第133話 ベッド&その頃男子チームは3
ベッドは、某大型家具店で買ったものを自分で組み立てたことがあるから、部品も構造も知っている。
それは単純に部品8つで構成されているだけだった。
ヘッドボード、フットボード、横枠右、横枠左、中枠、底板上、底板下、そしてマットレスの8つだ。
自作の問題は人一人支えられる、あるいは上で暴れても大丈夫なだけの強度を持たせられるかだけだ。
ヘッドボードとフットボードに横枠をどう繋げるかというところと、内側の寝台となる底板をどう支えるかの部分が、荷重がかかっているので重要なのだ。
底板の支えはストッパーとなる部材を釘で打ち付けるのではなく、木材に段差を付けて一体加工にすれば強度は万全だろう。
問題はヘッドボードとフットボードに繋ぐ部分の強度か。
たしか、俺が組み立てたやつは金属部品を差し込みボルト止めするようになっていたな。
あれは今の俺たちの技術では真似できない。どうしたものか。
まあ、考えるのは楽しいんだけど、今はベッドなんて贅沢品は後回しでいいだろう。
ハンモックがあるんだからそれで暫くは寝てもらおう。
言えば何でも俺が作ると思ったら大間違いだぞ。
時間を稼げば、そのうち魔物の氾濫も終息して、街へと買い物に行けるだろう。
そうなれば、ベッドなんて街で完成品を買ってくれば良いだけなのだ。
大きなものでもかまわない。なんのためのアイテムボックスだというのだ。
ただ、プライバシー保護のためにドアだけは……。
こうして窓ガラスとカーテン、ハンモック、出入り口のドアが備わった部屋が完成した。
各部屋とリビングの床にはグレーウルフの毛皮を敷いて、床に座れるようにもした。
これである程度生活できるようにはなったはずだ。
食事係2人、服飾係2人、厩舎係2人、力仕事係4人と分担することで、皆で家を充実させていく。
床板張りや壁板張りは製材含めて運動部女子2人組と腐ーちゃんにも働いてもらおう。
釘を使わずにクモクモの粘着糸で貼れば強度も充分だし簡単だろう。
草原の罠に向かい、かかった巨大カマキリを倒し帰宅し、入浴を済ますと1日が過ぎ去った。
時間経過庫を使って木を乾燥させたとはいえ、DIYをするには駆け足の1日だった。
剣技スキルも木材の加工に役立ったし、重い木材も身体強化スキルで楽に運べた。
もしスキルが無かったら何日かかったかわからない。
ありがたいことだ。
「さて、寝ようか」
ハンモックに入ると、俺は心地よい疲れで一瞬のうちに眠りについた。
結衣が何か言っているようだが、眠気には抗えなかった。
◇ ◇
Side:男子チーム(せっちん)
俺たちは、裸に剝かれ手枷足枷を嵌められて地下牢に入れられ、何日過ぎたのかも判らなくなった頃、荷台が格子になっている荷馬車に積み込まれた。
手枷足枷には魔法や身体強化を妨害する機能があるらしく、俺も皆も魔法や身体強化が使えなくなっていた。
まるで犯罪者の護送だった。いや、俺たちは間違いなく犯罪者にされている真っ只中なのだろう。
あれから何日過ぎたのだろうか、過酷な毎日に日数を数える気力も奪われ、ついに立派な城のある街へと到着した。
俺たち同級生6人は、この後どのような未来が待っているのだろうと、戦々恐々としていた。
「あの時、勇者だなんて言わなければよかったんだな……」
ノブちんが何度目かの後悔を口にする。
「たぶん、敵対国家に保護を求めてしまったんだな」
後悔しても遅かった。
貴坊の予知を信じたために、この先が救いの地だと疑いもなく行動してしまった。
まさか貴坊の予知が100%当たりじゃないだなんて……。
俺たち召喚勇者を悪とする国家があって、そこに辿り着いてしまう可能性も考えておくべきだった。
この世界の人間は召喚勇者を保護してくれる、そんなのは勝手な思い込みにすぎなかったのだ。
馬車はそのままスラム街のような寂びれた中を進み、少し開けた商業区を通過したと思ったら、裏口のような場所から城壁をくぐった。
おそらく商人などが建物に荷物を運び入れるための通用口なのだろう。
つまり、なんらかの公的機関に連れて来られたということだろう。
「いよいよか……」
また地下牢行きか、裁判か、そのまま処刑ということもある。
皆、諦めの表情を浮かべていた。
「降りろ」
隊長格だろう兵士が俺たちに指示を出す。
馬車が辿り着いたのは、どうやら兵士の訓練施設のようなものだった。
そこに複数の兵士たちが屯っていた。
ここに牢でもあるのだろうか?
