第198話 侯爵軍進軍1

Side:バーリスモンド侯爵軍ロイド将軍


 我が侯爵家所属の騎士隊――黒狼隊が全滅したとの知らせを受け、私は侯爵閣下から軍の出撃を命じられた。

侯爵閣下直々の命令ではあったが、私は乗り気ではなかった。


 黒狼隊とは騎士とは名ばかりの汚れ仕事を専門とする部隊だ。

その構成員も騎士としての体裁さえも整っていない野盗紛いの連中だった。

いや、あれは本物の野盗あがりを集めたのではないだろうか?

隊長はスウェインといったか。下衆な笑いを浮かべた騎士の品格の欠片もない男だった。


 そんな奴らの不始末を知らぬ存ぜぬで責任転嫁したために、侯爵家のメンツを守らねばならなくなり、わが軍は出撃することとなったのだ。

なんと無駄なことだろうか。

討伐対象は10人程度だという。

それに対して3千の軍を動かすなど、そちらの方が恥ずかしいとは思わないのだろうか?


 だが、これも任務。

その人数でオーガ以下200の魔物を殲滅したとのことだから、手を抜くわけにもいかないだろう。


 魔境と呼ばれている魔の森までは、隣のオールドリッチ伯爵領を通れば直ぐだ。

伯爵とは親しい間柄だとのことで、侯爵閣下は弟のユルゲンを家令に送り込んでいた。

それぐらい強い友好関係が結ばれているならば、補給物資も最小限で向かうことが出来そうだ。



 ◇



 進軍を続けるとオールドリッチ伯爵領との領境で軍の足が止まった。


「何事だ!」


「は、検問とのことです」


「バカな、我々は同じ王国の味方だろうが!」


「それが、黒狼隊がオールドリッチ伯爵家の兵を殺害したとかで、検問が厳しくなっているようです」


 あのバカ、やりやがったな。

あいつらが後ろ暗い仕事を引き受けていたという話は知っていた。

つまりその証拠を残し、せっかく友好的な領主だったのに喧嘩状態ということか!


「ユルゲン様が家令をしているはずだ。話を通してもらえ!」


「それが、そのユルゲン様が亡くなったことが今回の発端らしいのです」


 ああ、ユルゲンもバカだったわ。

これは時間がかかりそうだぞ。



 ◇



 やっと第3軍千人が領境を越えることが出来た。

しかし、また後ろでは第2軍が検問で足止めされていた。

私は殿しんがりの第1軍に陣取っていたため、未だに待たされている。


「我々第3軍だけでも進軍します!」


「おい、待て!」


 最悪だ。第3軍の指揮官はジャスパー、侯爵の孫だ。

若造だが、その身分で指揮官の座についた無能だ。

身分を嵩に着て、俺の命令にも従わない。

どうして、侯爵家の人間はこんなバカばかりなのだ。

転職出来るものなら辞めてやりたいわ。


「侯爵閣下まで伝令! ジャスパー殿が先走ったと。

我らの進軍が訳あって止まっていることもお伝えしろ」


 奴が死んでも俺が責任を負わされないようにしておかないとな。

侯爵閣下に対してではなく、転職先への言い訳としてな。

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