第199話 侯爵軍進軍2

Side:第3軍指揮官ジャスパー


 ロイドのおっさんがちんたらしていやがるから、俺の軍だけで進軍することにした。

目的地は国境の街ディンチェスターの先にある魔の森、その奥地に存在するという貴族の保養地だ。

足の遅い輜重隊を置き去りにすれば数日で到達可能だろう。

ロイドのおっさんは知らないだろうけど、これを電撃戦というのだ。


 それにしても、オールドリッチ伯爵領が非協力的でムカつく。

たかが領兵1人と平民の商人を殺したぐらいで、我が侯爵家を裏切るとは、いっそ俺の軍でこの伯爵領を制圧してやろうか。

他国のクソ貴族を殺した後で殺ってやっても良いかもな。


「閣下、街の者が食料と水の補給を渋っております」


「はあ? 平民が俺の進軍を邪魔する気か?

侯爵家に対する不敬罪だ。かまわん、殺して奪え」


「しかし……」


「俺の命令が聞こえなかったのか? お前が死んでもいいんだぞ?」


「わかりました!」


 まったく、使えねー奴だ。

俺の手を煩わせるんじゃねーよ。

お、すげー美人じゃん。


「おい、町娘、今宵の夜伽を務めよ」


「いやーーーーーーーーーーー!!」


 俺は町娘の腕をがっちり掴むと箱馬車に連れ込んだ。

将来侯爵家の跡取りになる俺に抱かれるなんて、平民娘には感謝してもらわないとな。



 ◇



「ここが魔の森の入り口か。普通に道があるじゃねーか」


 ディンチェスターの連中が散々危ないと言ってやがったが、なんでこんな所に入っただけで命の保証ができないんだ?

臆病者どもめ。


「進軍!」


 騎馬隊3百頭が進み、その後ろから俺の乗った箱馬車が護衛の近衛騎獣隊を従えて森の道へと進む。

その後ろから兵を積んだ馬車が続く。


 と、突然俺の乗った箱馬車が止まった。


「おい、どうした!」


 俺が箱馬車から顔を出すと、前方を進軍していた騎馬隊にジャイアントセンチピードが襲いかかっているところだった。

数百対の足を動かし、グネグネと騎馬隊の間を蹂躙し、その牙と毒で騎馬隊に損害を与えていた。

馬が道から外れられないことを良いことにジャイアントセンチピードは暴れまわっていた。


「ま、魔物の襲撃です……あれは災害級魔物です!」


 騎馬隊は既に散り散りになっていた。

冗談じゃない、次は俺ではないか。俺の肉盾はどこだ?


「重装騎士隊、前へ!

魔導部隊、魔法攻撃を開始せよ」


 重装騎士隊が大盾を構えて俺の周囲の守りを固めた。

そして魔導部隊がジャイアントセンチピードに魔法攻撃を開始した。

ジャイアントセンチピードは、魔法を嫌がり逃げて行った。

しかし、その時には既に俺の兵は大量に失われていた。


「ちくしょう、なんでこんなところにあんな魔物が!」


「それは、ここが魔境だからでは?」


 副官が余計なことを言う。

知ってるわ!

俺が言いたいのは、あんな魔物がいて、なんで普通に道が整備されているのかってことだ。

商人が行商するために通っていた安全な道なのではないのか?


 この後、俺は重装騎士隊と魔導部隊を展開しつつ道を進むことになった。

いつ魔物が襲ってくるかわからないからだ。

徒歩の歩みは電撃戦とは正反対で遅々として進まなかった。


 ◇


 やっと中継地点と言われている広場に出た。

まあ、広場といっても馬車10台も停められない広さだが。

そこで全軍の点呼をとったところ、我が軍の総数は500人にまで減っていた。

まあ、その減ったうちの300人は置いて来た輜重隊なんだけどな。

つまり、単純に戦闘要員が200人死んだということだった。

ジャイアントセンチピードの犠牲者は100人少しだったはずが、いつの間にそこまで減ったのだ?

そういえば、ここにはジャイアントコックローチも生息しているのだったな……。


 俺は得体の知れない存在の影に怯えながら夜を迎えるのだった。



 ◇  ◇  ◇



Side:バーリスモンド侯爵軍ロイド将軍


「はあ? ジャスパーがオールドリッチ伯爵領の街々で略奪と婦女暴行をはたらいただと?」


 ジャスパーは何をやってくれたのだ。

貴族家の土地は、全て王家からの預かりもの、全ての民は王の民だぞ?

それはオールドリッチ伯爵家に対する攻撃であると同時に王国に対する攻撃、つまり謀反を疑われることになるのだぞ?


「それは将軍の指示か?」


 オールドリッチ伯爵家の使者がキツイ目つきで問い質して来た。

俺に対する敬意など微塵も感じさせない態度だ。

本来ならば王国の上級職である俺に対する態度ではないが、ジャスパーのやらかしたことが俺の命じてのことかと疑われているのだから仕方がない。


「いや、全くもって預かり知らぬ事だ」


「それならば、将軍には反乱の意志なしとして、ここに留まってもらうがいかがか?」


「むろん承知だ。国への証言が必要ならば、直ぐにでも文をしたためよう」


 まさか、あの言い訳の報告を有効活用することになるとは思いもしなかったわ。

あれのおかげで命拾い出来そうだ。

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