第159話 街に行けないってどういうことだ?
「転校生、そろそろ行っても良いのではないか?」
バスケ部女子が唐突にそう言い出した。
待ちに待った約束の日がやって来たといった雰囲気を醸し出している。
珍しく半裸でないのは、出かける気だからなのだろう。
「何の話だ?」
たぶん、あれの事だろうが、今は無理なんだ。
悲しい現実に気付くことなく話を先延ばしにしたいところだ。
「街への買い出しに決まってるじゃん。
魔物の氾濫で中止になってたけど、もうあれは収まったんだろ?」
ああ、それを言っちゃうか。
期待しているところ悪いが、ある理由で今は街へは行けないんだぞ。
そう告げなければならないのには心苦しいところがあるというのに。
「確かに魔物問題はクリアしてるな。
だが、今行けると思うか?」
「え? 街に行けないってどういうことだ?」
バスケ部女子が心底不思議そうな顔をする。
というか、まだ男言葉が抜けていないのは男装騎士役にハマったせいか。
だがマジか、肝心なことにはぜんぜん気付いてなかったのか!
「アンドレが街に行っても大丈夫なのか?」
俺がそう言うと、バスケ部女子はやっと何かに気が付いた。
「あーー!! そういうことか!」
どうやら彼女も気付いたようだ。
領兵隊の中にはアンドレもそうだが俺たちを貴族家関係者として目撃した兵がいるはずだ。
その兵が街に入る街門の警備担当だった場合、「なんであの貴族家関係者がここに?」と疑問に思われてしまうだろう。
それも貴族としては粗末な幌付きの獣車に乗り、冒険者風の恰好でやって来たらどう思われるのか?
「ああ、お忍びか」なんて思ってはくれない。
俺たちが「偽貴族ではないか?」と疑われてしまうことだろう。
「というわけで、今はメイドとして紹介した3人ぐらいしか街に行くことが出来ないのだ。
それも買い出し目的だけでだ」
「私は騎士役だったから、護衛騎士として同行すれば……」
バスケ部女子が必死に考えた案を口にする。
「騎士装備がないだろ」
「あー、そうだった!」
騎士鎧といえるものはたった1つ、さちぽよの装備しかない。
しかも、その装備はさちぽよの身体ぴったりに作られている。
所謂オーダーメードというやつだ。
さちぽよとアンドレでは身長も違い、体格が違いすぎる。
借りて着るというわけにはいかなかった。
「転校生の錬金術でどうにかならないのか?」
「鎧サイズの金属加工は、俺もさすがにまだ無理なんだよね」
「そうだったな……」
どう足掻いても
それにアイテムボックス持ちが
身分的に全員荷物持ちとして行くわけにはいかない人選となってしまっている。
「つまり、次のレベルアップに期待ということか」
荷物持ちの【アイテムボックス】スキルや、【金属加工】例えば【鍛冶】といったスキルが手に入れば、いろいろどうにかなりそうだが、そう気長に待つわけにもいかない。
買い出しで手に入れた食料もいつかは底をつく。
そうなる前に街まで買い出しには行かなければならない。
「いや、バスケ部女子には貴族馬車を作ってもらう。
街へと行くにも、今後は貴族として行かなければならないだろ?
あの貴族馬車、所謂箱馬車を木工スキルで作ってくれ。
分解した馬車があるから駆動系の心臓部は既に手に入れてある。
あとはそれらしい外側があれば良い」
「護衛と馬車の御者を兼務すれば騎士鎧はいらないか。
よし、私の【木工】スキルでやってやるぜ!」
さて、腐ーちゃんの闇魔法による変装とどっちが先に実用化できるかな?
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