第173話 天井どうするよ

 【建築】スキルを手に入れたはずだが、中途半端な日本の建築技術を入れたせいで、大変なことになったしまった。

【建築】スキルは、この世界の技術に関わる部分しかサポートしてくれなかったのだ。

鉄骨なんて使ったせいで、その関連部分でサポートが受けられず、俺はドツボに嵌っていた。

中学生の中途半端な知識では、気付いていなかったことがあまりにも多く、実際の作業に入ってあれもこれもとやることが増えていくのだ。

最初から建築スキルに任せていれば、このような目に遭うことは無かっただろう。


 上の階との境界――天井と床の間って、どうすれば良いのだろうか?

ただ床板を1枚貼っただけでは、上の階の騒音が直で下に伝わってしまうだろう。

天井を見上げると、軽量鉄骨がむき出しというのも問題がある。

鉄骨は秘匿技術だからな。


 日本ならば天井部分には石膏ボードを貼って、上の階の床との間に断熱材兼防音材を入れるんだろうけど、この世界ではそうもいかない。

ある程度の空間を開けて、その空気層で断熱防音するしかないか。


 となると、天井と床で二重に軽量鉄骨を入れなければならない。

今、梁となるH鋼の上に軽量鉄骨を渡してある。

ならば、下にも軽量鉄骨を付ければ、H鋼の厚み分だけ隙間が出来る。

これで行こう。もし断熱防音材となる素材が見つかったら、後でその間に入れてしまえば良いのだ。


 ああ、そうなると板を天井に取り付ける方法を考えないとならないぞ。

床ならば板を乗せて板同士を釘でつなげばよい。

軽量鉄骨に板を固定しなくても、乗っかっているだけで事は済む。

しかし、天井に板を取り付けるとなると、板を軽量鉄骨そのものに固定しなければならない。


 日本ならば電動ドリルで軽量鉄骨に穴を開けて、電動ドライバーでネジ釘をねじ込めば固定できる。

だが、この世界ではどうすれば良いんだ?

こうなったら、使えるスキルを駆使してなんとかするしかない。


 軽量鉄骨の穴は錬金術で開けられる。ネジ釘も量産できるだろう。

それをまさか、手動のドライバーでねじ込むのか?

ねじ込むのは釘を打つより手間がかかるぞ。

そうだ、これならば……。

本当に出来るのか? いややってみるしかない。


 俺はあるアイデアが浮かんだので、それを実験してみることにした。

用意するのは軽量鉄骨と板。

板を下に敷き、軽量鉄骨に錬金術で変形をかける。


バン!


 釘打ち機が釘を撃ち込んだような音がした。

俺のイメージ通りならば、軽量鉄骨から釘が飛び出し、板を貫通すると勝手に頭を作って固定しているはずだ。

結果、イメージ通り。見事に板は軽量鉄骨に固定されていた。


「成功だ!」


 まさに逆転の発想。

板に釘を打って軽量鉄骨に固定するのではなく、軽量鉄骨から釘が出て来て板を貫通し、その後釘の頭を作って板を固定するのだ。

まさにこの世界だからこそ、錬金術が使えるからこその手段だった。

だが、これには一つ問題があった。


「内装はバスケ部女子にも手伝わさせようと思っていたのに、これじゃ俺しか出来ないじゃないか!」


 またしても俺のワンオペが続くことになる。ちょっと疎外感を覚えるぞ。

いや、手伝いを断ったのは俺か!


 ◇


 なんやかや問題点を克服し、ついに貴族屋敷が完成した。

貴族的な装飾の数々はゴラムたちが土魔法で施してくれた。

外壁は石細工で、内部は漆喰でそれらしく造ってくれた。


 いや、完成と言っても、魔道具はまだで、それ以外は今の平屋と同じ生活が可能となったということだ。

生活用水は水魔法か水トカゲが出してくれる。

料理の火も火魔法か火トカゲで問題ない。

風呂は温泉に行けばよい。

魔道具はもっと便利にするための手段だ。


「とりあえず、生活できるレベルには完成した」


「部屋割りは?」


「遠征組が帰って来るまで待つか?

平屋は従業員宿舎の体で残しておくから、まだ使えるぞ」


「いいえ、だいたい決めて引っ越すわよ。

アイテムボックスを使えば引っ越しも簡単だし、ベッドぐらいしか大物は無いしね」


 裁縫女子が引っ越しを主張する。

彼女は中倉庫を作業部屋にしたいので、引っ越しを急ぎたいのだ。


「3階大部屋は当主と妻、隣の中部屋に愛人役、残り3部屋の中部屋はメイド役3人で良いかな。

2階は護衛役の4人で、あれ? 一部屋余るよ?」


 もし内部を誰かに見せる時が来た場合を考えて、体裁を整えた配置らしい。

使用人や護衛に1人1部屋は有り得ないが、なにせ偽貴族なので、同級生に普段からそんな扱いをするわけにはいかないだろう?

その時が来てから1部屋に詰め込むなり対応すれば良い。

余った部屋は客間とでも思ってほしい。

けして、女子を増やしてハーレムにするためではない。


「それで良いよ。余った中部屋は客間になるからね」


「そうなると位置が決まっちゃうじゃない。そこ狙ってたのに!」


 ああ、そうなるか。

まあ、それを含めて遠征組と話して欲しい。


 街への遠征組もそろそろ帰って来るだろう。

錬金術大全が手に入れば、魔道具も作り放題だ。たぶん。

変装の魔道具が作れれば、もっと自由に行動できるだろう。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る