第209話 モドキドラゴン

 モドキドラゴンのモドキンに歩かせたのでは道の街道側入口に辿り着くのに何日かかるかわからなかった。

モドキというだけあって、その翼もダミーだと思われるのだ。

モドキドラゴンの外見は四つ足の西洋ドラゴンなので、翼は小さくてどう見ても飛べるものではなかった。


「チョコ丸で1日あれば行って戻って来れるから、俺が入口まで行くことにするよ」


「カブトンに運んで貰えばいーじゃん?」


 さちぽよが、何をわざわざという態度で言って来た。

忘れていたが、さちぽよはカブトンの6本の脚に抱えられて運ばれたことがあった。


「ああ、ああやって空を飛べば早いか」


 どう想像しても快適な乗り心地ではないが、時間が惜しいいま、背に腹は代えられない。

さちぽよの時は誘拐だったが、意図して運んでもらうのは有りだろう。


「ならばクワタンも運べるってことだよね?

さすがに護衛は必要でしょ?

ボクが行ってあげよう」


 紗希が俺と一緒に行く気になっている。

クワタンは虫卵から生まれたクワガタ型の魔物だ。

カブトンのように飛ぶことが出来そうだ。

だが、紗希よ。おまえ、その動機は飛んでみたいだけだろ。

まあ、確かに後方専門の輜重部隊とはいえ300人に囲まれたら1人では背中が心細い。

紗希にも来てもらった方が良いか。


「わかった。頼りにしてる」


 こうして俺と紗希はカブトンとクワタンにガッシリと抱えられて空を飛んだ。

その速度はすさまじく、2時間も経たないうちに道の街道側入口近くまで到達した。


「向こうから見えないここで降りる」


 俺の指示にカブトンとクワタンが従う。

道の上で水平飛行に入り、ふわっと垂直になったと思ったら、脚を広げて俺たちを解放した。

俺も紗希も立った状態でそのまま10cmほど落下して着地した。

凄いぞカブトン、クワタン。これなら何度でも乗りたい。


 ここら辺は巨大ムカデの縄張りだが、GKの配下たちが追い払い済みだった。

それを良いことに輜重隊が道を進もうとしたらしいが、そこはGKの配下たちが恐怖を巻き散らして阻んだのだそうだ。

もしかして、GKの配下たちを動かせば、侯爵軍輜重隊は逃げて行ったかもしれない。

まあ、それでは補給物資を手に入れられないから、ここに俺が来た事には意味があった。


 いつしか、この道の街道側入口には休憩用の広場が設けられていた。

その広場に荷馬車が50台ほど停められていた。

しかし、侯爵軍輜重隊はそれで全てではなかった。

街道の脇にもざっと100台の馬車が停められていた。

そのせいで街道は1車線しか使用出来ないようになっていた。

街道は余裕を持って馬車がすれ違えるように作られている。

それが路肩含めて停車している馬車に両側を塞がれ、2車線中1車線しか使えなくなっているのだ。


「これだけの物資なら、捕虜たちをある程度食わせて行けるな」


 この輜重隊を置き去りにしたからこそ、第3軍は進軍速度が速かったのだろう。

しかし、そのせいで食料に困窮し、略奪行為を行ったらしい。

尤も、必要に迫られたということならば同情の余地もゼロでは無かったかもしれないが、指揮官のジャスパーは婦女暴行も行っていて情状酌量の余地も無かったそうだ。


「遠慮することはない。

どうせこれらの物資は侯爵軍の捕虜たちの胃袋に入るのだ」


 それも誰も殺さずに手に入れようというのだ。

むしろ捕虜のところまで運んであげるので感謝して欲しいところだ。

え、輜重隊も捕虜にしないのかって?

ごく潰しを300人増やしてどうするのだ。

脅して逃がすだけで良い。


「眷属召喚、モドキン!」


 さあ、その巨体で脅して輜重部隊を逃亡させるのだ。

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