第193話 やんごとなきご身分って誰のことだよ
「侯爵家の処分のことか?」
「はい」
モーリス隊長の暗い顔で、状況が思わしくないことが容易に想像できた。
一瞬間が開いたが、モーリス隊長は意を決したような表情で続きを口にした。
「侯爵家は、全ての関与を否認いたしました。
むしろ侯爵家の調査隊は襲われた方だと主張しております。
そして、お貴族様と我らが共謀して
それが理由で調査隊が殺害されたとまで言い出す始末です」
「明確な証拠が無ければ、私と侯爵家のどちらが仕掛けたかわからんということだな」
なるほど、この世界はそうやって正義が権力によって歪められる世の中ということか。
自国の侯爵家と訳の分からない外国の貴族の争いとなると、王国がどちらを信用するべきかは明白だろうな。
「我が主君も配下が殺害されており、状況証拠含めて証言を提出いたしましたが、爵位の差によりその証言は重要視されませんでした」
身分が法を捻じ曲げるというとことか。
勇者召喚も利己的に行ったようだし、さちぽよたちの扱いを見れば、王国に期待したのが間違いだったのだろうな。
「唯一対抗出来るとしたら、お貴族様の祖国とご身分なのですが……それを公表するのは危険と我が主君が判断し、悔しながらそれ以上の抗議は断念いたしました」
はあ? 俺たちは偽貴族だから、祖国や身分なんてあるわけがない。
モーリス隊長は、いったい何を勘違いしているんだ?
「皆まで言わないでください。
それを聞いてしまえば、複雑な政治案件となってしまいますので」
どうやら、俺の様子に俺が正体を現すのではないかと危惧したようだ。
いったい、誰と勘違いしているんだ?
「私どもがお貴族様のやんごとなきご身分を知ってしまったら、王国と
公国? 皇国? 知らなんでだけど、何?
俺たちの身分が戦争のきっかけになるの?
誰と勘違いしてるの?
どうやら、俺は何処かのやんごとなきご身分の御方と勘違いされているようだ。
それって、そっちから名を騙ったと思われたら、もっと
「いや、いや、
「またまた」
いや、困るんですけど!
どうやら、その勘違いが表に出ると、戦争一直線のヤバイことになるようだ。
「ご安心ください。
我らは義によって動いております。
お貴族様のご身分は必ず秘匿いたします」
だから、誰なんだよ!
その誤解を解いて欲しいところなんだけど?
「残念ながら、侯爵家への処分までは至ることが叶いませんでした。
しかし、我が伯爵家は、侯爵家の要請を全て断ることに決めております。
もし、侯爵家の軍が攻めて来ても、伯爵家はそれには組しません。
カドハチ商会共々便宜も図らない所存です」
あー、つまり侯爵家の軍が攻めて来ることは確定なのね。
「なので、お願いです。
どうか本国に援軍要請を出して全面戦争にするのだけは、勘弁していただきたい。
お貴族様のオーガ率いる群を倒せる戦闘力ならば、撃退も可能かと愚考いたします」
カドハチと共にというからには、補給などの便宜を図らないということだろう。
大軍を動かすのに補給がままならないとなれば、俺たちが勝つ見込みは高い。
しかし、援軍要請を出したら全面戦争って、いったい俺を誰だと思っているのだろうか?
それと勝った後、次は国軍だなんてことは無いよね?
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