第174話 商品納入

お知らせ

 173話で、いろいろ細かな突込みが入ったため、間違って伝わらないようにと修正を入れました。

気にならなかった方は、スルーでお願いします。

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 街へ行っていた遠征組が帰って来た。

3人とも道中無事で良かった。

しかし、その後ろから荷馬車が1台連なって来ている。


「何があったんだ?」


「さあ?」


 ベルばらコンビに騎士の略装をさせて迎えに行かせる。

GKの配下から前もって接近の知らせを受けていて助かった。

知らせを受けていなかったら、2人は今頃半裸のままで慌てているところだ。


 外壁の南門を開けてひっぽくんの獣車を入れると、そのまま荷馬車も入って来てしまった。

ちょっとセキュリティ意識に問題があるぞ。

まあ、ベルばらコンビは、役として騎士をしているだけで、正式な門番じゃないからなぁ。

荷馬車だけなら入れて構わないけど、御者が信用できるかは判断の分かれるところだろう。

トロイの木馬という悪い例もあるし、慎重になるなら荷馬車自体も入れちゃダメだ。


 俺が建ったばかりの貴族屋敷玄関前で顰め面をしていると、紗希サッカー部女子が慌てて獣車を止めた。

紗希は直ぐに御者台から降りると後ろの荷馬車を制止した。

貴族屋敷がハリボテのままだったらどうする気だ。

結衣三つ編み女子が気を利かせて、さちぽよを隠れさせていて助かったよ。

もし、さちぽよの顔を知っている国の関係者だったら、どうなっていたか。

まあ荷馬車だから違うだろうけど、迂闊すぎる。


「こちらはカドハチ商会の方だぞ。

私たちの購入品を運んでくれたのだ」


 腐ーちゃんが獣車から降りて来て説明した。

そういえば、この遠征組3人はアイテムボックスを持っていないんだった。

大きなものを購入した場合、ひっぽくんの獣車では乗せきれないという事態を想定するべきだった。

いや、大きなものって何を買ったんだよ。


「そんなに大量に何を買ったんだ?」


「家具だ。喜んでくれ、ベッドを買って来た」


 腐ーちゃん、それもうある。

既に人数分自作してしまったよ。

しかし、今は貴族を装っている。自作してあるとは言えない。


「そうか。足りなかったか」


 俺は腐ーちゃんに目配せしつつ、偽貴族とバレないように言動に注意をしてくれと合図を送った。

カドハチ商会とはいえ、他人にはバレてはいけないところだぞ。


「そうだ。足りない分だな」


 腐ーちゃんが俺に合わせて言う。

そこに後ろの荷馬車から降りてきたカドハチ商会の者が歩み寄ってきた。

そして膝をつくと、貴族に対する礼をとった。


「お初にお目通り願いましたのは、カドハチ商会の手代、ケールと申します」


 ケールの外観は筋肉質だが丸っこいという、ラグビーか柔道をやっているような体格だった。

一言で表すならテディベアみたいな感じか。


「そうか」


 俺は頷くだけで名乗らない。実は家名などまだ決めていないのだ。

だが、お貴族様は庶民に対しては無暗に名乗らないものらしく、その様子はいかにも貴族っぽく受け取られたようだ。


「此度、お屋敷の敷地まで入れて頂いたのは、家具の搬入と組み立てのためでございます。

どうぞお屋敷への出入りを許可していただきたく、お願い申し上げます」


 この時俺は、貴族屋敷が完成していたことで気が緩んでいたのかもしれない。

その程度ならばと、許可を出してしまった。


「かまわん。

おい、ベッドを設置する部屋は決まっているのか?

