第233話 バッタは農業の天敵だった

 ゴブリンは魔石が手頃だが、一生風呂とは無縁の生活をしているため、汚れていて悪臭を放つ。

このような列で持ち出せば、悪臭被害が出てしまうので論外だった。

ならばと比較的綺麗で価値も若干高い巨大バッタを出したところ、想定外の事態になってしまった。


「間違いない、ジャイアントホッパーだ!」

「貴様! それを何処で発見した!」

「この状態、まだ狩ってから時間が経っていません!」

「つまり、この付近ということか!」


 俺が何かを口にする前に事態は最悪な方向に動いていた。

巨大バッタが新鮮な理由は俺のアイテムボックスに入っていたせいだ。

アイテムボックスのスキルはまだ所持者がそこそこ居るそうなので、隠す必要はない。

いや、時間停止機能付きはレアで多少は問題かもしれない。

それに、巨大バッタが狩られた場所は口に出来ない。

なぜならば、その狩場は温泉拠点近くの草原であり、俺たちの密入国がバレるからだ。


 かといって、この国のどこかで発見したと嘘を言う訳にもいかない。

どうやら、この南の国にとって、巨大バッタは最悪の自然災害のようだ。

彼らの真剣な目を見て、やっと俺は気付いた。

バッタは農業の天敵であると。

特に稲なんかはイナゴの被害を受けるのだ。


 どうする? どう言い訳をするのが最良なのだ?


「おい、何処で狩って来た!」

「隠すならば拷問してでも吐かせるぞ!」


 兵士たちのテンションが高すぎる。

それだけ巨大バッタを警戒しているのだろう。


「配慮が足りなくて申し訳ない。

これはアイテムボックスから出したもので、この付近で狩ったものではありません」


「なに?」


 兵士たちの顔が怖い。

隠し立てすると許さんぞという言外の圧をひしひしと感じる。


「私たちは旅行者でして、この国の貨幣を持ち合わせていません。

そのため、物納でこれの魔石をと思いまして、アイテムボックスから出したのです」


 密入国の話以外は全て真実を語った。

これで納得してくれと祈りながら答えたが、兵の中の1人が険しい顔をした。


「なぜ国境で両替しなかった?」


 ミスった!

両替を疑われることは、隣国への密入国でも想定していたことだった。

これはまずいことになった。


「怪しいやつめ、おい、国境に問い合わせろ!

今日までの入国者名簿と人相帖を調べるのだ」


 終わった。入国者名簿に名前がないのは密入国しているからには当然だ。

しかも、この南の国は、いま王国と揉めているため、そのスパイ探しに躍起になっている時期だ。

密入国は確定、どう見ても俺たちは王国のスパイに見えることだろう。

もう強行突破するしかないか。


「おや、何の騒ぎかと思ったら、転校生くんなんだな。

それにバスケ部女子とバレー部女子、無事だったんだな」


「「「ノブちん!」」」


 そこに現れたのはノブちんだった。

彼は、立派なプレートメイルを身に着け、いかにも勇者という出で立ちだった。

まさか、隣国へと入国してから、この南の国まで到達し、勇者としてお抱えになったということだろうか?


「これは勇者様、お知合いですか?」


「そうなんだな。彼らは怪しい人物じゃないんだな」


「「「助かったー」」」


 俺たちはノブちんの登場によりお咎めなしとなり、安堵するのだった。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る