第136話 温泉拠点防衛戦1

 瞳美ちゃんメガネ女子の書籍知識によると、この国の気候には緩やかな四季があるという。

今は偶然か必然か地球と同じで夏のようだ。

ラノベお約束だが、1年の周期や1日の時間もほぼ同じ。

この時間に関しては結衣三つ編み女子の腕時計で確かめることが出来た。

おそらく召喚の条件として、そういった環境が酷似している世界が選ばれているのだろう。

そのため、今は夏であり、蒸し暑いのは温泉に近いということもあるが、気候としても暑いということだった。

あの洞窟拠点は、洞窟故に冷たく過ごし易かったようだ。

ただ、日本のような猛暑や酷暑ではないのは、自然豊かで環境破壊が進んでいないおかげなのかもしれない。


「あー、むしろこの石の床が冷たくて気持ち良い」


 床張りなどの内装を望んでいた彼女たちも、暑さにより冷たい石の床の方が良いと言い出す始末だった。

暑いのを良いことに、運動部女子の半裸2人組は、家の中にて半裸で過ごすことを正当化していた。

それに同調したのは紗希サッカー部女子とさちぽよだった。

この2人は、俺の前でも全裸で平気という裸族、いや特殊個体なのだ。

下着を着た半裸なだけでもまだマシな方だった。


 さすがに、常に下着でうろうろされるのは目の保養……ではなく目の毒だ。

なので、クモクモに言って、水着にも使える下着を用意してもらった。

この世界の布では品質的に水着にするのは無理だった。

塗れると透ける。そんな布を使って本気で水着として使用されたら大変なことになる。

なので、クモクモとキャピコの糸を使うことになり、白の水着しか用意出来なかった。

下着だと思うとエロイ気になってしまうが、水着だと思うとスルー出来るのが不思議だ。

多少は視覚効果があったものと自負している。

しかし、白ばかりというのも味気ない。

今後、布の染色をどうにかしないとならないな。

たしか、玉ねぎの皮とかの野菜の煮汁で染める方法があったはずだ。

色を付けるのは簡単だが、その色を落とさないように定着させるのに化学薬品が必要だったりしたはずだ。

課題として頭に残そう。


 ここは温泉入り放題の環境だが、俺は女子たちが入っていれば、当然ながら温泉を利用出来ない。

そのため俺だけの入浴時間を決めているのだが、大浴場を1人で占有することになり肩身の狭い思いをしていた。

その問題の解消としても水着は役に立った。

俺が入っている時に女子も入って来ても良いが、必ず女子は水着で入ることとしたのだ。

まあ、そんなルールお構いなしの一部裸族のせいで困っているんだけどね。

ここは早急に男風呂を作るべきだろう。

一人用の浴槽を作って温泉を引き、壁を立てれば良いのだ。

さっそくゴラムに相談しよう。


 そんな平和な日々を過ごしていたある日、突然危機が訪れた。

迷宮から氾濫した魔物の一部が川を越えたようで、温泉周辺にゴブリンやオークを頻繁に見かけるようになったのだ。

どうやら、あの橋のバリケードが破壊され突破されたようだ。

よくよく思い起こせば、あの強盗化した冒険者たちは、あのバリケードを作り、こちら側への魔物の侵入を防ぐ任務を帯びていた可能性がある。

それが誰も見ていないことを良いことに、逃げて来た被害者を害して女性や金品を奪っていた。

そんな悪党でも魔物に対しては少なからぬ抑止力となっていたのだろう。

そんな奴らを俺たちが全滅させたせいで、魔物がバリケードを突破したということかもしれない。

いざとなれば橋を落とすことで魔物の侵入を回避することも出来たはずだった。

それを行う人員が存在しなければ、こうなるのは当然か。


 俺たちは接敵必殺で、遭遇した魔物は片っ端から倒していったのだが、ついにオーガ数体が率いる群れと遭遇してしまった。

オーガはさちぽよでも苦戦した難敵だ。それが数体など遭遇戦で戦って良い相手ではない。

俺たちは、温泉に撤退すると籠城することに決めた。

壁を造っておいて良かったと、しみじみと実感した瞬間だった。


「さちぽよ、魔法を使えばオーガも倒せるんだよね?」


「任せるし、ここから魔法を撃つだけなら得意なんだからね」


 さちぽよが、壁の内側のお立ち台に立って胸を張る。

温泉の壁は対魔物と覗き対策であるため、その上には上ることが出来なかった。

なのでお立ち台で壁の上に顔を出せるように臨時でしてあるのだ。

そんなお立ち台が数十カ所配置されている。


「それなのに、あの時はどうして前に出ていたんだ?」


「うーん、よく覚えてないんだけど、そうすると秘めたる力が出るとか?」


 どうやら、さちぽよは無理なレベルアップを国から強要されていて、わざと危機的状況を演出されていたらしい。

危機的状況に陥ると、勇者は秘めたる力を発揮する。

そんな言い伝えでもあったのだろう。

まあ、そのおかげで救出する隙が出来たのだから、物事はわからないものだ。


「さちぽよと腐ーちゃんの他に魔法で攻撃できる人いる?」


「ゴブリン程度じゃないと無理ですー」


 瞳美ちゃんがそう言うと、結衣、裁縫女子が便乗して頷く。

彼女たちは魔法の練習を始めたばかりで、そんなに魔法の威力が出ないのだ。

そして、運動部3人組は格闘戦に秀でているため、魔法は苦手としている方だった。

壁の内側では役立たずとなっている。

せめてオーガさえ倒せば彼女たちも外に打って出られるのだが……。


 俺も魔法を使えるが、せいぜいオークを倒せる程度だ。

圧倒的に火力が不足していた。

こんなことなら運動部3人組と弓を使えるように練習しておけば良かった。

弓を下手でも使っていると、レベルアップ時に弓術スキルを覚えやすいという効果があるそうなんだよな。


「ならば、大物のオーガをさちぽよと腐ーちゃんに担当してもらって、残りのゴブリンやオークの雑魚を俺たちでなんとかしよう。

運動部3人組は石でも投げていてくれ」


 数的にちょっとMPが厳しいかもな。

そうだ、眷属にも手伝ってもらおう。


「クモクモ、罠で魔物を足止めしてくれ。

GK、後方かく乱を頼む。

カブトンも遊撃を頼む。

それからラキ、いざとなったらブレスだ」


 ラキのブレスは強力だが、環境破壊も酷いことになる。

家の周囲が焼け野原というのも見た目が悪いので最後の最後までブレスは自重してもらう。

ラキには爪斬波という攻撃スキルもある。

それで援護してもらうつもりだ。

さちぽよの範囲攻撃魔法もラキのブレスと似た感じだが、今回はオーガ担当なので、個別攻撃の魔法を使ってくれることだろう。


「ホーホーは索敵を頼む。

さちぽよと腐ーちゃんにオーガの位置を教えてやってくれ」


 こうして温泉拠点防衛戦が始まった。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る