第229話 お米を買う1

「瞳美ちゃん、お米ってどこの国で生産されているの?」


「この大陸の南部で生産されているらしいんだけど、王国と緊張状態になって入手困難みたいなのよね」


「勇者が多い王国が輸入出来ないようなことをする理由って何だろう?」


 勇者がいれば、ノスタルジーでも食の欲求でも、勇者がお米を求めるのは必然だろう。

この世界にお米が無ければ諦めもつくだろうが、あると判っていて手に入らないのでは苦痛そのものだろう。

では、何らかの理由があって緊張状態になったと考えた方が論理的だ。


「それは、王国が手っ取り早くお米を手に入れようとしたからよ」


 そういや、王国は隣国と戦った過去があったな。

一応、今は貿易する間柄だけど、昔は領土を奪い合う戦争があったらしい。

そこで起死回生の一手として勇者召喚が行われた経緯があるのだ。

今回も俺たちを召喚した理由が他国との戦争だそうで、この王国は敵が多い困った国らしい。


「その生産国はどこにあるの?」


「隣国と国境を接する南側の国ね。

つまり、王国とも南で国境を接してるということね。

そこも王国と戦った因縁があるらしいわ」


「そこと緊張状態じゃ、勇者がお米を欲しても、その国が売らないってことか」


「お米が欲しくて侵略に出たなんて噂もあるそうよ。

今では輸出先にも王国に売らないようにと徹底しているらしいわ」


「最初からちゃんと買えば良いのに、そこまで恨まれるって何をやってるんだよ」


 それでお米が買えなくなったとすると、本末転倒だろう。

だが、今の話からすると、王国以外には輸出してそうだよね。


「もしかすると、隣国はお米を輸入しているのでは?」


「あると思うけど、あの国境を赤Tのように突破する気?」


 瞳美ちゃんがジト目を向けて来る。

いやいや、そんなことする訳ないじゃん。


「そこは空を飛んで行けば……」


 瞳美ちゃんを誘おうかと思いつつそう言う。

すると瞳美ちゃんは気配を察したのか、誘う前に拒絶した。


「私は行かないわよ?」


 瞳美ちゃんは空を飛びたくないらしい。

どうやら麗からいろいろ聞いたらしいな。


「そうか、わかったよ。

さて、誰を連れて行こうかな?」


 アイテムボックスのスキルは俺が持っている。

買い物だけならば、俺1人でも充分なのだが、お土産を買うとなると女子のセンスが必要になる。

誰かに同行してもらいたいところだ。


「それより、隣国は貨幣が違うわよ?

王国の貨幣も大っぴらには使えない雰囲気らしいからね」


 過去に戦争をしていて土地も取られているとなると、いま表向きは友好的でも、しこりは残っているんだろうな。


「カドハチに言えば用意してもらえるかな?」


「商人ならば、持っているはずね」


「ああ、でも隣国に密入国するからとは言えないか」


 正式入国するならば、貨幣の両替ぐらい出来るはずだからね。


「また、何か持って行って売るしかないか。

シャインシルクはやめとこうか」


「うー、ごめんなさい」


 ああ、瞳美ちゃんのトラウマを抉ってしまったか。

いろいろな騒動の発端が瞳美ちゃんによるブ〇セラ行為だったからな。

腐ーちゃんが庇っていたけど、結局カドハチ便の購入歴でバレたんだよね。


「ごめんね。そんなつもりじゃなかったんだ」


 瞳美ちゃんに涙目を向けられつつ謝る。

瞳美ちゃんも「もうしょうがないわね」みたいな感じで許してくれた。


「また、魔物素材で良いんじゃないかな。

例えば竜種の鱗なんて価値が高いらしいよ」


「それだ。モドキンに言って何枚か貰って行こう」


 T-REXは皮っぽい皮膚に羽毛が生えてて明確な鱗が無いんだよな。

でもモドキンならば、紛れもない西洋竜っぽい鱗があるのだ。


 俺は、お米調達のため、空から隣国に密入国することにした。

もしかすると、ノブちんたちの情報も得られるかもしれないしね。

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