第200話 侯爵軍進軍3
Side:第3軍副官バージル
中継地点の休息地と呼ばれている広場は、軍が野営するには狭すぎた。
まあ、ジャスパー様の馬車が不自由なく停められたのは良かったのだが、その分周囲から護衛が減るのは困りものだった。
。
尤も、この森の木々の間隔はある程度広いため、木を伐採せずとも森の中に馬車を停めることが出来た。
森を貫くこの道も、馬車が通り易い場所を選んで整備しただけのようで、大木を避けるために蛇行しながら進んでいた。
私はジャスパー様を守るために重装騎士隊、騎獣隊、騎馬隊、歩兵隊の馬車と何重にも広場を囲むように兵を配置してこの夜を迎えていた。
「おい、この飯はなんだ!」
ジャスパー様が夕食を見て怒鳴っている。
夕食のメニューがお気に召さないようだ。
それはそうだ。ジャスパー様が輜重隊も置いてきたため、既に食料は尽き、更に街で手に入れた――奪ったと言った方が良いかもしれないが――食料も魔物に襲われ失われ、僅かなまともな食料はとっくにジャスパー様の腹の中だった。
つまり食料は既に現地調達した物しか無かったのだ。
「もうこれしかないのです。
兵はもっと酷い食事メニューなのですよ」
「はあ? 俺と兵の食事が違うのは当たり前だろ?
それに、なんでこんなのしか無いんだよ。
誰が食料輸送の責任者だ?! 処分してやる!」
いや、輜重隊を置いて行く命令を出したのはジャスパー様ではないですか。
それに街での補給が上手く行かなかったのも、それまで移動して来た街々でのジャスパー様の素行のせいなんですよ?
私はため息をつきながらジャスパー様をなだめる。
「責任者は補給物資と共に魔物に喰われました。
これで精一杯なのです。我慢してください」
「そ、そうか。しょうがねぇなぁ。
そうだ、明日には保養地に着く。例の貴族から食料を奪えば良いのだ」
魔物に喰われたという言葉が思いの外刺さったようで、ジャスパー様も大人しくなった。
これで明日の朝まで大人しくしてくれれば良いのだが……。
食事が終わり、ジャスパー様は箱馬車の中でお休みになった。
ジャスパー様の箱馬車は特別製で、中に小さいながらもベッドが備え付けられている。
まあ、街ではそのベッドで暴れていたわけだが、さすがに森の中、今日は大人しく寝るようだ。
私は魔術師を呼び、箱馬車に【防音】の魔法をかけてもらった。
これで夜中に何があろうともジャスパー様が目を覚ますことはないだろう。
目を覚まされて余計な指揮でもされると面倒だからな。
「敵襲!」
休息地の広場を取り囲むように配置した輪の一番外側、歩兵隊の馬車の方から敵襲の声は上がった。
「探知魔法はどうした!?」
私は【探知】魔法で周囲を警戒していた魔導士に問い質す。
「突然魔物が我々を囲むように現れました!」
有り得ない。【探知】魔法を定期的に使っていれば、魔物が接近する前に見つけることが出来るのだ。
魔物が突然現れるなど、全魔物が【俊足】か【隠密】のスキルを持っていない限り有り得なかった。
我々は既に囲まれているようだ。
我が軍500を囲むとは、いったいどれほどの数の魔物なのだろうか?
しかも魔物が組織立って行動するとは、まさか上位個体がいるのか?
「迎撃せよ。中央の馬車に近付けさせるな!」
魔物はゴブリンだった。
つまり、【俊足】も【隠密】も持っていないはずだ。
その数1千強。我が方を倍するゴブリンが一斉にこちらへと攻撃を仕掛けて来たのだ。
しかし、そこはゴブリン。我が方も損害を出したが、迎撃することには成功していた。
「敵襲! ギャーー!」
ゴブリンを全て倒し、やっと一息ついた頃、次の襲撃があった。
その魔物は素早く、疲弊した兵の間を突破して中央へと至っていた。
「
それは凶暴な捕食者として有名な
俊敏で、その爪や牙は剣よりも鋭く強靭だった。
重装歩兵など
100匹以上の
撤退を進言するためにジャスパー様を起こすか?
いや、それをやったら、私は身の破滅だ。
キレたジャスパー様に私は解任されてしまうだろう。
そうなると、ジャスパー様に指揮される兵たちが不憫だ。
私が辞めさせられるわけにはいかない。
その後、血の臭いに引きつけられた様々な魔物が寄って来たが、かろうじて迎撃することに成功した。
こうして私は一睡も出来ない夜を過ごしたのだった。
「ふぁ~あ。魔物が襲って来るかと思ってよく眠れなかった」
朝、寝ぼけ眼のジャスパー様が起きて来た。
ジャスパー様の安眠のために、300の兵が亡くなったというのに眠れなかっただと?
私は怒りを押し殺すのに必死だった。
「よーし、朝食後、目的地に出発だ!」
ジャスパー様は、自分の軍が何人残っているかなど気にも留めすに進軍を命じていた。
いっそ、こいつを殺して魔物のせいにして、残る兵と撤退しようかという考えが頭を過ってしまった。
しかし、そうやって戻っても、ジャスパー様を失った責任で侯爵閣下に全員が処刑されてしまうだろう。
ならば、残り200をもって、例の貴族を討った方が生き残れる確率が高いかもしれない。
例の貴族は配下含めて10人ぐらいらしい。
ならば、我々が苦しめられた魔物の群よりも対処は楽なはずだ。
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