それとも兵士の訓練の標的にでもされるのだろうか?
いやな想像しか浮かんで来ない。
俺たちは鍵の開けられた荷馬車の格子牢から降ろされた。
俺たちの様子を兵士たちはジロジロと値踏みするように見ていた。
「汚ったねーな。
おい、風呂で洗ってやれ」
「「「えーー?」」」
「手枷足枷が外せないんだ。仕方ないだろうが」
そう隊長に指示されて、兵士たちは俺たちを家畜のように雑に洗った。
「よし、これを着させろ」
次に服を与えられた。貫頭衣という布の真ん中に穴を開けて被るだけの服だ。
無いよりはマシだが、どう見ても奴隷衣装だ。
俺たちは奴隷にされるのだろうか?
不安が募る。
そして兵士たちに囲まれながら、俺たちは次の場所へと連れていかれた。
この施設は思いの外広いようで、俺たちはまた城壁と思われる壁をくぐった。
「お待ちしておりました。
さあ、皆様はこちらへ」
俺たちの目の前にメイドの集団が現れた。
あのメイド服を来たメイドさんだ。
メイド喫茶のメイドさんではなく、リアルメイドさんだ。
自分で何を言っているのかわからなくなったが、そこには間違いなくメイドさんがいて、俺たちを皆様などと言っている。
兵士たちも、俺たちの待遇が変わったのを見て、雑に扱い過ぎたかと焦っている様子だ。
「いったい、何が起こっているんだ?
俺たちは犯罪者として処刑されるんじゃないのか?」
「落ち着いてくださいね。
一先ず入浴と着替えを済ませましょう」
「いや、風呂なら今入ったばかりだよ」
「申し訳ありませんが、これからやんごとなきお方との謁見がございますので、再度ご入浴とお着換えしていただきます」
「はあ? 謁見?」
つまり、王様とか偉い人と会うってことか?
なにがなんだかわからないぞ。
今度は装飾過多な立派な浴室で丁寧に全身を洗われた。メイドさんの素手でだ。
そして、今、どう見ても高そうな服をメイドさんの手で着せられている。
手枷足枷も腕輪に変わった。
「謁見では、魔法や身体強化を使用することが認められておりません。
そのためこの腕輪を嵌めていただきます。
これは貴族であろうが嵌めなければならない決まりです」
どうやら、俺たちは貴族と同等の扱いをされているらしい。
犯罪人として引き出されるならば、手枷足枷のままで良かったはずだ。
そして俺たちは巨大なドアの前に連れていかれた。
「勇者様6名、ご到着です!」
巨大ドアを守る衛士が声をあげる。
いま、勇者様と言ったか?
すると巨大ドアが内側から開き始めた。
俺たちはメイドさんに連れられて、赤絨毯を進んで行った。
「ここで跪いてください」
メイドさんが脇に避け、言われるがままに跪いた視線の先には王様が座る玉座があった。
「良く参られた勇者たちよ!
面を上げよ!」
はっきりと顔を見る。やはり王様のようだ。
「偽装のためとはいえ、移動中は不自由をさせてすまなかった。
ああでもしないと、勇者排斥論者どもが何をするかわからなかったのでな」
どうやら、俺たちはこの国に歓迎されているらしい。
あの酷い扱いが偽装?
何か事情があったのかもしれないが、もうちょっと手を抜いてもらっても良かったんじゃないかな?
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