第139話 温泉拠点防衛戦4

 カブトンが心配だが、今は裏手の守りを任せるしかない。

一応、俺の【手当】は通ったようなので、カブトンの傷も多少は回復していると思う。

俺は後でマドンナにカブトンを回復してもらおうと思っていたのだが、ふとあることに気付いた。

マドンナの回復魔法は女神に祈ることで成立する聖魔法だ。

カブトンは俺の眷属ではあるが魔物だ。

魔物に聖魔法って大丈夫なのか?

カブトンが聖獣ならば躊躇しない。

だがゴーストなどの魔物に聖魔法を使うと、攻撃魔法となるのがラノベの定番だ。


 俺の【手当】は、聖魔法というより生活魔法に近い区分だ。

痛いの痛いの飛んでいけの進化版程度のものなのでジャンルが違うのだ。

なので魔物にも回復魔法として効いた。

そんな【手当】と聖魔法を同列に扱うわけにはいかない。

マドンナの魔法は女神さまに祈ることで効果を発揮する。

その祈りが魔物を滅する方向に作用するかもしれない。

なのでマドンナの聖魔法をカブトンに使うのは慎重にならざるを得なかった。


 オーガに命じられていたのか、オークどもは俺とさちぽよには目もくれずに女子たちのいる東の壁まで突撃していた。

オークどもは、どうやら一直線に女子たちの所へと向かったようだ。

オークと言えばラノベ定番の精力絶倫種だ。

どうやらこの世界でも例外ではなく、オークは女性に目が無いようだ。


 俺たちが到着した時、不意打ちをくらったバレー部女子が、マドンナに手当を受けているところだった。

その時、正面からも攻勢があったようで、それに対処している隙に後方からも攻撃されたようだ。

その姿は目を覆いたくなるような酷いものだった。


 バレー部女子は全身を白濁した汁で覆われていたのだ。


「気をしっかり持って! 傷はもう大丈夫なはずよ!」


 どうやら、バレー部女子は精神的ダメージが強かったようだ。


「【クリーン】、大丈夫か!」


 俺はすかさず【クリーン】でバレー部女子を綺麗にしてあげた。

マドンナが生活魔法を持っていなかったため、【クリーン】をかけることが出来なかったのだ。

たしか、【浄化】というスキルは持っていたようなのだが、それは別の用途の魔法だった。

汚れた水とか、瘴気に汚れた土地を綺麗にするという意味あいの浄化なのだ。


「大丈夫? やられてない?」


 さちぽよ、どっちのやられる・・・・だ?

まさか白濁汁まみれの様子からられるの方で言ってないか?

まあ、俺もそこは心配だが、男子が訊くのはセクハラになる。

ここはさちぽよに任せよう。


「オークは倒した。

やっと僕たち戦闘職の出番だったからな。

ただ、バレーちゃんが不意打ちをくらった」


 紗希が問題ないという顔でそう報告する。

その間も片手間で壁の向こう側に対処している。

腐ーちゃん以外の魔法職は既にMP切れのようだ。

手にゴブリンソードを持って対応していた。

クモクモの糸がその粘着力で動きを制限しているところに攻撃しているようだ。


「いや、あれを不意打ちと言うのか……」


 バスケ部女子が前方を向いたまま呟き口籠る。


「おっ勃てたオークが先制攻撃であれを発射したのよ」


 裁縫女子、直球かよ。

バレー部女子は、その直撃を受けて放心状態の所を物理攻撃されたらしい。 

なんという女性に効果的な攻撃手段だ。

いや、男でもそれはそれでダメージが大きいな。気を付けよう。

心中察するよバレー部女子。


「その時、私たち魔法職はMP切れだし。

頼みのマドンナちゃんは生活魔法を持っていないでしょ?」


 そのため俺たちが来るまでバレー部女子は白濁塗れだったわけだ。


「それで放置プレイだったのかー」


 さちぽよ、プレイ言うな。


「うわーん、穢されちゃったよー」


挿入さいれられてないならセーフっしょ」


 さちぽよー。どんどん下品になっていってるぞ。

だが、俺がこの会話に参加するわけにはいかない。

なぜならセクハラになるからだ!

