第131話 窓ガラス

「良いものがあったぞ」


 紗希が持って帰って来たのは竹だった。

竹といっても釣り竿なんかに使うような細い竹だ。

タケノコを取る太いやつじゃない。

しかも、既に枯れて乾燥している竹のようで、緑でなく飴色をしている。

そのまま利用できそうだ。


「良いな。

適当な長さに切って早速カーテンを吊るしてみよう」


 だが、布を吊るしただけでは、窓から入って来た風でバタバタするだけだった。


「何よ? 言われた通りに作っただけでしょ?」


 裁縫神の加護があるのに、しくじった裁縫女子が言い訳する。

たしかに俺の依頼通りだから、俺の指示が悪かったのだが、わかっていたならそこは良いようにアレンジして欲しいものだ。

いや、裁縫女子もわかってなかったんだろ?


 これが加護スキルの盲点だった。

積極的に使用しようと思わなければ、何の恩恵も齎さない。

マドンナが回復魔法が使えることに気付かなかったのも、そういった理由からだ。


「悪かったな、俺の指示が悪くて。

では、裁縫の専門家としては、どうすれば良いんだ?」


「そうね。一番下に重りを付けておくべきだったわね」


 それを最初からやって欲しかったよ。


「それより、窓ガラス入れてよ。

そうすれば、このままでも問題ないんだから」


 そっちの方が難易度高いんですが?

だが、窓ガラスの採用は一理ある。

採光と風よけ虫よけが同時に行える。


「ガラスか。

石英、ケイ石……。錬金術を使えば材料的に出来るだろうけど、透明は無理かもな。

それにサッシみたいなのは出来ないぞ?」


 風よけとしてガラスを入れても、開閉が出来なければ、逆に空気の入れ替えが出来なくなる。


「開閉機構ぐらいなんとかならないの?」


「開閉機構って引き戸の窓を作るのかよ。

いや、あれって下に車輪ついてるよな?

板窓みたいにぶら下げて棒で固定するか……。

いや、こっちは蝶番がいるじゃないか!

そういや出入り口の扉も蝶番必須じゃないか。

金属加工か……。今は無理だな」


 俺は思いつくだけの開閉機構を考えてみたが、今の段階では実用化は無理っぽかった。

しかも、防音に必須な出入口の扉が取り付け不能という事実が発覚した。

これは早急に街へと仕入れに向かわなければならない。


「それなら回転式は?

ガラスを枠にはめて、その真ん中上下に出っ張りを作って窓の溝に嵌めるの。

そうすると、その出っ張りの部分でガラス窓が回転して空気の入れ替えが出来るわ」


 結衣、なんでそんなの知ってる。

たしか、ブラインドの開閉と同じように何枚ものガラス板が回転して空気を通す窓があったな。

あれを1枚だけでやれば良いのか。

となるとガラスをはめる枠と、肝心のガラスの製造が必要ということだな。


「よし、作ってみるか」


 外に出ると石英を探す。水晶なんかがあると楽だ。

だが、そんな都合の良いものはそう簡単にみつかるわけがない。

石英なんて星の数ほどの砂の中から分離しなければならないのが現実だ。

ここは少し楽をしよう。


「ゴレーヌ、来てくれ」


 ゴラムと家――部屋のユニット――を増築していたゴレーヌを呼ぶ。

ゴレーヌはゴラムと交信してからこちらにやって来た。

どうやら、ゴラムと引き継をしていたらしい。作業中すまないな。


「ゴレーヌ、この砂から土魔法で石英を集められないか?」


 俺は温泉が排水されて小川となっている場所の川底の砂を指し示した。

ゴレーヌが頷き、右手をかざすと、そこに白い石英の砂が集まって来た。

どうやら石英の意味はイメージで伝わったらしい。


「これを窓の穴より少し小さい大きさの板に出来るか?」


 俺は土の壁がほとんど石のように硬化されていたことから、その応用でガラス板が出来るのではと思って、ゴレーヌに指示してみたのだ。

ゴレーヌは土魔法で石英を集め、ガラス、いや水晶の板を作り上げた。

どうやら、不純物を除いて結晶化させたらしい。

透明なガラスは逆に混ぜなければならない化学物質がいるはずなのだが、水晶ならば純粋な石英の結晶だ。

この材料だけでいけるのだ。

さすがに磨かなければ完全透明とはいかないようだが、採光用途ならば十分だ。

むしろ多少曇っていた方が覗き対策にもなる。

あとは木の枠に嵌めて取り付ければ……。


「木を切って来たぞ。

この後どうすれば良いんだ?」


 運動部2人組が丸太を引きずって来た。

身体強化のおかげか、とんでもない力だ。

そういやバスケ部女子は剛力スキルを持っていたな。


「アイテムボックスの時間経過庫に入れて乾燥させないと使えない」


 俺は丸太をアイテムボックスに入れて乾燥させるため時間を早めた。

窓枠を作るにも木材を乾燥させないとならなかったからだ。

あまりやりすぎるわけにはいかないが、時間経過庫で数か月経過させようか。

やりすぎたら劣化で崩れてしまうのだろうか?

さすがにそこまで実験する気にはならない。


「なんだ、そこに入るのか。

んじゃ、一緒に来てくれ。

丸太を運ぶのも面倒なんだぞ」


 バレー部女子の言う通り、アイテムボックス持ちが伐採現場に行った方が運んで来るより速いか。


「ゴレーヌ、同じものをあと4枚作っておいてくれ。

バレー部女子、丸太を回収して来ようか」


 この後、丸太の回収、乾燥、木材の切り出しを終えてやっと窓枠が完成した。

窓への嵌め込みは錬金術で壁を変形させて行った。


「いけるな」


「そうね」


 だが、風を通すとやはり吊るした布がバタバタした。


「裁縫女子、重りを付けてくれ」


「こんなの袋状にしてさっきの竹を刺しとくだけで良いのよ!」


 作業は一瞬で終わった。

やはり窓ガラスより簡単だった。

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