第234話 逮捕か?

 地理の整理をしておこう。

ノブちんたちが保護されて赤Tが亡命した国は隣国と呼んでいる国で、王国の西、つまり俺たちの温泉拠点からも西の方角にある。

その王国と隣国の南にあるのが南の国=農業国で米を生産している国だ。

いま俺たちはそこに居て、勇者となったノブちんと出会った。

皇国は俺の出身国と間違えられた国で王国の北にあり、王国最大の脅威であり、仮想敵国になる。

対皇国のため、王国は大人数の勇者召喚を敢行し、それに失敗。

俺たちは魔の森に放り出され、今のサバイバル生活に至る。

王国は自ら召喚した勇者の力をあてにして北西南の周囲3国と揉めている困った国なのだ。


 その王国のスパイかと疑われたのだから、俺たちの危機的状況もご理解いただけることと思う。


「それで、どうしてこの国にいるんだな?」


「え?」


 ノブちんのその口調は疑いを含んだものだった。

ノブちんは俺たちを知り合いで怪しい人物じゃないと言いつつ、この国にいることには違和感を覚えていたようだ。


「私たちは、お米を買いに来たんだよ」


「お米なんだな?」


「そうそう、王国では・・・・お米が手に入らなくなったんだよね」


 バスケ部女子が説明したが言い方!

それじゃまるで王国所属のように誤解を招かないか?

ほら、ノブちんの表情が険しくなったようだぞ。


「赤Tが王国から逃げて来たんだな。

王国はクラスメートを捕まえて洗脳したらしいんだな」


「赤Tと会ったのか? (助かった)

赤Tは自力で洗脳を解いたらしいな」


 赤Tなら俺とマドンナが治療してあげたし、俺たちが王国の侯爵と敵対していたことも知ってるはずだ。

俺は赤Tの証言がノブちんにまで伝わっていたことで、俺たちと王国の関係を知っていることだろうと安堵した。


「なんで赤Tの事情を知ってるんだな?」


「それは赤Tを助けたからな」


「そんなこと赤Tは言ってなかったんだな」


 赤T! なんで言ってないんだよ!

まさか、マドンナに無自覚告白して自滅したことを忘れようとして、記憶喪失にでもなったのか?

ちょっと待て、赤Tは隣国に俺たちのことを全く伝えてないじゃないか!

となると、今までの会話は……。


「転校生くんたちは、王国の勇者ということなんだな?」


 ノブちん、その語尾だと、意味がわかんないよ!

決めつけ? 疑問形だよね?


「いや、俺たちは王国に所属してない。

他国の貴族ということになってる」


「意味不明なんだな」


 あー、客観視するとそうだよね。

でも、そういう微妙な立場なんだよ。


「とにかく、王国の手先ではないことは信じてくれ」

「そうそう、お米が欲しかっただけなんだからね」


「王国もお米を欲しがって暴挙に出たんだな。

だから拙者がこの国に応援に来てるんだな」


 まるで、俺たちが王国の手先としてお米を買いに来たかのようだ。


「違ーーーう! 王国から米を買っていたけど、それは王国に与しているわけじゃないんだ。

むしろ俺たちは王国の侯爵とやり合って侯爵を殺してる方なんだってば!」


「確かに、王国の侯爵と他国の貴族がやり合った話は赤Tから聞いてるんだな」


「だったら、違うってわかるよね?」


「だけど、その他国の貴族は、青Tを殺してるんだな」


 あー、青Tが死んでることになってるのが、こんなところで悪影響を及ぼすのか!


「いやいや、青Tは生きてるんだってば!」


「ならば、どうして親友の赤Tも一緒に居なかったんだな?」


 それは赤Tがマドンナに気があるからだよ。

俺の奥さんに言い寄られたら困るんだよ。


「そこは事情があって……」


 だめだ。説得しようとすればするほど墓穴を掘る。


「ちょっと一緒に来てもらうんだな」


「そんな……」

「ノブちん」


 とうとう楽観的なベルばらコンビまで悲しい声を出す。

これまでか。彼女たちのためにもひと暴れしないとならないか。

そう覚悟を決めようとしたところ……。


「こっちに鑑定の魔導具があるから、洗脳されていれば一目で判るんだな」


「「「ノブちん!」」」


 思わず3人で突っ込んだ。

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