゃうね」
「それで良いと思うよ」
俺たちが残るから田んぼがいる。
それならば、別に遠慮することはないだろう。
「じゃあ、瞳美ちゃん、井戸を掘る魔法を教えてくれないかな?
土魔法スキルがあれば掘れるんだよね?」
「まかせて、中級魔導書を見て練習すれば直ぐだよ」
「ならば、練習がてら、田んぼを造る候補地を探そうか」
「水脈を探査する魔法もあったはず」
地理的には温泉より下流で温泉の排水が混ざらない湿地帯が良いかな。
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