第145話 調査隊
温泉拠点の壁の修復や、環境破壊の後始末などが漸く終わったころ、GK配下の偵察部隊から報告が上がって来た。
といってもGK配下と俺は直接のやり取りが出来ない。
GK或いは連携を頼んでいたクモクモから間接的に報告を受けるかたちになる。
そういえば、ここ数日忙しくしているうちに、クモクモと同種のアースタイガーを指定した眷属卵が孵った。
眷属卵の実験をしていたことを、魔物の襲撃ですっかり忘れていたよ。
クモクモには服飾や罠管理、拠点の防衛、偵察などなど、多岐にわたる仕事を頼んでしまっていた。
これでクモクモの仕事量を減らすことが出来るだろう。
新しい眷属はヌイヌイと名付けた。
そして、クモクモの負担軽減のため、アースタイガーの眷属卵を追加で3個召喚した結果、オリオリ、チクチク、ワナワナの合計5体のクモクモ部隊がそろった。
ヌイヌイ、オリオリ、チクチクは、主に服飾関係の仕事をしてもらうことにした。
ワナワナは、草原の罠管理がメインになる。
これでクモクモは偵察をメインに自由に動けるようになった。
彼らは野生のアースタイガーと区別するため、クモクモ同様に右前足付根に布を巻いている。
裁縫女子の【染色】がまだ茶に近い黄色しか出せないため、クモクモの青――俺のハンカチ――以外は黄色の布が巻かれている。
今後、色数が増えれば個体識別のために違う色にするつもりだ。
今回はその偵察中のクモクモからの報告だった。
GK配下を分散配置して、その偵察結果を受け取って回っているのだ。
『人』『探す』『橋』
どうやらいつまで経っても帰らない冒険者たちを探す捜索隊がやって来たようだ。
『クモクモ、現場にいるの?』
『今、橋』
どうやらクモクモも橋周辺に直接偵察に行っているようだ。
これは視覚共有と念話で情報収集するべきだろう。
「視覚共有、クモクモ」
すると俺の視界は木の陰から様子を伺うクモクモの視界に切り替わった。
どうやら、冒険者と思われる集団が、橋を調べているようだ。
念話にはクモクモが聞いている音も伝わって来る。
『リーダー、どうやらバリケードを破られたようです』
『この破壊具合だと百を超える魔物が通ったようだな』
『魔物が迫って来たら橋を落とす手筈だったはずなのに、橋を落とそうとした痕跡すらありません』
『この様子ならば、全滅か』
『リーダー、休憩地に竈があります』
どうやら、冒険者たちの調査は休憩地へと移行したようだ。
『このような竈、見たことも無い』
『あいつらの持ち物ではないな』
『これを使い捨てにするとは、どんな豪商だ?』
『いや、慌てて逃げたからか。それとも魔物に……』
あの竈か。土魔法で簡単に作れたから、そのままにしてしまった。
あれぐらい普通に作れないのか。変な痕跡を残してしまったな。
『リーダー、こちらへ』
冒険者の1人に呼ばれてリーダーが移動する。
それをクモクモが密かに付けて行く。
移動した先は、あの馬車の残骸のある場所だった。
主要部品だけ抜いて不要部分を壊して捨てたあそこだ。
『血の跡と、破壊された馬車か』
『魔物の爪痕もありますね』
『逃げようとして、ここでやられたか』
『馬一頭、武器一つ、布の端切れ一つ残っていませんね』
『たしか、貸馬車だったな?』
リーダーが渋い顔をする。
レンタル馬車を馬ごと失ったのだから、損害賠償が高くつくのだろう。
そのことに気を取られたのか、不自然さに目がいかなくて良かった。
馬は全頭俺たちのところだし、馬車も分解してアイテムボックスの中だ。
レンタルの馬は魔法的な所有の印がついているそうだが、マドンナに祈って貰ったら、その魔法印が解除されたらしい。
たぶんマドンナの【解呪】スキルが効果を発揮したのだ。
俺たちがこの馬を使っているところをみつかっても、似ているだけの別の馬だと主張出来るだろう。
『日数的に、襲われてから1週間前後経っているか……』
『行方不明扱いでしょうが、もう駄目でしょうね』
『だが、この魔物を放置するわけにもいかない。
大規模討伐を申請しないとならないな』
『ここは隣国との交易路ですからね。
冒険者20名以上を全滅させるような脅威は排除せざるを得ません』
ああ、その魔物、うちで全部倒してますが?
しかも、その冒険者たちは強盗だったので消えてもらいました。
それを言うわけにもいかないとは困ったものだ。
大規模討伐って、森の中に入ってくるってことだよな?
温泉拠点が発見されてしまうと面倒なことになるな。
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