第224話 赤T、突破する

 青Tことセバスチャンからの聞き取りもあり、王国の勇者は残り10名だと判明した。

いや、その数も消去法での結果だった。

ヤンキーチームは全員で15名いて、ブービーが亡くなり、さゆゆとハルルンが不要だと奴隷に売られていた。

そしてさちぽよは魔物氾濫の討伐中に亡くなったと聞いていたそうだ。

これに青T自身と赤Tの離脱が加わり、15名から6名を差し引いて残りは9名という計算だ。

そこに謎の勇者アーサーが加わって10名だった。

アーサーの正体は青Tもさちぽよも把握してなくて、謎に包まれていた。

おそらく前回召喚された勇者の生き残りではないかというのが、もっぱらの予想だ。


 青Tは親友の赤Tが放流されたと聞いても心を乱さなかった。

実は青Tとハルルンは付き合っていたらしく、ハルルンの命を救ったことを青Tにはとても感謝された。

それが赤Tを受け入れないという決定に不服を漏らさなかった要因だったと思われる。


 青Tはハルルンが生きていたことを喜び、献身的な介護をしていた。

本当に恋人同士だったのかは、さちぽよが保証してくれた。

ハルルンが正気に戻って違うなんて言い出されたら困るからな。

介護には着替えなども含まれるから、恋人同士じゃないと無理なものもあるからね。

まあ、なるべくメイドさんにやってもらうように言ってあるんだけど、青Tはハルルンを介護したくて仕方ないようだ。


 ◇


 侯爵家との交渉がまとまり、終戦の確約と賠償金の支払い、捕虜の引き渡しが行われた。

これでもう侯爵家が絡んで来ることは無くなったと言って良いだろう。

やっと温泉拠点ここにも平和が訪れるのだ。


 気になるのは王国に残った10名の勇者の動向だが、赤Tの従者だった騎士たちが帰ったことで、赤Tの反逆が上に報告されているだろう。

となると勇者の反乱が警戒され、残った勇者たちにも行動制限が課せられることになるはすだ。

さすがにこちらにちょっかいを出す勇者はもう出て来れないと思って良いだろう。

彼らを救出する手立ても戦力も持っていないため、俺たちはまだ何をすることも出来ないのだ。


 余裕が出来たことで、俺たちはノブちんたちの動向が気になっていた。

幸いなことに、実は赤Tの懐には、こっそり眷属を忍ばせておいたのだ。

それはトカゲ卵Lv.1から出て来た偵察用のトカゲだった。

その眷属はしのびカメレオン、隠密スキルを持つトカゲ種の魔物だった。

この忍カメレオンが姿を消すことで、赤Tに気付かれずに同行しているのだ。


 その忍カメレオンと視覚共有し念話を繋げることで、赤Tが動いた先での出来事を把握することが出来る。

赤Tは、しばらく隠れて様子を伺った結果、いま国境を通過するところだった。

王国は勇者が国外に出ようとするのをどうするつもりだろうか?

たぶん、まだ赤Tが裏切っているとはタイムラグのおかげで伝わっていないはずだったので、上手くやって欲しいところだった。


『これは赤の勇者様、どうなさったのですか?』


 赤Tの鎧は特別製のうえ真っ赤だったので、この国境警備の騎士でも赤の勇者は認識されていて、隠れて通るわけにはいかなかった。


『うむ。私は隣国へと視察に行くことになった。通せ』


『そんな許可は下りていませんが? いや、降りないはずですぞ?』


 そして、勇者が国外に出ることは厳しい審査があるため、滅多に許可が出ないのだった。


『強行突破!』


『あ、こら』


 赤Tは赤Tだった。

彼は何も考えずに、そのまま国境の検問を突破した。


『検問が突破された! 追え! 追え!』


 赤Tは、中央の緩衝地帯を素早く駆け抜けると、隣国側の検問も突破した。


『うわ、何をする!』


『俺は赤の勇者だ! 亡命を希望する!』


「うわ、やりやがった!」


 赤Tこと赤の勇者は、ここに一際目立つ方法で亡命したのだった。

当然、それは王国と隣国の間の国際問題になるのだった。

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