そこに案内してやれ」


「畏まりました」


 裁縫女子が前に出て来て2階へと誘導する。

ベッドを運び込むのは客間として空けてあった部屋にしたようだ。


 部屋を確認したケールが荷馬車に戻る。


「おい、始めるぞ!」


 ケールが声をかけると、わらわらと作業員が降りてきた。

想定外だった。そんな人数で作業するとは……。

俺は、つい先日までワンオペで屋敷を建てていた。

ゴラムたちが手伝ってくれたが、1人作業という意識が強かった。

荷運びに人数がいるなんて当たり前のことだったのに、ワンオペのせいでそんな意識が一切なかったのだ。


 これって、悪意のある集団の襲撃だったらひとたまりもなかったぞ。

今後はセキュリティを考え直さないとならないな。


 今回はベッド4つにチェストが9つ運び込まれた。

チェストは倉庫に入れてもらって後で各部屋に移動させることになった。


「ついでに小麦粉も運び入れましょう」


 ケールたちは、ひっぽくんの獣車に積まれていた食料もキッチンのパントリーに運び込んだ。

アイテムボックスに移せば簡単に運べるのだが、アイテムボックス持ちが貴族役とその妻たち役(愛人含む)しか居ないというのが問題だったのだ。

そんな下々の仕事をしてはいけない面々だということは理解してもらえるだろう。

ケールたちさえ居なければ、俺たちで運んでしまうところだが、ここは貴族家当主として動くわけにはいかなかった。

なるべく人を入れたくないので、今後は外に専用倉庫を作って、そこに搬入してもらおう。

そこからは誰も見ていない時に俺がアイテムボックスに入れて運べば良いのだ。



「これをカドハチ商会会頭から預かっております」


 ケールが帰りがけにカドハチからの親書を差し出した。


「直ぐに回答が必要か?」


「いいえ、私は渡すだけが仕事ですので」


 ケールがそう言うので、俺はその親書の開封を後回しにして、ケールたちの荷馬車を見送った。


「これからも、御贔屓にお願いします」


 やっと南門から招かれざる客が帰った。

偽貴族は疲れるものだ。


「だめだよ、第三者も敷地に入れちゃ」


「でも、僕たちめちゃくちゃ豪華な接待を受けてしまって、断れなかったんだよ」


 紗希、なんだその接待とは?

買い物をして接待を受けるような事態になるか?


「それには、事情があったでござるよ」


「腐ーちゃん、どういうこと?」


「まず、これを見てくだされ」


 腐ーちゃんが見せたのは少女漫画風の絵が描かれた羊皮紙の束だった。


「聞いてお驚かないでくだされ。

オスカルとアンドレが主人公なのだよ。

つまり、この世界でもオスカルとアンドレは既に有り触れた名前だということでござる」


 いや、それより、その本、勇者案件だよね?

買っちゃったの?

まあ、アンドレを使っても問題ないなら良かったけど。


「それは置いといて、この本、薔薇咲メグ先生の新作だったでござる。

つまり、先生も勇者召喚で連れて来られていたのだよ」


「それは興味深いけど、それと接待と何の関係が?」


「先生は、どうやら何十年も前にこの世界に来たらしい。

そこから帰れたならば、日本で行方不明のままではないはず。

たぶん、先生は帰れずにこの世界で骨を埋めている。

それがわかる貴重な資料なので私が・・買った!」


「え? 腐ーちゃん!」


 何やら瞳美メガネ女子ちゃんの様子がおかしいが、勇者関係の本を腐ーちゃんが買ったということのようだ。


「大丈夫なのか? それを買ってしまって?」


「問題ない。貴族家婦女子の間で一世を風靡した本らしく、広く認知されているため、誰が買っても召喚勇者だとは疑われないでござる」


 それを聞いてホッとしたが、何が切っ掛けとなるかわからないので注意が必要だ。

1つの事実だけでは確定しないが、それが複数積み重なると状況証拠が固まるということはある。

しかし、それと接待が繋がらない。

俺が首を捻っていると、察したのか腐ーちゃんが核心に迫る発言をする。


「それが高くてな。

お金が足りなくて私の・・キャピコの糸製の下着を売った」


「腐ーちゃん、ごめんね……」


 瞳美ちゃんが何か小さく言ったが良く聞こえなかった。

それより、あの伯爵にお土産として渡したために大変なことになった、あの布を売ったのか。


「だから、カドハチが接待したということか!」


「大当たりだ。たぶん、その親書には布を売ってくれと書いてあるはずだぞ」


 腐ーちゃん、なんということを。

慌てて親書を開くと、布の独占購入を願い出る内容だった。

入手先の秘密は厳守するということだった。

カドハチの店で秘密が留まるなら、かえって良かったのかもしれない。


「ちなみに、いくらで売れたんだ?」


「金板40枚だ」


「は?」


 その値段に俺は何かヤバイものを感じていた。

腐ーちゃんらしからぬ行動に疑問を持ったが、腐ーちゃんも趣味の事だけには暴走するんだなと納得もしてしまった。

だが、それが瞳美ちゃんを庇っての行動だったとは、この時俺は気付いていなかった。

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