第187話 竜卵孵る1

 竜卵の大きさは結衣の身長と同じぐらいだった。

およそ150cmというところだろうか。

今までの卵は鶏卵、ソフトボール、バスケットボール、スイカ(長いタイプ)とレベルが上がる毎に大きくなり、孵化期間も長くなっていた。

つまり、この巨大さは孵るまでに時間がかかることを意味していた。

システムメッセージによるとレベル×10日、つまりこの卵は孵化まで10日かかることになる。

それまで待たないとならないが、次に侯爵家の軍がやって来ると仮定しても、その来訪までには時間的余裕があるはずなので間に合ってくれるだろう。



 結衣が水トカゲ2を放出するのを拒んだ理由がわかった。

水トカゲ2は、あれでなんとレベル14だったのだ。

さらに水魔法のスキルもレベル4だ。

俺の眷属ならば頻繁にステータスを確認することが出来るが、結衣に眷属譲渡した水トカゲ2は、ずっと把握出来ていなかった。

確かに、このレベルならば戦うことも出来るし、契約解除してしまうのは惜しい。


「こいつ戦えたんだな」


「うーん、皆のトイレと料理の水に使ってただけだから、わからないんだよね」


 女子たちは皆が皆、水魔法や生活魔法が使えるわけではない。

そうなると、トイレで紙もなく綺麗にしようと思ったら水トカゲに洗ってもらわなければならないのだ。

それは理解できるけど、結衣さん、トイレと料理の兼用はやめてください。


「あ、大丈夫だよ? 料理には私が水魔法を使ってるから」


 今は結衣も自分で水魔法が使えるから、料理には水トカゲ2を使ってなかったらしい。

俺が嫌そうな顔をしてしまったからか、結衣が必死に綺麗だとアピールしている。

だが、水魔法が使えなかった当時は……、そうだったんだろうな……。

まあ、結衣は初期から生活魔法の【クリーン】が使えていたから綺麗だったに違いない。

うん、そう信じよう。お腹も壊さなかったし……。

さすがに今は屋敷に魔道具式の洗浄水洗トイレを作っておいたからトイレにも使わないしな。

このトイレの開発費のおかげで、女子たちからお小遣いをたかられたんだよな。

このトイレすごく良いって言ってたのに……。それはそれ、これはこれだって言われたな。

閑話休題。話が逸れてしまった。


「つまり、その水魔法の使用頻度が高かったおかげで水トカゲ2は高レベルだったというわけか」


 人数と期間を考えると確かにとんでもない水魔法使用量だな。

なるほど、この高レベルならば、結衣が水トカゲ2を手放したくないわけだ。


「それにラキちゃんは眷属化しなくても、言うこと聞いてくれるしね」


 そうだった。ラキのやつは俺の眷属なのに、結衣に言われて俺の命令をキャンセルした不名誉な実績がある。

まあ、俺の結衣を守りたいという気持ちを酌んでくれたと思えば、眷属故の必要だった行動ともとれるんだけどね。

こうなると、ラキには結衣専属で守ってもらうべきか。

新たな竜が孵ったら、そちらを纏の対象にすれば竜纏いは出来るからな。

ラキみたいな良い竜種が孵ると良いな。

ちなみに時間経過庫を使えば時短が出来るかもしれないが、ミスをすると眷属の命に関わるため、生き物系の魔物には使わないと決めてある。

ゴーレムだったら躊躇わず使えるんだけどね。

まあ、死ぬか生きるかの瀬戸際ならば使わなければならないと思っている。


「わかったよ。結衣にはラキをつけて、俺が孵った竜を使うよ。

後で悔しがるなよ?

どんなに凄い竜が出ても譲らないからな」


 俺は冗談めかしてそう言った。


「うん、ラキちゃんが良いから別に良いよ」


 結衣の反応は、むしろラキをつけてもらって喜んでいるようだった。

いつのまにか結衣とラキの絆も固く結ばれていたんだな。


 ◇


 屋敷の修復も終わり、魔物を召喚して森に放つ行為もルーティーン化して来た。

そんなおり、森には放てない魔物の存在に俺は困惑していた。

それは魔物卵から出て来た魚の魔物だった。

そういや、初期から魚卵を召喚出来たな。

育て方がわからないし、食用としても一粒じゃ腹の足しにもならないと、一度も召喚したことがなかった。

個別に指定出来る卵の魔物は出ないと思っていたら、魔物卵はそれらを含むんだな。


「しかし、水に住む魔物をどうしろって言うんだ?」


 とりあえず水だと思って温泉から流れ出ている小川に入れたら、あっさり死んでしまった。

温度か? 成分か? 魔物だからそれぐらい耐性があると思うじゃん。弱っ!

美味しそうな匂いを出していて、結衣が言うには食用らしいので、鍋で追い炊きして皆で美味しくいただきました。


「ああ、こいつ食用なのか!」


 確かに、生態系の底辺としてその上の魔物の餌になる存在なのかもしれない。

魚を食べる魔物なんていくらでもいる。熊系とか……熊系とか。

どこか川に放てば、食料にするだろう。

となると渓流に放流か?

いちいち行くのが面倒なので無しだな。

我が家の貴重なたんぱく源になってもらおう。


 次に出たのは、やはりこいつか。

カエル卵があるんだから、カエルの魔物は出るよね。

しかもヤドクガエルのように毒々しい色をしているから毒持ち確定だ。

これは森に放って良いんだよね? 食えないし。

熱帯雨林でないとダメかな?

まあ、蛇の魔物も出てるのでカエルがいても大丈夫だろう。

カエルの餌となるバッタも沢山いるし。

カエルも大きくなれば人を飲み込む魔物となるんだよな。

なかなかの戦力になるはずだ。



 そんなこんなでついに10日が経った。

いよいよ竜卵が孵る。


「ワクワクだね」


「そうだね。今までで一番MPと孵化日数がかかってるから、高レベル個体のはずだからね」


 俺はアイテムボックス――通常庫なので外と同じ時間経過がある――から竜卵を3つ屋敷前の広場に出した。

その中の1つに罅が入る。


パキパキ、パキ!


 その竜卵から出て来たのは……。


「え? ひっぽくん?」


 ひっぽくんも地走竜という竜だ。同種が出て来ても不思議ではない。

10日待ったのは何だったんだって気持ちにはなるけどね。


「うーん、ひっぽくんが当たりすぎで、こっちがハズレに見えるよ」


 結衣の言う通り、竜卵としてはハズレだったかに見えた。


「とりあえず、眷属化して獣車を引いてもらお……え!」


 眷属化で見えるようになったステータスを見て俺は驚きの声を上げた。

その竜はひっぽくんと同じ地走竜ではなく、上位種である地竜の幼体だったのだ。


「こいつ、ひっぽくんに見えるけど、上位にあたる地竜の幼体だよ!」


「えー、これでも当たりなんだ」


 結衣が地竜に失礼なことを言っているが、さっきまで俺もそう思っていたからな。

まあ、ひっぽくんと変わらず獣車を引く用途で使って、加えて戦闘力が高いという感じか。


パキパキパキ、パキ!


 お、次の竜卵が孵るぞ。

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