第227話 牛乳

「双六を作っていて気付いたのだ。

我々にはスイーツが足りないと思わないか?」


 オスカルバレー部女子が某司令のように口元に手を組んで言う。


「クレープ屋を始めた。ヒットして10万GP手に入れるってやつだな」


 アンドレバスケ部女子がそれに答える。


「何サボってるんだよ。ぜんぜん新作双六の制作が進んでないじゃないか」


「そうは言っても、この世界に合わせるのは大変なんだからな」


「そうそう、紙のお札やサイコロだって早すぎだったんだからな」


 そこは俺も気付けなかった。

紙のお金なんて新しすぎるんだって、あの時、なぜ思いつかなかったんだろう。

サイコロが新しいなんて、当たり前の存在すぎて理解していなかった。

そんな粗を潰すのは結構大変だった。

ベルばらコンビが現実逃避するのも理解できる。


「あー、生クリームの乗ったパンケーキで良いから食べたい」


「新鮮な玉子は手に入るのに、牛乳が流通してないなんて思わなかった」


 玉子は俺が出すんだけどな。

食卵のサブスキルを使えば、いくら丼も可能なのは秘密だ。

満足な量のお米と、醤油そのものが無いんだけどね。


 牛乳はこの世界では新鮮な状態での流通が不可能で、バターやチーズ、ヨーグルトへの加工でしか乳製品は流通していなかった。

牛乳は腐っていれば、まさに毒と同じだからな。

異世界ラノベで簡単にマヨネーズを作るけど、俺みたいに汚染されてない玉子を出せないと、たぶんサルモネラ菌で大量の死体を積むことになる。

牛乳もそれに近いところがある。


「一部富裕層にはアイテムボックスのスキルで運ばれてるらしいぞ。

しかし、珍品としての価値しかなくて、そこまでして運ぶメリットが無いらしくてほとんど流通していない」


「つまり生クリームは無理なんだよね?」


「牛でも飼って乳を搾らない限り、流通過程でどうなってるか判らないからな」


「「それだ! 牛を飼おう」」


 ベルばらコンビに変な知恵を付けてしまったようだ。

たしかに新鮮な牛乳を得るならば牛を飼って乳を搾れば良かったのだ。



 2人は早速乳牛をカドハチ商会に発注した。

家畜としての乳牛はバターやチーズを製造するために普通に飼われていたのだ。

余った牛乳もヨーグルトに加工することで多少なりとも流通しているそうだ。


 ただ、素人には発酵しているのか腐っているのかは判断が付かず、あまり好まれてはいないようだ。

食べて大丈夫かどうかを博打で判断するには、あまりにもリスクが高く好まれるものでもなかった。

ほとんど自家生産で消費する程度のようだ。


「チーズもちょっと危険な匂いのがあるよね」


「ナチュラルチーズは、食べやすいように加工したプロセスチーズとは違うからね」


「まずチーズケーキを作ってみようか」


「チーズならば、牛乳よりも簡単に手に入るからね」


 それより、お前ら、スイーツを作れるほどの料理スキルがあるのか?


「ということで、三つ編み結衣ちゃんに来てもらいました」


 丸投げかよ!

まさか牛の世話もテイムスキルのある紗希サッカー部女子に任せるつもりじゃないよな。


「これで牛が来たら、戦闘奴隷の人に世話を任せて牛乳を生産してもらおう。

牛乳が手に入るようになったらレパートリーを増やせるね」


 やっぱり丸投げかよ!

なるほど、戦闘奴隷の人も、元は畜産に従事していた可能性があるか。

畜産といっても農家が牛を飼うみたいな感じだけど、飼った経験があるのは強い。

下手にベルばらコンビが世話をするより、牛も幸せかもしれない。


 そして、結衣が作ったチーズケーキは皆に好評でした。

結衣の料理スキルが神レベルなことと、俺も烏骨鶏の玉子を出して支援したからな。

砂糖も黒砂糖の状態から錬金術で精製したから、味が違うんだよな。

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