第201話 侯爵軍迎撃1

 バーリスモンド侯爵軍が動いたとのオールドリッチ伯爵家からの情報は、直ぐにカドハチ便によって俺たちに伝えられていた。

侯爵軍は3軍からなり、各軍1千人の兵を擁するそうだ。

つまり合計で3千の軍だということだった。

オールドリッチ伯爵家も領内通過時に出来る限り足止めすると約束してくれていた。


 俺はカドハチ商会から追加の奴隷を買い、戦いの準備に忙しくしていた。

奴隷たちはマドンナの治療を受けたあと、役割分担と訓練、そして巨大カマキリ討伐によるパワーレベリングを行っていた。


 奴隷たちも、自分たちの役割が見張りと遊撃隊が来るまでの遅滞戦闘だと知り、肉盾ではないと安堵の表情を浮かべていた。

主な迎撃は来援した遊撃隊の仕事であり、無理せず援護すれば良いのだと把握した。

そして、いつでも動けるようにと3交代制の任務時間に分かれ、それにも慣れて行った。


 ついにバーリスモンド侯爵軍が森の街道側入り口までやって来た。

ホーホーの偵察によると、その数700人。

オールドリッチ伯爵の妨害工作により、どうやらここまで辿り着いた軍は3軍中1軍のみだったようだ。

その数1千人のはずが300人減っているのは、先を急ぐために輜重隊を置き去りにしたからだそうだ。

思ったよりも速かったのは全軍の集結を待たず、そのようにして機動力を確保したかららしい。


 この情報はギリギリまで報告に来てくれたカドハチ商会の手代ケールにより齎された。

そのためケールは戻ることが出来ず、この保養地で匿うことになった。

さすがに、そこまでのことをしてくれたケールを信用しないわけにはいかず、今は客間に逗留してもらっている。

俺たちが負けたら巻き添えを喰らうのだ。その覚悟には報いなければならないだろう。



 まず最初にバーリスモンド侯爵軍を迎撃するのは巨大ムカデだ。

いや、やつを眷属化はしていない。しかし、ある方法を使うと意外と扱い易かったのだ。

この巨大ムカデ、住み家を道の街道側入り口付近と決めたようで、いつもその付近にいた。

カドハチ便が通るときはGKの配下の気配によって巨大ムカデを遠ざけ、安全を確保していた。

つまり、GKの配下を使って逆にけしかけることも可能だったのだ。


 GKの配下にけしかけられた巨大ムカデは、都合よく侯爵軍の騎馬隊を襲った。

騎馬隊は、森の中へと逃げたが道なき森の中ではその機動力を発揮できず、蹂躙され、散り散りとなってしまっていた。

そして巨大ムカデが次に狙ったのは、隊列の中央に陣取っていた立派な箱馬車だった。


「あれが指揮官の馬車か?

どうやら、貴族らしいが、まさか侯爵自身が出張って来たのか?」


 そう思っていた俺の予想は外れたようだ。

ホーホーと視覚共有して得た映像には、派手な鎧下の若い男が箱馬車から身を乗り出すところが映っていた。

どうやら、侯爵家に所縁ゆかりのある人物のようだ。

侯爵の年齢――ユルゲンの兄だということから推測した――からすると、孫にあたるのだろうか?

いや、この世界、爺さんが若い娘に子を産ませることもあるようなので、息子かもしれない。

逆に俺たちの年齢で子持ちも居るので、そこらへんは判り辛いのだ。


 その人物が指揮をとり、重装歩兵を並べて守りを固めると、その後ろから魔導士による魔法攻撃を巨大ムカデにし始めた。

その魔法攻撃を嫌がり巨大ムカデは逃げ出した。

まあ、騎馬隊を100騎強削ったので良しとしよう。


 次に迎撃に出たのはGKの配下たちだ。

馬車1台分の狭い曲がりくねった道を進軍する隊列の長く伸びた侯爵軍を、GKの配下は死角から襲い続けた。

特に俺は食料を乗せた馬車を重点的に狙わせた。

これは侯爵軍が輜重隊を置き去りにしているという情報からの作戦だ。

食べ物が無くなれば戦えなくなるのは道理だろう。

後から来る輜重隊も潰せば勝ち筋が見えるからな。


 そのようにして少しずつ侯爵軍の戦力を削りつつ、休憩地に到達した侯爵軍は500人にまで減っていた。

どうやらここで野営をするようだ。

ここ以外に開けた土地は無いからだろう。

しかし、こここそが俺が仕掛けた罠のど真ん中だとは知らなかったようだ。


 前日、俺は休憩地の周囲に眷属卵Lv.1で召喚したゴブリンの卵を配置しておいたのだ。

その数600×2。実は一昨日に召喚した卵600をマジックボックスに入れて時間停止で保存していたのだ。

これは、1200の卵が同時に孵化するようにタイミングを合わせるためで、その目論見は上手く行った。


 実験で魔物の卵を時間停止しても死なないことがわかった。

これは時間経過庫に卵を入れても大丈夫だったことから再確認した結果だ。

ラノベの常識から出来ないと思い込んでいたので目から鱗だった。

それを利用して、MPが余っている時にゴブリンの卵を確保していたわけだ。

そして孵化する前の卵は【探知】に引っかからないことが判明していた。

つまり、【探知】で何もいないと思っていた所にはゴブリンの卵が設置してあったのだ。

その卵が一斉に孵る。

小さな卵から孵ったとたんに、その大きさの卵から孵ったとは思えないほどにゴブリンは大きくなる。

これもたまご召喚の不思議の一つだが、その検証は後にするべきだろう。

この卵孵化作戦により、侯爵軍は一瞬にして1200のゴブリン軍に囲まれることとなった。


 今回指揮をしているのは、どうやらこの軍の副官のようだ。

思ったより有能なようで、組織立って迎撃を行い、中央の箱馬車までゴブリンが到達することは無かった。


 ゴブリンを殲滅した侯爵軍がやっと休憩に入る。

その隙を突く形でラプトルの卵が孵る。

これは眷属卵Lv.3の卵なので、2日分で138匹分用意するのが精いっぱいだった。

これは2日分育てた後の卵をアイテムボックスで時間停止し、昨日孵化タイミングを計って設置しておいたものだ。


 油断していた侯爵軍にラプトルがその俊足を生かして襲い掛かる。

その俊足で、今度は簡単に中央まで突破する個体が現れた。

中央の重装歩兵と呼ばれる守りの要をラプトルが狩っていく。

ラプトルが全て倒された時、残った侯爵軍の半数は倒れていた。


 その後、血の臭いで予め放ってあった魔物たちが寄って来て、また侯爵軍の数を減らした。

朝が来るまでに、侯爵軍はその数を200まで減らしていた。


「もう既に500人が犠牲になった。

これを見れば、まともな指揮官ならば引き返すだろう」


 そう思っていた俺だったが、この軍の指揮官はそんな予想を簡単に外してくれた。

なんと、残り200人で進軍を開始したのだ。


「まさか、たまたま魔物にやられただけだと思っているのか?

たしかに残り2千が来れば全滅とはいえなくなるが……」


 どうやら魔物の被害は俺たちの力によるものではないので、俺たちを倒してチャラにしようという魂胆のようだ。

このまま配下を使って全滅させるか、それとも俺たちの実力を見せた方が良いのか……悩み所だ。


「とりあえずT-REX、いっとく?」


 ここ数日で巨大になった眷属のT-REXをちょっとけしかけてみよう。

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