隣国と交渉してみる

第225話 遊び

 赤Tがやらかした瞬間を目撃してしまった俺は、赤Tの無事を確認するとそのまま視覚共有を解除した。

あそこまで大っぴらに亡命したからには、王国と隣国は緊張状態に突入したことだろう。

第一級の国際問題といったところだろう。


 しかし、これはこれでこちらにとっては好都合だった。

王国は、侯爵家と揉めた俺たちよりも、明確な脅威を抱えたのだ。

赤の勇者様1人とはいえ、その戦力が隣国に寝返ったとなれば、王国にも、王国の勇者たちにも影響が出る。

対隣国で勇者を派遣しようにも、洗脳が強い勇者しか使えないことだろう。

ミイラ取りがミイラになるという諺もあるが、洗脳が解けた勇者は当たり前だが王国に恨みを持つ。

そうなれば隣国の勇者を増やすことになりかねないと考えるはずだ。


 むしろ洗脳を強める方向に行くならば、その術者は闇魔法の暗黒面に捉えられ、非道の数々を行うように……。

あれ? それって王国のやりようそのものじゃないか?

まさか、王国の指導層そのものが闇魔法で洗脳をしていて、暗黒面に落ちたのではないだろうか。

王国、想像以上に危険かもしれない。


 そんな緊張状態が王国と隣国の間に成立してしまったため、その中間やや外れた場所に位置する温泉拠点は頗る平和だった。

魔の森は未だ危険地帯との認識のため、両国ともに手出しするだけの暇がないのだ。


 だが、そんな緊張状態など無視をして、温泉拠点は発展しつつあった。

カドハチ便は定期運航されているし、捕虜たちが作った畑も戦う仕事の無くなった奴隷たちが管理している。

温泉拠点の収入は、少量販売しているシャインシルクで賄われ、貿易額は完全に黒字だった。

今や温泉拠点は1つの領地かのように運営されつつある。


 ◇


「娯楽が足りない!」


 そんなある日、平和ボケしたベルばらコンビが急にそう主張しだした。


「それなら木工でリバーシでも将棋でも作れば良いじゃん」


 ラノベあるあるの遊びだ。

売れば儲かるというパターンだが、俺たちにはシャインシルクがあるため、そんなものを売っても女子たちの小遣いにもならない。

しかもトランプは過去の勇者が広めたという実績があり、実物が手に入る。


「そんな簡単な遊びは飽きたのだ。

せめて人〇ゲームぐらいの難易度のゲームがしたい」


「ボードゲームか」


 たしかに、自作の双六すごろくでもやると楽しいんだよな。

江戸時代には楽しすぎて経済が混乱するまでになって禁止されたと言うしな。


「作ろう!」


 こうしてベルばらコンビと巻き込まれた俺で、双六を作ることになった。

サイコロ、木工でサクッと出来た。

玩具のお札、紙はあるが、大量生産が……。

錬金術でハンコが出来た。

これを押して量産できる。

駒は適当に土人形を作れば良いだろう。


「じゃあ、盤面のマスの内容を考えようか」


「1回休みとか何マス戻るとかのマイナスマスは全体の3割ぐらいがいいかな?」


「楽しい方が良いけど、困難を乗り越えることもまた楽しいのよね」


「いろいろあったわね……」


 なぜかしんみりし出すベルばらコンビ。

続けてプラスマスを書いて行く。


「定番は何マス進むってやつだけど、お金を儲けるってやつもあるよね」


「じゃあ、〇〇をやっていくら儲けるってマスを作ろう」


「ちょっと、ブティックを開くって……。この世界じゃそんなことも……」


 あれ? ベルばらコンビの様子が変だぞ。


「帰りたいね」


「うん」


 うわ、ホームシックか!

楽しいことをマスに書いて行ったら、日本での生活を思い出しちゃったか。


「これ、売ればお金になるぞ。

だから、この世界で通用するように作った方が良いよ」


「「お金!?」」


 ベルばらコンビの目の色が変わった。

良かった、これで少しはホームシックになった気分が持ち直して……。


「どうして気付かなかった!」


「チート知識で金儲けは定番よね」


 ああ、ベルばらコンビはやっぱりベルばらコンビか。

金儲けと聞いて、ホームシックは吹き飛んだようだ。

だが、この世界、著作権の意識がないから、真似されてあっと言う間に売れなくなるぞ。

それに、あまり大っぴらにやると、召喚勇者かって疑われるんだからね。

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