第207話 収容所を建てる

 兵たちが厭戦気分になっていたのと、副官への信頼度が高かったおかげで、侯爵軍の武装解除は思った以上に順調に行われた。

まあ、T-REXとモドキンの巨体が見張っていたら、誰も反抗しようとは思わないだろう。


「おい、あれ暴君竜ティラノ猛毒王モドキだよな?」


「やべぇ、あの2匹だけで残りの2千だって殲滅可能だぞ」


「いや、モドキ1匹の毒で終わりだろ」


「あのボンボンはなんで暴君竜ティラノから逃げられると思っていたんだろうな?」


「あの自信がどこから来ていたのかわからんな」


「てっきり俺は、青の勇者様並みに強いのだと思っていたぞ」


「無謀だったな」


「ああ」


「護衛に残されなくて良かった」


「あそこは騎士様たちで固めていたからな」


「さすがに何人かは瞬殺されたようだからな」


「いや、生き残っていたのが不思議だよ」


「手加減されたな」


「ああ」


 兵たちが何か言っているが良く聞こえなかった。

俺はその様子を屋敷の3階屋上から見ていたからだ。

だが、2匹が畏怖されていることだけは、その態度で良く判る。

モドキンもドラゴンじゃないのに図体だけは凶悪なドラゴンに見えるからな。


「武器防具はあちらに集めさせた。

これからどうするつもりだ?

捕虜の身の安全は保障してくれるのだよな?」


 副官が不安そうな顔をしながら【音声拡大】の魔法で問う。

その声色が上ずっていたのは、俺が2匹に兵たちを襲わせると思ったからだろうか。

場所的に魔の森に放り出されるとでも思っているのかもしれない。

俺は安心させるために【音声拡大】の魔法で返答する。


「安心しろ、まずそこを壁で囲む」


 俺はゴラムたちを眷属召喚し、塀となる壁を建てさせた。

T-REXとモドキンが一瞬で壁の外に見えなくなる。

それぐらいの高さの壁を建てる。

武器防具を集めてもらった場所も壁の外となった。

あとで奴隷たちに回収させよう。


「うお、こんな一瞬で!」


「次に雨風をしのぐ宿舎を建てる」


 壁で囲い終わると、内部には収容所を建てる。

10人部屋を20部屋作る予定だが、とりあえずは雑魚寝で勘弁してもらう。


「最初は数が揃わないかもしれないが、我慢してくれ」


「いや、屋根がある建物で過ごせるだけ感謝する」


 兵たちの身の安全が確保されるのが解ったのか、副官が安堵の表情を浮かべる。

それだけ魔の森に対する恐怖心があったのだろうな。

自分たちの仲間を500人も刈り取った森なのだからな。


 いや、今更だが500人も死んだという事実を再確認するとちょっと来るものがある

だがこの世界で生きていくためには、殺しに来たら殺すぐらいでないとやっていけない。

全ては俺たちを襲わせようとした侯爵が悪いのだ。

そう割り切って行くしかない。


「食事は提供する。

君たちは侯爵家と交渉のうえ解放するつもりだ。

それまでは収容生活になるが我慢してくれ」


 俺がそう言うと、皆が安堵の表情を浮かべた。

無事に生きて帰れそうだと感じたんだろう。


「それから、その中で畑を作ってもらう。

どれぐらいの収容生活になるかわからないが、一定期間以上になれば食料不足が懸念される。

自分たちの食い扶持の何割かは生産してもらう。

後で農機具や水の魔道具も渡す。励んでほしい」


「それぐらいは率先してやろう」


「諸君らの馬も世話するように。

後で飼葉を刈る人員を出してもらいたい」


「了解した。

馬には先に水をやりたい。

桶は馬車にあるが、水がない。

水の魔道具を先に渡してもらえないか?」


「手配しよう」


 身の安全確保に食の事で安心したのだろうか、壁の所に徐に立つ兵がいた。

そして、その場で排尿した。


「ああ、中の衛生管理はきちんとやってくれ!

立ちション、野グソ禁止だ!

ゴラム、標準トイレと浄化設備を先に作れ!」


 この世界、まだまだ衛生観念が行き届いていない。

馬などが道の上でしたら、その場で出しっぱなしだし、下水道が完備している街も少ないと瞳美ちゃんから聞いた。

その場でされると地下の温泉の水質に影響を与えかねない。

そんなばっちい温泉には入りたくない。


 こうして、なんとか収容所が完成した。


「この建設速度、そして使役されている魔物、俺たちはとんでもない相手を敵にしていたようだぞ」


 副官が何か言っていたが、遠くてよく聞こえなかった。

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