第138話 温泉拠点防衛戦3

 温泉の西側には温泉を囲む壁の一角に、クモクモが罠を張っている草原へと向かう出入口があった。

そのような出入口はゴラムに言って新たな壁で塞いでもらっていた。

後で簡単に壊せるようにと壁の内側にもう1枚同じ強度の壁を設ける形で塞いでいた。

そこが破壊され、その破孔からはオークとオーガが侵入して来ていた。


「強度が足りなかったのか」


 どうやら一体化しなかったことで、強度が不足していたようだ。

その侵入口の前で、カブトンが【硬化】スキルの光を纏い攻撃を受け止めつつ、角による【刺突】で魔物の侵入を防いでいた。

【硬化】を使っているとはいえ、オーガのこん棒による攻撃で、カブトン自慢の甲殻には凹みが出来ていた。


「カブトンすまない。今から援護する」


 俺はさちぽよと視線を交わすと、カブトンの左右に分かれて、カブトンを殴打していたオーガに斬り付けた。

棍棒を持っていたオーガの右腕が飛び、左わき腹が切り裂かれる。

膝をついたオーガの首をさちぽよがはねて止めを刺す。


「次!」


 オーガの後ろからオークが2匹飛び込んでくる。

カブトンのおかげで破孔部分が狭くなり侵入できる数が制限されているようだ。

それはカブトン自身とカブトンが倒した魔物が邪魔になっているからだった。


ドーーーン!


 突然、飛び込んで来たオークごと、魔物の死体が吹き飛ばされた。

俺とさちぽよにも、オークの死体が飛んできて体当たりのような感じになり、俺たちは倒れてしまった。

カブトンにもオークの死体が覆いかぶさって身動きできなくなっている。


グオーーーーーーーーーーーーーーーー!


 突撃命令でも出たのか、そのクリアになった破孔から魔物たちが突っ込んでくる。

なんとか【剣技】で対処するも、俺たちを無視して先へと進む魔物も現れた。

オーク2,3匹の侵入を許してしまったかもしれない。

そして、カブトンが圧し掛かっていたオーガの死体を排除したとき、そいつがやって来た。


「こいつ、あの時の?」


 それはさちぽよを右腕1本で吹き飛ばし、重症を負わせたオーガだった。

あの時も思ったが、普通のオーガよりも一回り体格が良いように見えた。

もしかして特殊個体なのだろうか?

まさか、カブトンに獲物を攫われ、追って来たとでもいうのだろうか?

獲物とは当然さちぽよのことだ。

オーガはさちぽよのみを見つめていて、さちぽよに執着しているようだった。


 オーガの前にカブトンが立ち塞がり、【硬化】で外殻を強化する。

しかし、それに構うことなく、オーガの右腕がカブトンを薙ぎ払った。

カブトンはそのままの勢いで飛ばされてしまった。

倒そうとすれば硬い【硬化】も、ただ排除するだけならば、カブトンを弾き飛ばすだけで良い。

そこは体重差がものを言ったようだった。

カブトンは無事だろうが、大きく離れてしまった。

俺たちは守りの要を失った。


 俺はさちぽよを見つめているオーガとさちぽよの間に入る。

次にさちぽよを守るのは俺しかいないからだ。

さちぽよには魔法で活躍してもらいたい。


「さちぽよ、魔法を頼む」


「りょ、爆裂魔法エクスプロージョン!」


 オーガの後方に纏まっている魔物たちに、さちぽよの広範囲魔法が放たれる。

その魔法は壁の一部も巻き込みながら魔物の群を殲滅した。


グオーーーーーーーーーーー!


 その光景を見て自分が無視されたことに気付いたのか、怒りのオーガが突撃して来た。

オーガはさちぽよしか目に入っていないようだ。

俺は黒鋼の剣を正眼に構えると一歩右前に出ながら剣を振るってオーガと交差した。

黒鋼の剣はそのオーガの左脚を薙いでいた。

どうと倒れるオーガの腹に返す刀で斬り付ける。

その一撃によりオーガは胴の部分で両断され、こと切れて……。


グオーーーーーーーー!


 いなかった。

オーガが上半身だけで剛腕を振るって来た。

死ぬ前に残った生命力で最後の一撃を俺に加えようというのだ。

オーガは上半身だけでも俺の身長ぐらいあった。


ドーーン!


 そのオーガに黒い塊が飛んできて突き刺さり、その勢いのまま吹き飛ばした。


「カブトン! 無事だったか!」


 それはカブトンだった。

カブトンが飛びながら突撃し、角の【刺突】でオーガを葬ったのだ。


「カブトン、助かった」


 カブトンもかなり怪我をしているようだ。

だが、そのカブトンに頼らざるを得ない。

ここの魔物はほとんど制圧したと思われるが、まだ残っているかもしれないのだ。


「カブトン、ここの守りを頼めるか」


 俺がそう言うと、カブトンは角を上下させて頷いたようだった。


「やるじゃん。カブトン」


 さちぽよが凹んだ甲殻を撫でてあげている。


「さちぽよ、こうしてはいられない。

さっき突破したオークを追撃しないと」


「そだね。あっちを腐ーちゃんだけに任せてるのも気になるし、行こっか」


 俺たちは突破したオークを追いかけ、同級生たちとの合流を急いだ。

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