第244話 米俵の中身は?
魔の森南端エリアの上空を飛ぶことで、魔物と勘違いされて迎撃されるなんてこともなく、温泉拠点まで帰ってくることが出来た。
最初からそうしておけば、余計な騒ぎにならなくて済んだのだ。
今後は、隣国との間に道を通すことで陸路によるお米の確保を目指したい。
まあ、月1程度でお米が届くのではないかと期待している。
それまでに道の目途が立たないならば、空路で運ぶことも考えないとならない。
隣国の国境を越えて飛ばないようにすれば大丈夫だろう。
やっと温泉拠点に帰って来れて、俺は安堵していた。
それもそのはず、俺の安らぎである奥さんに会えるのだ。
ベルばらコンビとの旅は俺にとってはストレスだったからな。
「ただいま」
「お帰り、遅かったわね?
心配してたんだからね」
結衣が出迎えてくれた。
奥さんに会うのも10日ぶりぐらいだろうか?
本来ならば隣国に行ってお米を買って戻って来るというせいぜい2日の旅だったはずなのだ。
心配かけてごめん、さあ夫婦のハグを……。
「とりあえず、お米を出して」
俺が結衣との感動の再会を期待する中、結衣がお米を要求した。
俺の結衣にハグしようとして広げられた腕は行き場を失った。
どうやら同級生たちにお米の禁断症状が出ていたらしい。
この世界にお米が無いならば諦めも付くが、あると判って口にしてしまうと、もう我慢が出来なくなるのだ。
俺とベルばらコンビは、農業国で嫌というほど食べたので余裕だったが、拠点に残った同級生たちは、10日以上お預け状態だったのだ。
結衣が早速お米を炊いて、塩むすびにして皆に配った。
そういや、海苔があるとおむすびは美味しいよね。
この世界、あの四角く乾燥した海苔は存在していないみたいなのだ。
海藻としての海苔は存在している。それは図鑑で確認できた。
しかし、それを食べる文化がないようなのだ。
過去の勇者も海苔を欲しがったとは思うのだけど、さすがに欲しがるのが勇者だけでは、その製法は定着しなかったのだろう。
「海か、魚がたまご召喚で手に入るから忘れていたけど、海に出れれば塩とか海藻や貝類エビ類が手に入るか」
海にさえ出られれば、四角いあの海苔を作ることも可能かもしれない。
これは今後の予定に入れておこう。
塩むすびを食べて、そろそろ皆も落ち着いたようだ。
これじゃ、もし農業国に米の販売を止められたら、俺たちは壊滅状態になりかねない。
農業国に戦略物資を握られたに等しい。
これは稲の苗を盗んででも稲作をするべきなんだろうな。
「お米は全部出しちゃってよ。
私のアイテムボックスで管理するわ」
「ああ、そうだね。俺が持っていても仕方ないもんな」
結衣がそう言うのは、料理担当だからだ。
戦闘奴隷の人たちには専門の調理担当の女性奴隷が付いているけれど、俺たち同級生の食事は全て結衣と瞳美ちゃんが調理して賄っている。
お米は同級生たちでしか食べないので、結衣が持っているのが一番効率が良いのだ。
俺は結衣の指示に従って、農業国からもらったお米の袋や米俵をアイテムボックスから出すことにした。
「そうだ、後で調理済みの食料を補充させてね」
俺のアイテムボックスには、遠征用に調理済みの食料が入れてある。
時間停止機能があるので、温かいまま保存できるのだ。
今回も、移動中の食事はそれを食べていた。
その消費分を補充しなければならなかった。
そのことをお米を出す作業をしながら結衣に頼む。
「あれ? こっちは籾殻つき?」
結衣が米俵の中身を確認して言う。
お米には種類があって、うるち米、長粒米、玄米などで調理方法が違うのだ。
それを分類するために、中身を確認していたのだろう。
ちなみに餅米は無かった。
「籾殻つきか。食べる前に籾すりしないとならないのか」
ん? 籾殻つき?
「ちょっと待って、籾殻つきって種籾ってことだよね?
これって育てれば苗になるよね?」
「そうね。確か水流に浸けておくと発芽するはずだよ」
これは農業国の善意なのだろうか?
「苗は渡せない建て前だけど、わかるよね?」ってやつか?
それとも、俺たちには栽培のノウハウが無いと思ったか?
どっちにしろ、米の栽培が可能になったのは間違いない。
「これはお米を栽培するべきだよね?」
「当然だわ」
「どうする? 田んぼで育てた方が良いんだよね?」
「畑でも栽培出来るけど、田んぼは連作障害が無いらしいわよ」
「ああ、畑は土から養分を吸い取られて、次の年がダメになるんだっけ」
「田んぼは合鴨でも放っておけば肥料要らずっていうわね」
となると、合鴨に該当する水鳥をたまご召喚で出せるか試すか。
その前に田んぼを造成するのが先かな。
「田んぼの水に温泉の水はNGだよな。
成分的にと温度的に。
たしか水が温いとお米が不味くなるとか」
「井戸が必要ね」
「まず水源が決まらないと田んぼの位置も決まらないか」
いろいろやることが出来たぞ。
皆や戦闘奴隷たちにも手伝ってもらおう。
お米栽培、絶対に成功させよう。
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