バレー部女子もさちぽよの台詞に赤くなって俯いている。

え? どっち?

いや、そんなことで話を広げている場合じゃない。


「裏手はほぼ片付いた。

正面はどうだ?」


 俺はいたたまれずに話題を変えた。


「ラキちゃんがブレスでやってくれたから、今は残敵掃討?になってる」


 結衣が手を休めて答えてくれた。

どうやらこちらも終息しつつあるようだ。

魔法職がMP切れで物理攻撃に移っているということは、ラキとクモクモがいなかったら危険だったということだな。

森の中では、GKの触覚が揺れていた。

どうやら森の中の掃討戦も終わったようだ。


「皆、レベルはどうなってる?

レベル11を迎えていたならば、スキルが自動で消えることがあるから気をつけてくれ」


「あー何? レベル11のスキル整理を知らない感じ?」


 さちぽよが残敵掃討を手伝いつつ、スキル整理の話をしてくれた。

どうやら、国に捕まっている時に口を酸っぱくして説明されたらしい。

その後に洗脳されたため、この話は記憶に残っていたのだ。


 この世界、順調ならばレベルが1上がる度にスキルを1個手に入れる。

まあ、一般人などは2~3レベルでスキル1個らしいが、勇者召喚を続けているこの国では、勇者が特殊でレベル1上がる度に必ずスキルを1個手に入れることを把握していた。

ここで問題となるのがスキル所持数の上限だった。

基本的にスキルは10個までしか持てない。

基本的にというのは、俺のようにスキル所持数の上限突破スキルを手に入れて20、30と増やせる者もいるからだ。

つまり、基本的に勇者は11個目のスキルを手に入れるレベル11で1つスキルが消えてしまうということだった。

俺は、それに気付かずに必要な魔法スキルも失ってしまっていたのだが、これには対処方法があるのだという。

それがスキル整理だった。


「スキルが11個以上になると、24時間で自動削除が入っちゃうのよ。

それはガンダム? 適当に消えるらしくて、重要なスキルを失うとマジ最悪っしょ?

だから、24時間以内に消えても良いスキルを選んで指定しとくのよ。

ほら、こうやって」


 さちぽよ、ガンダムじゃなくてランダムな。

今回もレベルの上がったさちぽよは、自らのステータスを開いて不要スキルをタップして見せた。


「ほら、スキルの色がグレーになったでしょ?

これで消されるスキルが確定したってこと」


 さちぽよが実例を見せてくれたので解り易かった。

俺たちはこんなことも知らずにいたわけだ。


「育てたスキルも勝手に消えちゃうから、レベルが上がったら絶対にやっとくんだよ」


 スキルにもレベルがあり、育てることで能力が上がっていく。

その育てたスキルを失うと痛いわけだ。

これは同じスキルを再取得してもスキルレベルは1かららしいので気を付けたいところだ。

さちぽよに記憶が残っていれば、有用な情報がもっと手に入ったんだろうな。

洗脳されたままの方が、むしろ良かったかもしれないな。

いや、俺が洗脳を容認してどうする。

他人を洗脳して操るなんて、絶対にしてはいけないことだ。

そのためにこの国に捕まらないレベルにまで強くなる必要がある。


「終わったー」


 とうとうクモクモの糸で捕まっていた魔物の掃討が終了した。

最後の方は、戦闘職全員で守って、レベルの低い者からレベル上げをしていった。

皆、レベル11以上になっているんじゃないかな?

全員、命に別状はないし、ある意味ボーナスステージだったな。

カブトンは心配だが、マドンナの回復魔法が魔物にどう作用するのか実験する必要がある。

俺はゴブリンをクモクモの糸で捕まえて確保し、実験を行うことにした。

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