第148話 大規模討伐開始

 コスプレ作戦の用意が整った。

この国界隈の貴族がどのような服装をしているのかは、瞳美ちゃんが購入した民族資料の載っている本にイラストが載っていた。

それをアレンジして貴族っぽい服を作ったのだが、金糸とか派手な刺繍なんかは使えないので、シックだが高級感があるという感じに仕上げたようだ。

白地に白糸で刺繍が入っているが、光の加減でそれが見えるのは密かな高級感を醸し出している。

俺用の衣装はブレザーの青に白を組み合わせて白糸で刺繍をしているので、一番目立つものになっている。

結衣とマドンナの衣装はウエディングドレスのようだ。

それより、メイド衣装の方が力が入っているように思えるのは気のせいだろうか?


 家はイギリスの宮殿を小さくしたような外側で囲むことになった。

見た目だけで実用性は全くない。

レンガ積みのような模様をつけたり、ダミーの窓に装飾をつけたりと面倒だったが、温泉地を囲う壁の外から見ただけならば、まさかハリボテだとはバレないだろう。

このまま住めるように作り直そうかという案も検討されているが、時間がないので今回はハリボテのままでいく。



 そんな感じで待ち構えていたある日、ついに大規模討伐が始まった。

GK配下の監視網に大人数の集団が引っ掛かったのだ。

その報告に直ぐにクモクモを派遣して監視してもらった。

視覚共有と念話で監視スパイ活動だ。


『準備の出来た冒険者パーティーから、10m間隔で森に入って欲しい』


 街道には冒険者が集まり、5~6人のパーティー毎に森へと入って来た。

どうやら、街道沿いに10m間隔でパーティーを投入し、虱潰しにするようだ。


『領兵隊、出撃! 小隊を組め!

我らは国境に近い中心地を担当する』


『はあ……。俺たち、魔物の氾濫から働きっぱなしなんだよなぁ』


『こら、愚痴るな! これも魔物氾濫の後始末だ。

後で手当ても出る。気張れ!』


 さすがに国の兵士は投入されていないようだが、街を治める貴族領の領兵はいるようだ。

彼らは街を防衛していた者たちなので、連勤ということで士気が低かった。

その様子に、このまま街道脇を浅く調べて帰ってくれれば良いと、俺は期待していた。


 俺は領兵隊を追うようにクモクモに指示を出し、引き続き監視を続けた。

そこで俺は、俺たちには誤算があったことを知った。


『数百の魔物が入ったという割には、魔物が少なくないか?』


 そう、あの数の魔物の群に蹂躙された森は、元々居た魔物たちが激減していたのだ。

あのオーガ率いる魔物の群は俺たちが倒してしまっている。

そして、魔物の群の残党もGKとクモクモが掃討済みだ。

つまり、この森は普段より魔物が居らず、調査がサクサクと進んでしまっていた。

あ、GK配下は間違えて討伐されないように撤退済みだ。

クモクモの罠もクモクモがターゲットにされないように撤去してある。


『ほとんど魔物がいないぞ』


『ならば、街道への脅威はないということで、そろそろ切り上げて帰りましょうよ』


『いや、魔物がいないということは、つまり、餌が無いということだ。

そうなると上位個体だけが生き残り、力を付けている可能性がある。

オーガが飢えているとなると、むしろ街道の脅威度は上がっている。

進むぞ!』


 やっかいなことに、この進んだ先こそが俺たちの温泉拠点のある場所だった。

いよいよコスプレ作戦を発動する時が来たようだ。


「皆、領兵隊が向かってきている。

コスプレ作戦準備だ」


 俺たちはコスプレ衣装に着替えると領兵隊の到着を待った。


『隊長! 壁です!』


『なんで、こんなところに壁が?』


『我が領の関係施設ではありません!』


『調べるぞ。各小隊を集合させろ!』


 壁の外側に領兵隊が集まって来る。

数は2百を超えているかもしれない。


『入口、封鎖されています』


『魔法スキル所持者を集めろ。壁を壊せ!』


 いやいや、問答無用で破壊ですか?

これはコスプレ作戦を早めないと。

貴族衣装のコスプレに着替えた俺たちがハリボテ屋敷の屋上に立つ。

俺の横には結衣とマドンナが両脇に立ち妻と愛人を演じ、後ろにメイド3人を侍らす。

俺たち3人の前には庇うように護衛4人が剣を帯びて立っている。


「何用か! 我が主君の保養地と知っての狼藉か!」


 男装したバスケ部女子が隊長だと確認してあった人物に向かって怒鳴りつけた。

いかにもお貴族様がご立腹で、臣下の騎士が代弁しているという演技を添えてだ。

俺たちの登場に領兵隊隊長も、攻撃魔法を放とうとしていた領兵も固まった。

そして、俺たちを貴族と見做したのか、慌てて遜ると言い訳を始めた。


「これは申し訳ございません。

ここが貴族様の保養地だとは存じ上げませんで……。

おい、攻撃中止だ!」


 どうやら隊長は俺たちを貴族一行だと認定したようだ。

だが、ここまで俺たちは自らを貴族だとは言っていない。

俺たちの保養地、そしてロールプレイの主君と部下ゴッコをしているだけだ。

それを全て隊長が勘違いしただけなのである。

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