第210話 補給物資を奪う

 曲がりくねった道からモドキドラゴンが顔を出す。

それを目撃した輜重隊の兵から悲鳴が上がる。


 その様子を俺は偵察中のホーホーと視覚共有をして見ていた。

紗希に来てもらって助かった。

視覚共有中で隙だらけの俺を紗希が守ってくれるのだ。


『ドラゴンだ!』


『助けてくれーーー!』


 モドキンはモドキニセモノなのに、外観だけは凶悪で強く見える。

その見た目効果を存分に発揮してくれている。


『うわー! モドキドラゴンだ!』


 うん? なんでモドキドラゴンの名を知っていて、あんなに畏れるのだろうか?

自分たちで勝手に怖ろしいドラゴンだと思ってくれていたはずなのに、モドキニセモノと知っていて畏れるっていったいどういうことだ?

その疑問は、パニックになって逃げ惑う輜重兵たちによってかき消された。


 よほど余裕がなかったのか、荷馬車をその場に置いて逃げてしまっている。

広場に停車していた50台の荷馬車は馬を外して休憩させているところで使えなかったのもあった。

その馬たちがモドキンが現れたのを見てパニックを起こして逃げてしまった。

これで50台の荷馬車に積まれている補給物資を確保した。


 次に街道脇に停車している荷馬車は、馬を繋いだままだとはいえ、前後を荷馬車に挟まれていたために身動きがとれなかった。

そのうちモドキンを見た馬が暴れて前の荷馬車に乗り上げるという珍事が発生した。

馬もパニックになると、それが自殺行為だろうが平気でやってしまうのだ。


 荷馬車の御者は、危険が迫ったら逃げて、後で荷馬車を回収しに来れば良いというスタンスだった。

そのおかげで、100台ほとんどの荷馬車が置き去りにされた。


「よし、そろそろ回収のときだ」


 俺はその全てをアイテムボックスに収納した。

俺のアイテムボックスは異常で、短い時間であれば生物を入れることが可能だった。

これは緊急事態以外では個人的に禁止している能力だった。

訳の分からないスキルによって、生命にもしもの事があるといけないからだ。

今回は、早急に回収する必要があったため、馬ごと回収させてもらった。


 何台かの荷馬車は、騒ぎの中心から遠かったため、西側の隣国へと続く道を逃げることが出来た。

橋へと至る東側の街道の方にも何台か逃げられた荷馬車がもあった。

それら以外は全て回収したことになる。


「カブトン、クワタン、撤収だ。

モドキンは、そのまま脅しておいてくれ」


 俺と紗希は荷馬車の回収が終わると、またカブトンとクワタンに運んでもらうのだった。

ちなみにモドキンは侯爵軍主力の到着を待たせるために、森の浅い部分に待機させた。


 ◇


 カブトンとクワタンに抱えられて飛ぶと、そのまま温泉拠点に戻って来た。

そして、俺は捕虜収容所に赴き、荷馬車をマジックボックスから引き出して、そのまま置いて来た。


「この食料でなんとか凌いでほしい」


 俺が輜重隊の荷馬車を捕虜に渡すと、捕虜たちが困惑した。


「まさか、あいつらを殺したんですか?」


 騎士の1人がぽつんと呟いた。

俺は、その言葉がちょうど耳に入ってしまっため、誤解を解くことした。


「いや、全員モドキドラゴンで脅して逃がしたよ」


「そ、そうですか」


 俺は、その騎士の様子がおかしい事に気付いた。

確かに見た目は怖いが、モドキなのだ。

そこまでとは思っていなかったのだが、彼らはモドキドラゴンを恐れているようだった。


「馬の世話も頼むぞ」


「了解しました」


 捕虜たちは、命の危険もなく、拷問や虐待もない収容所生活に慣れが出て来たようだ。

おそらく大陸中を探しても、ここほど待遇の良い収容所は他になく、安心してくれているのだろう。

俺が中に入っても、もう誰も襲って来ることはなかった。

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