第134話 ヘタレ
朝起きると、目の前に結衣の顔。
俺たちは、拠点から使っている2人用のハンモックで寝ていたので、密着状態なのだ。
ハンモックというのは布の重心に自ずと体重がかかるため、2人で寝ると自然に寄り添ってしまうのだ。
その結衣の頬が膨れていた。
「待ってたんだからね?」
しまった、せっかくプライバシーを確保したのに、爆睡して初夜をスルーしてしまった。
このハンモックが特別製の2人用だとはいえ、さすがに空中では無理だろうとは思うが、結衣の期待を裏切ってしまったのは間違いないだろう。
「ごめん、疲れていて」
なんだこの倦怠期の夫婦みたいな台詞は。
ついうっかり口から出てしまったぞ。
この台詞で世の夫婦たちは夫婦喧嘩に発展するのだろう。
「そうだったわね。
ごめんね。何もかも押し付けちゃって。
窓ガラスやらドアやらで大変だったものね」
幸いなことに結衣は俺を労ってくれた。
優しい子や。ありがとう結衣。
だが、この世界では15で成人で結婚して良いとはいえ、地球に戻ることを考えたら、本当に関係を結んでよいのだろうか?
ここは、ハンモックを理由にして、暫くは有耶無耶にしておこう。
「ただ、ハンモックでは無理っぽくない?」
「そんなの、わからないよ」
そう言うと結衣はぷいっと身体ごと顔を背けてしまった。
まだ身体が密着しているだけで幸せかもしれない。
「起きてるー?」
そこにお邪魔虫が勝手にドアを開けて現れた。
「あー、ごめーん。取り込み中だったかなー?」
「悪気はないんだー。ついうっかりー」
何だその棒読みは!
俺たちの様子を伺おうと、絶対わざとやってるだろ。
「何の用だ。バスケ部女子にバレー部女子。
それにもう半裸に戻ったのか!」
俺は慌ててハンモックから降りると半裸2人組に詰め寄った。
ノックもせずに闖入して来るとか、マナーがなってない。
なんのためにプライバシーを守るためのドアを作ったのだか。
温泉の敷地内に家があるため、朝風呂が容易になったからだろうか、半裸2人組は早速朝風呂を楽しんだようだ。
だからといって、また服を着ずにうろついて良い理由にはならない。
「なによ、別にビキニの水着だと思えば問題ないでしょ」
「それに、ここ、暑くない?」
バスケ部女子、上がタオル1枚のトップレスはビキニの水着とは言わないだろ。
たしかに、家が温泉施設の脇に建っているために、その熱と湿度の影響か暑い気がするが。
「なんとかならない?」
「俺は青い猫型ロボットか!」
ちょっと女子たちが何かあると俺を頼るようになっている気がする。
何でも俺がやると思ったら大間違いだからな。
だが、季節的なこともあるかもしれないが、暑さ対策というのも住環境整備には必要だろう。
今は無理かもしれないが、今後の課題として頭には残しておこう。
「エアコンが無理なら扇風機でも良いんだけど?」
「出来るか!」
いや、錬金術で風魔法の魔道具でも作ればいけそうな気もする。
ああ、しまった。錬金術大全買っておけば良かった。
「だから、この格好には正当性があるのだ!」
「俺はお前らの貞操を気にしてるんだよ!」
「キャー、私たちを襲う気なのね?」
「誰が襲うか!」
「えー、三つ編みちゃんは襲ったのに?」
「まだだわ!」
つい本当のことを口走ってしまった。
運動部2人組の表情が変わる。
「ヘタレ」
「うん、ヘタレだ」
「これじゃ、あの台詞が言えないじゃないか」
「「昨日はお愉しみでしたね?」」
「そのために来たんか!」
娯楽がないから、俺たちを揶揄って遊ぶつもりか!
「何? やり方がわかんないの?」
そこに風呂帰りのさちぽよが現れた。
「ちょ、おまえ! 服を着ろ!」
「えー、バスケちゃんもバレーちゃんも着てないじゃん」
いや、さちぽよ、さすがに全裸はダメだと思うぞ。
タオルが奇跡的に隠しているが。
俺はもう伴侶を得たから、そんなことで責任を取るつもりはないぞ。
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