第236話 職業を得る1

 ノブちんに連れ出されて来たものの、俺はあることを危惧していた。


「ノブちん、このまま教会で職業を得ると、俺たちが召喚勇者であることが国に知られることになると思うんだ」


「そのとおりなんだな」


「俺たちは、どこの国にも所属する気はない。

いや、俺たちの創った独立国の所属にしたいんだ」


 俺がそう訴えると、ノブちんは眉間にしわを寄せそこに指をあてると考え込んでしまった。


「あの魔導具を使った時に、既に農業国には知られたんだな。

あそこにはこの国の衛兵たちがいたんだな」


「そうだった!」


「つまり、いまから職業を得ても何も問題がないんだな。

むしろ、その後のことを考えるべきなんだな」


 その後か。

さすがに無所属の勇者と判れば拘束されるようなことはないだろう。

なんとか米を手に入れてこの国から脱出してしまえば問題ない気もする。


「解かった。今は職業を得ることを優先しよう」

「それとお米の買い付けね。

そのために来たんだからね?」


 バスケ部女子、食い気が先か!


「お米もこっちで用意するんだな。

心配しなくても大丈夫なんだな」


「ノブちん、頼りになる~♪」


「そ、そんなことは無いんだな」


 バスケ部女子がノブちんを揶揄う。

ノブちんはそれでも嬉しそうだ。


「ここが教会なんだな。

教会では職業授受の儀式を行なっているんだな。

この世界では、早ければ5歳で、遅くとも10歳までには誰でもやってることなんだな」


「ようこそ、教会へ。

お話を耳にしましたが、まさか、その年で初めての儀式ですか?」


 俺たちの話を聞きつけたのか、司祭と思われる年配の人物が声をかけて来た。


「はっ! そちらは勇者様、つまりそういうことでしたか」


 その人物は、ノブちんを見て勇者だと気付き、全てを察したようだ。

これでこの国の上層部に俺たちの話が確実に伝わることだろう。


 職業授受の儀式は、何のことは無い、神聖な間で、そこに設置されている聖遺物に触るだけのことだった。

これにより、人は職業を得るのだという。

この聖遺物を持ち出したからといって、それだけでは職業は得られない。

宗教家の祈りによって清められた神聖な空間でしか効力を発揮しないのだそうだ。

つまり、こういった教会に来なければ、職業は得られないのだ。


「私から行かせて」


 バスケ部女子が主張する。

よほど職業が気になっていると思われる。


「「どうぞ、どうぞ」」


 大丈夫だとは思うが、ちょっとは不安があるものだ。

それを先にやりたいと言うのだから譲らない選択肢はない。

それはバレー部女子も同じ気持ちのようだ。


 バスケ部女子が聖遺物に触れると眩い光が発生した。


「「おお!」」


 なんか神々しいぞ。

そして光が収まり、儀式は終了した。


「これだけ?」


「ステータスを御覧ください。

そこに職業があれば職業授受の儀式は無事終了です」


 バスケ部女子がステータスを見る。

オープンしていないので、自分だけで見ている。


「どうだった?」


 バレー部女子が心配そうに訊ねる。


「格闘家だって。完全に加護に引き摺られてるわ」


 バスケ部女子はギフトスキルの格闘神の加護に引き摺られた職業を得た。

まあ、職業があれば、職業に関連するスキルを取りやすいし、ステータスの伸びも違うそうだから、これはこれで良い方向に行くのだろう。


「そうなんだ。じゃあ次は私ね」


 バレー部女子が聖遺物に触れる。

バスケ部女子に何も問題が無いことを見ての行動だ。

現金なものである。

バスケ部女子の時と同様に眩い光が発生し、直ぐに収束した。


「どうだった?」


「拳闘士だった」


 バレー部女もギフトスキルの拳闘神の加護に引き摺られた職業を得た。


「想像通りで引くわw」


 2人ともギフトスキルの加護に準じる職業だった。

嫌な予感しかしない。

なぜならば、俺のギフトスキルは【た*まご?召喚(文字化け)】なんだからな。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る