第176話 油断

 最近、ここ温泉拠点とディンチェスターの街の間に道が出来てしまった。

カドハチ商会の馬車が毎日1便やって来るため、そこに道が出来たのだ。

魔物が多く恐れられていた森の中も、GKと配下がパトロールすることで、商人が行き来しても安全な森となっていた。


 カドハチ商会の馬車は、往復3日ほどかかるので、常に3台の馬車が稼働していることになる。

いや、担当者の休息が必要だろうからそれ以上の台数が動いているのだろう。


 カドハチ商会は、基本的に行商として来訪しており、うちで必要とするだろうと思われる品を見繕っては持ち込んで、女子たちに売っていた。

帰りには御用聞きとして必要なものの注文を受けては、3日後には頼んだ品物を持って来ていた。

密林さんではないが、頼んだものが家にいながら届くので、女子たちの評判も良い。


 服なども服飾職人がやって来てオーダーメードで作ってくれる。

それはまさに貴族生活そのものだった。

お金を使えば、その分稼がなければならない。

定期的に巨大カマキリを買い取ってもらっていたが、今や供給過多となり最近は買値が安くなっていた。

それでも女子の物欲は収まることを知らない。

そして、ついにシャインシルクと呼ばれているキャピコの糸で織った布を売ることになってしまった。

その代金はカドハチ商会にプールされ、そこからの支払いで自由に物を買うことが出来た。


 俺たちは、そんな便利な生活に慣れ過ぎて、警戒が緩んでしまっていた。


「そろそろカドハチ商会の馬車が来る時間ね」


「じゃあ、南門を開けとこうか」


 ベルばらコンビのそんなやりとりがあったのは、俺が西の草原に向かっていた時だった。

俺たちの拠点では、役割分担がなされている。

服飾係に裁縫女子とマドンナ、調理生活係に結衣三つ編み女子瞳美ちゃんメガネ女子、鶏や騎獣と馬の世話――所謂生き物係に紗希サッカー部女子とさちぽよ、防衛係にオスカルバレー部女子アンドレバスケ部女子に腐ーちゃん、そして雑用係が俺だ。


 草原には罠が設置されており、その管理をワナワナがしていて、そこで捕まえた巨大カマキリを回収するのがここの収入源の一つとなっている。

止めを刺し、アイテムボックスに入れて運ぶわけで、レベル上げに利用しない限り、俺が回収するのが一番効率が良かった。

一緒に獲れるホーンラビットは肉として美味しくいただいている。


「最近、巨大カマキリが減って巨大バッタが増えてるな」


 巨大バッタは、巨大カマキリの餌となっていたらしく、巨大カマキリばかり狩っていたせいで、生態系のバランスが崩れたようだ。


「ワナワナ、しばらく巨大カマキリは逃がしてあげてくれ。

バッタを狩らないと草原の生態系が壊れそうだ」


 赤の布をつけた右脚をシュタっと上げてワナワナが了解の意志表示をしてくれる。

罠の管理はワナワナに任せれば安心だ。


 俺は馬の飼葉にするために草原の草を少し刈っていく。

バッタはこの草を食べるため、間引きしないと馬が困るのだ。

元々ここの生態系を破壊したのは俺たちであり、身勝手な話だが、これが人が生きるための現実だった。


「っ!」


 突然俺の視界が奪われた。

眷属が視覚共有を強要したのだ。


「ラキのやつ、急にはやめろとあれほど……」


 俺は視覚共有の映像を自分の視界右にAR表示させて視界を確保した。

だが、その映像と聞こえてきた声に、慌てて走り出すことになった。

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