第238話 農業国のお金を得る

「領主は領地を持つ貴族にしか出ない職業なんだな。

転校生は貴族なんだな?」


「一応領地は持ってるな。

王国には貴族であると匂わせて、手を出されないように牽制しているところだ。

尤も、トラブルになった王国の侯爵には散々攻撃されたんだけどね」


「この世界では国の君主――王様なんかが任命する貴族の他に、領地運営のために自ら貴族を名乗ることが認められているんだな。

そこには領地を持つという条件以外は無いんだな」


 つまり俺は温泉拠点と魔の森を領地に持つから、貴族に成り得る立場ということか。


「いや、それだと侯爵とか男爵とかの爵位はどうなるんだ?」


「それは、相手がどれだけ敬意を払えるかによるんだな。

一国の主と認めれば貴族でなく王様と見做されるんだな」


 つまり、何を名乗ろうが、相手が認めてこそということか。

俺の場合は伯爵が敬う態度を取ってくれるから、侯爵以上ということかな?

まあ、爵位を名乗る機会が無ければどうでも良いんだけどな。


「それより、買い物させろ」

「そうだ、そうだ」


 ベルばらコンビの目的は、そういや買い物遠征だったんだ。

買い物させないと、また面倒なことになるな。

だけど、そう簡単に買い物なんて出来ないんだぞ。

だって、この国の通貨を持っていないからな。


「いやいや、この農業国のお金が無いって言ったよね?

特に俺たちが持ってる王国通貨は、現在この農業国が王国と揉めている最中だから、使えないんだってば」


「だから魔物素材を売りに行こう」


「いあ、あれもバッタ騒動で出しにくいんだからね」


 バッタは農業国の天敵なので、その存在を目撃されただけで大騒ぎになるのだ。


「カマキリあったじゃん」


 バレー部女子の言い分に、ノブちんが待ったをかける。


「カマキリこそ出してはいけないんだな」


「え、ノブちんどういうこと?」


「カマキリはバッタを駆逐する益虫なんだな」


 カマキリは農業国にとって害虫であるバッタを食べてくれる。

それを狩るとは何事かと揉める未来が見える。


「文化的違いでまた危ないところだった!」


 もう虫系を出すのは無理だな。

ゴブリンの魔石じゃ大した値段にならないし、ここはあれを売るしかないか。


「ノブちん、魔物素材を買ってくれる店に案内してくれ。

出来るだけ高額素材を買ってくれる店ね」


 高値で買ってくれる店ではなく、高額素材を買ってくれる店だ。

間違えてはいけない。


「分かったんだな」


 ノブちんが農業国の兵にお店の所在を訊ねた。

それとこっそりお米の手配を頼んでいた。ありがたい。

俺たち同級生だけで食べるから、そんなに量は必要じゃない。

無くなったらまた買えれば良いという感じだ。


 そして、魔物素材を買ってくれる店へとやって来た。


「この店が買い取り屋なんだな」


 店の奥を覗くと、魔女っぽい婆さんがカウンターの向こうで店番をしていた。

どうやら鑑定が使える婆さんのようだ。

俺は店に入るとカウンターに向かった。

婆さんがチラリと値踏みするように俺を見るが、直ぐに興味なさげに視線を落とした。


 俺はカウンターに辿り着くとアイテムボックスから魔物素材を出した。


「これを買って欲しい。本物だからな」


 一応本物を主張しておいた。

モドキドラゴンから直接貰ったものだから本物に決まっているはずだ。


「どれ」


 俺がカウンターに置いた竜の鱗を婆さんが鑑定する。


「! お主、これを何処で?」


 どうやら正しく鑑定できたようだ。


猛毒王モドキから直接貰った」


 そう俺が言うと婆さんは驚愕の顔をする。


「よく生きて帰ったな。

モドキの周囲は猛毒の霧で覆われていると聞くぞ」


 いや、うちのモドキンはそんなことしてませんが?


「まあな」


 何を言っても問題になりそうなので適当にスルーしておく。


「この鱗、モドキドラゴンの鱗と出るのに一切毒を纏っておらぬ。

お主が素手で持っていたから偽物だとばかり思っていたわ」


 ああ、鱗も猛毒という可能性もあったか。

毒耐性持っていて良かった。


「毒耐性を持っていたからな」


「アホ、それを突き抜けて来るから猛毒王モドキなんじゃろうが」


 なるほど、つまりモドキンが気を使ってくれて毒無し猛毒王モドキドラゴンの鱗となったのか。

まさか、毒が無ければ価値が無いなんて言わないだろうな?


「まあ良いわ。

こんな珍品、100万ギルで買わせてもらおう」


 しまった、高いのか安いのか貨幣価値がわからん。


「ノブちん、どうなの?」


 俺の質問にノブちんが察してくれたようだ。


「100万ギルだと日本円にして3億円ぐらいなんだな」


 それも武器防具の値段感覚が違う感じでか。

案外安かったような気がするな。


「まあ、それで良いか」


「ならば3枚で300万ギルじゃな。

良い取引じゃった」


 婆さんはお金を出すと、引っ手繰るようにして鱗を仕舞った。

もしかすると安すぎたのかもしれない。

まあ、俺も3枚で100万ギルだと思っていたから、良く判らん。

とりあえず買い物が出来る貨幣が手に入っただけで良いのだ。

モドキンの鱗なんていくらでも貰えるしね。

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