第197話 一方、他の勢力は?
Side:カドハチ商会手代ケール
「会頭、お貴族様は奴隷をもっとご所望のようです」
「そうか。やはりあの侯爵軍とやり合う気なのだな。
ならば、我が商会はお貴族様を全面的に支援するぞ。
なんといっても、例の侯爵家の騎士隊は、うちの従業員を殺害した仇だからな」
お貴族様は、殺害された従業員の遺体をアイテムボックスで大切に保存しておいてくださった。
その遺体の状況は寝込みを襲われたという様子が良く見てとれた。
つまり中継地で就寝中に殺害されたのだ。
中継地には例の侯爵家の騎士隊が向かっていたことは、すれ違った戻りの荷馬車が確認している。
その夜、事が行われたに違いない。
私は、それを思い出し決意を新たにする。
「はい!」
私もお貴族様のご恩に報いるように働かせてもらおう。
会頭は、私の報告の前から準備をされていた。
そこには既に奴隷を積んだ馬車が10台も並んでいたのだ。
「また傷病奴隷ですか?」
「そうだ。あのお貴族様は、見張りと盾となる奴隷を望んでいるのだ。
しかし、生きの良い奴隷を死地に追いやるのは忍びないとお考えになるお優しい方なのだ。
傷病奴隷ならば、その寿命は短い。
我らは少しでもお貴族様の心を安らかにしてさしあげるのだ」
私は食料とともに、新たな奴隷を運ぶ任に就いた。
◇ ◇ ◇
Side:モーリス隊長
「主君、例の貴族様は本国の助力なしで侯爵軍と戦う道を選びました」
「誠か! ならば皇国との全面戦争は避けられたのだな?」
「はい、しかし戦力不足に悩まれているようで、戦闘奴隷、しかも傷病奴隷をカドハチ商会に発注しておりました」
全面戦争を回避するために私毎を頼んだせいで、あのオーガ率いる群を無傷で殲滅したお貴族様でも戦いに不安を覚えられたようだ。
「つまり、目と盾とするつもりだな?」
「対集団戦には必須でしょうな」
主君の仰るのは、広大な敷地を見張る目と、いざという時の肉盾に奴隷を使うつもりだということだ。
私も同意見だった。
千人単位を相手にする対集団戦、それを10人で行うのは不可能だ。
一瞬で千人を殲滅する力が無い限り、その攻撃は何日にも渡るだろう。
人間はそれだけの期間を不眠不休で戦えるようには出来ていない。
そのための目と盾が必要なのだろう。
「侯爵軍は我が領地を通らざるを得ない。
ならば、その手続きを遅延させ、侯爵軍をばらけさせえてくれよう」
「は、その旨手配いたします。
しかし、もし侯爵軍が暴れたら?」
「そうなればむしろ好都合だ。
その時は、反乱の疑いありと王宮に使者を出し、王の采配あるまで門を閉めて足止めしてやるわ」
「領兵どもも、仲間を殺された恨み、忘れていませんからな」
◇ ◇ ◇
Side:バーリスモンド侯爵
黒狼隊の奴らがしくじりおった。
たかが他国の貴族の避暑地が奴らに落とせぬとは思いもせんかった。
しかも、その不始末の証拠を握られるとは言語同断じゃ。
その件で、オールドリッチ伯爵家領兵殺害にどこかの商会の従業員殺害で抗議が来おった。
全て捏造、我らの方が被害者であると突っぱねたが、王家も信じておらぬようじゃった。
だが、これ以上の追及は防ぐことが出来た。
問題は侯爵家としての立場じゃ。
我らの方が被害者と宣言したからには報復の軍を出さねばならん。
よくよく思い起こせば、発端は愚弟のユルゲンの不始末じゃ。
なんであいつのために軍まで出さねばならんのじゃ。
こんなことになるならば、仇うちじゃと黒狼隊を出すのではなかった。
何がユルゲンの欲を刺激したんじゃ?
何かあるのであれば、それを奪い、戦費に替えようぞ。
侯爵軍3千、動かすだけで莫大な戦費が消費されるのじゃ。
少しでも補填できなければ困るぞ。
それにしても、他国の貴族とはいったい何処の国のことじゃ?
あの魔境と呼ばれる不干渉地域に手を出すとは、よほどの戦闘力が……。
何か嫌な予感がして来たぞい。
もし、あの国の関係者ならば、我が侯爵家は御取り潰しでは済まないではないか!
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