第235話 取り調べ

 ノブちんに付いて行くと、そこは取調室だった。

これはそこに固定式の魔導具があるからであって、決して俺たちを逮捕しようとしているわけではなかった。


「この魔導具ならば、王国に洗脳されているかどうかが判るんだな。

洗脳されていれば、ステータスに状態異常が出るんだな」


「じゃあ、俺から証明してみせよう」


 俺から率先して魔導具を使用することにした。

ノブちんも俺たちを本気で疑っているわけではなく、この農業国の衛兵たちの根強い疑いを晴らすために動いてくれているようだ。


 俺が魔導具に手を置くと、簡易的なステータスの鑑定結果が表示された。

名前、人種、職業、本人の状態、犯歴といったものだ。

細かいスキル構成だとかレベルなどはプライバシー保護のためか、簡易版のせいか表示されないそうだ。

だが、本人の状態や犯歴が表示されるのは、取り調べ特化というか、本人が見ることの出来るステータスよりも詳しい部分があった。


 しまった。犯歴に殺人なんて出たらどうしよう。

やむを得なかったとはいえ、返り討ちにした相手はいくらでもいる。

侯爵軍の死人が全て殺人となったら、俺は大量殺人犯だぞ。

それに貴族を騙ったり、青Tの洗脳までしてる。

これって犯歴に出るかもしれないぞ。


 焦っても後の祭り、魔導具が鑑定結果を表示した。


名前:転校生 大樹(ひろき)

人種:ヒューマン

職業:なし

状態:正常

犯歴:なし


 助かった。戦争や正当防衛は殺人にならない仕様のようだ。

貴族を騙ったことも青Tの洗脳もお咎めなしだ。


「状態に洗脳が無いんだな。

それと職業がないのは、何処の国にも属していない真っ新まっさらな証拠なんだな。

犯罪歴も無くて良かったんだな」


 殺人はともかく、てっきり俺は犯歴に密入国者なんかの軽犯罪が付いているかと思ったわ。

この世界、密入国はステータスに刻まれるほどの犯罪じゃないってことか。

国境線が適当に引かれてるから、うっかりなんてこともあるからだろうな。


 そしてベルばらコンビも無事にステータスチェックが終了した。


「おめでとうなんだな。

これで疑いは完全に晴れたんだな」


 ノブちんがチラリと農業国の衛兵の中でも身分が高そうな人物に視線を送った。

どうやらそれは、これで充分だろという確認だったようだ。

俺たちを執拗に疑っていたのは、ノブちんではなく、この国の衛兵たちだったのだ。

それをノブちんが取り調べを肩代わりすることで、俺たちに不利益な扱いが及ばないように守ってくれたようだ。


「もう、心配したんだからね」

「そうそう、無事ならばなんで直ぐに迎えに来なかったのよ」


 ベルばらコンビも安心したのか、ノブちんたちが洞窟拠点まで迎えに来なかった事を責めた。

てっきり俺たちは、隣国でノブちんたちが不遇な扱いを受けたのではないかと心配していたのだ。


「それには理由があったんだな」


 ノブちんが言うには、まず王国との国境を勇者が越えることに問題があったんだそうだ。

ノブちんたちは、国境で隣国に保護してもらおうと、勇者であると打ち明けたそうだ。

だが、それが王国に知られたり、勇者排斥論者という危険な組織の知るところとなると、やっかいな揉め事となる。

そのため、ノブちんたちは犯罪者として裸に剥かれて・・・・・・王都まで移送されたんだそうだ。

この犯罪者の扱いは男女の区別なく行われる。

女子たちを連れて来て、同じ扱いにするわけにはいかなかったという。


「それは止めてもらって正解だわ」

「なんでそんな回りくどい事を」


「勇者の流出は、王国にとって大問題なんだな。

拙者たちは犯罪者として連れて来られたから、いま隣国所属の勇者として活動出来ているんだな。

だけど赤Tの亡命でいま大変なことになってるんだな」


 その赤Tの亡命に一役買っているのが俺たちだなんて言えないぞ。


「拙者たちも保護してくれている国を危険に晒すわけにはいかなかったんだな。

皆をどうにかして助けようとは思っていたんだな。

でも、まだ拙者たちには隣国に王国と揉めてまでの危険を侵させるだけの発言権が無かったんだな。

この農業国に拙者が派遣されて来たのも、その実績作りだったんだな」


 ノブちんも俺たちのことを考えて行動してくれていたんだ。


「そうだったんだ」

「そんな理由も知らずに無理言ってごめん」


 ベルばらコンビも素直にノブちんに謝った。


「皆も大変だったようなんだな。

謝る必要なんてぜんぜん無いんだな。

それに赤T亡命でせっかくの準備が台無しなんだな」


 なんか、ごめん。


「まあ、今のところ、俺たちは貴族を名乗って新しい拠点を領地としている。

謂わば独立国家となっている。

王国の侯爵軍を撃退したことで、そうそう手出し出来ない存在だと認識されているはずだ」


「王国の魔の手が伸びて来ないなら良かったんだな。

さちぽよとブービーは死んだんだな。

ハルルンにさゆゆも奴隷にされて行方不明らしいんだな」


「さちぽよとハルルンは新拠点で保護してるぞ。

さっきも言ったけど、青Tも生きていてハルルンと一緒にいるからな。

さちぽよと青Tが死んだというのは王国向けの偽装だぞ」


「青Tがハルルンと付き合ってたのは知ってたんだな。

2人が一緒になれて良かったんだな」


 ノブちんが心底嬉しそうにする。

だが、直ぐに暗い顔になった。


「王国は勇者を道具としか思ってないんだな。

拙者たちの命なんて何とも思ってないんだな。

ブービーが死んだのは間違いないんだな。

それと転校生くんから名前の出なかったさゆゆはまだ奴隷のままなんだな?」


 これは疑問形か?

そう思って答えておこう。


「ああ、王国の信用のおける商人に探らせているのだが、さゆゆはまだ見つかっていない。

奴隷商の間で転売されて、最後に誰かが奴隷商から買い付けて行ったようなんだが、その人物が不明でそこから追えていない」


「転校生くんが同級生を保護しようとしてくれていて良かったんだな」


 ノブちんが席を立つ。

俺たちも、これで取調室からは解放だった。


「3人とも職業が無いんだな。

職業が無いとスキルの所持がばらけてしまったり、ステータスの上がりが悪くなるんだな。

教会を紹介するから職業を得ると良いんだな」


 おお、ついに職業を得ることが出来るのか。

これは温泉拠点の皆にもさせてあげたいな。


 俺たちはノブちんに連れられて、衛兵詰め所を後にした。 

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