第135話 参謀

Side:ヤンキーチーム(サンボー)


 この国の上層部はヤバい。

俺たちを道具としか思ってないようだ。

俺たちのクラスを召喚したのも、魔王討伐のための苦肉の策というわけではなく、他国侵略の尖兵とするための利己的なものだったようだ。

だから絶対的な勇者1人ではなく、クラス丸ごとの複数人召喚だったのだ。

消耗品ならば数を揃えた方が良い。そんな感覚なのだろう。


 この国に保護されて早々、金属バットがキレて暴れた。

その尻ぬぐいをさせられたのは、唯一話が通じると奴らに思われた俺だった。

そこで信用されたのだろうか、俺の待遇が格段に良くなったのはまあいい。


 しかし、俺たちは全員別々に隔離されることとなった。

集団で反逆されることを恐れたのだろうと、その時は思っていた。


 暫く経って、金属バットが有り得ない状態で俺の目の前に現れた。


「やあ参謀殿、息災か?」


 誰だこいつと思うほど、金属バットの外観は変わっていた。

自慢のリーゼントを短髪に刈りこみ、いかにも好青年という出で立ちだった。

しかも、息災だと? 金属バットの頭からは出て来ないはずの単語だった。

この時、俺は瞬時に状況を理解した。


「こいつらやりやがったな……」


 金属バットは、何らかの手段により洗脳されたのだ。

何かある度に暴れられたのでは使い勝手が悪い。

だから洗脳し、使いやすい手駒としたのだ。


「これからは私のことをジャスティンと呼んでくれたまえ」


 最早、金属バットはジャスティン卿という別人だった。

ジャスティンという偽名は、勇者排斥論者という過激派が、育つ前の勇者を殺しに来るらしく、受け入れるしかないようだ。

俺もスティーブンと呼ばれている。


 ジャスティン卿は騎士の見本かというような出で立ちで、高貴なオーラを発していた。

以前より面倒じゃなくなったのは良いが、こんなのはあいつじゃない。

面倒なことを含めて俺の友、金属バットだったのだ。

他の連中も程度の差こそあれ、洗脳されてしまったようだ。

ここで反発しては俺まで洗脳されてしまう。


 俺は従順で話が通じると思われたのか、洗脳まではされていなかった。

そして、彼ら洗脳された仲間たちのまとめ役を任されることとなった。

現在、仲間たちは戦力として使えるようにするためにレベル上げ訓練が行われている。

お付きの騎士4人と共にパーティーを組み、迷宮に潜らされていた。


 そこで不幸な事故が起きた。

ナイジェル卿こと旧あだ名ブービーヤンキー7が魔物との戦闘中に死亡したのだ。

ブービーは、鍛冶神の加護という生産職のギフトスキル持ちだった。

元々戦闘には向いていない。

それは俺も散々言っていたのだが、この国の指導者たちは意に介さなかった。

後天的なスキルが増えれば戦闘もこなせるのが勇者だと言うのだ。

そして、この事件が更なる不幸を呼んでしまった。


「今回の勇者召喚は、不測の事態が起きた故、ハズレかもしれぬな」

 

 奴らは、今回の勇者召喚はハズレだと言うのだ。

今回のってなんだよ。

つまり俺たち以前にも召喚された勇者たちが居たってことか。

そういや勇者排斥論者などという存在も、過去に勇者がいたからこそのものだろう。

そこに考えが及ばなかったのは迂闊だった。

この王城には、今、俺たち以外の勇者はいない。

つまり、過去に召喚された勇者たちは既に亡くなっているか逃げたのだ。

それだけこの国がヤバいということだ。


「他にも生産職がいるならば、育成するのも金の無駄だな」


 ナイジェル卿ことブービーの育成に失敗したため、彼らは同種の生産職たちを処分することに決定した。

ターゲットとなったのは女子2人だった。

サリーことさゆゆと、ハーメルンことハルルンだ。

彼女たちは戦力外と認定され奴隷として売られてしまった。

何もすることが出来なかった俺は悔し涙を流すしかなかった。

いつか仲間をまとめて反乱してやる、そう心に誓うしか今の俺には出来なかった。

そのためには洗脳を解かなければならない。


 そんなおり、委員長が保護されて来た。

既に死んだと思われていたクラスの残りの者たちが生存していたということだった。

どうやら、俺たちには知らされていなかっただけで、この国の指導者たちは残りの同級生たちをあてにして、さゆゆとハルルンを売ったのだった。


 だが、そんな思惑とは裏腹に、委員長からは残りの同級生全滅の報告が齎された。

その時にはさゆゆとハルルンは、奴隷商により何処かへと運ばれて所在がわからなくなった後だった。

慌てて取り戻そうと思ってももう遅かった。後の祭りというやつだろう。


 委員長は【率いる者】というギフトスキルを持っていた。

これは〇〇神の加護という加護系スキルより上位のユニークスキルだった。

俺のような【賢神の加護】という神のお気に入りレベルのスキルよりも強力なものなのだ。

まさに、勇者様に相応しいスキルと言えよう。

委員長の存在により、俺の立場は悪くなってしまった。

委員長のギフトスキルはサブスキル【統率】により他人を支配し命令を強要できるものであり、この国の指導者たちも委員長を手懐けようと必死だったのだ。

必然的に俺の待遇は悪くなっていった。


 キャスリーンことさちぽよが死んだ。

魔物の氾濫という脅威に対抗することで、秘めたる勇者の力が解放される、そんな妄想により魔物の群へと突撃させられ、負傷し凶悪な魔物に攫われたのだそうだ。

おそらく捕食され生きていないだろうということだった。

お付きの騎士も2名が亡くなり、這う這うの体で逃げて来た残り2人によりその報告が齎された。

これはアーサー卿こと委員長が推進していた勇者強化方法を実践したせいだった。

あいつめ、何を根拠に秘めたる勇者の力が解放されるなどとの妄言を吐いていたのだろうか。

まさか、ラノベやアニメの知識じゃねーだろうな?

俺は仲間と共にこの国を離れるべきだと決意した。

なんとしてでも洗脳を解いて、皆を解放しなければ、いつか全滅させられてしまうだろう。

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