第130話 家は土だけだった

 ついに俺たちは屋根のある家を手に入れた。

建ててくれた眷属のゴラムには感謝の言葉しかない。

隣は温泉露天風呂であり、いつでも入ることが出来る。

拠点の穴倉に比べたら明らかに生活水準が向上している。


「へえ、各部屋には明り取りの窓があるのね」


 結衣と俺たちの部屋へと向かうと、そこにはぽっかりと窓が空いていた。

玄関から直ぐのリビングは、玄関扉が無いこともあり、外からの光源があった。

だが、各部屋は壁で区切られており、明り取りの窓が無ければ真っ暗なのだ。

まあ、生活魔法の【ライト】を使うという手もあるが、窓があることでMPが節約できるのは有難い。


 この世界、窓は木の板が窓枠の上から吊るされていて、それを開閉するだけのものだったりする。

つまり、窓を開けるとそのまま外と直結という状態が普通だった。

街の宿屋でさえそうだったのだ。地球のような窓ガラスやサッシなどは存在していなかった。

いや、貴族屋敷であればわからないが、俺たちはそれを目にすることは無かった。


 ゴラムは窓の穴は作ってくれたが、開閉する木の板までは用意されていなかった。

ゴラムは土魔法と建築魔法しか使えないのだ。木を用意するなど不可能だった。

つまり、このままだと夜間もずっと外を見続けることになる。

もし夜に【ライト】を使おうものならば、走光性の虫を呼び込んで面倒なことになりかねなかった。


「ああ、ゴラムは土魔法しか使えないから、窓を塞ぐ木の板は俺たちで用意しないとならないんだな」


「拠点もそうだったし、窓は棒を渡して布でもかけて、カーテンにしておけば良いよ」


 窓板が出来た後でも、カーテンとして使い続けられるから、とりあえずそれで行くか。


「となると、壁にカーテンレールを取り付けないとな」


 カーテンレールというが、木の棒をかけられるフック状のものを2カ所取り付けるだけだ。

布の端を袋状にして、そこに木の棒を通し、木の棒の両サイドをフック状のものに乗せる。

それでカーテンの出来上がりだ。


「でも、壁の土が結構硬くて石みたいになってるよ?」


 それはコンクリートというより土を硬化させたもののようだった。

ゴラムは強度も考えて建築してくれたようだ。


「あー、釘を打ったら割れるか」


 この世界、電動ドライバーにネジ釘のようなものは存在しない。

手持ちの釘では壁にヒビが入るかもしれない。

となると、これを作ったゴラムに壁からフックを出してもらうしかないか。

いや、そういや俺は錬金術のスキルを持っていたんだった。

錬金術であれば、物の形を変えるなんてお手の物のはずだ。

鋼の錬金術の人も手を打ってよくやっていたからな。

試すのはタダだ。やってみよう。

俺はなんとなく成功しそうな気がして実行に移した。


「ここと、ここで良いか。

そこらへんの木の細い枝が乗るぐらいでいいな」


 俺は壁に手を当てると、その形状を変化させるようにと想像した。

すると壁から棒を受けることのできる出っ張りがモコモコと出て来た。

棒が転げ落ちないようにL字になっている。


「よし、これでいいな。

ここに乗るぐらいの丁度良い棒を探そう。

結衣は、裁縫女子と協力して布の端を棒が入るぐらいの袋状にしといてくれ」


「待って、それならば他の部屋の窓も作業してからにして。

どうせ他の部屋でも必要になるんだし、ね♡」


 結衣のお願いだったら、有無を言わさずきかねばなるまい。

俺は早速他の部屋へも作業しに行った。

まずは、隣の運動部3人組の部屋だ。

また半裸になっていないか、身構えながら隣の部屋に向かう。

そういや、玄関や入口のドアも作らなければならないな。

防音どころか筒抜けじゃないか。


 隣の部屋に顔を出すと、幸いなことに全員服を着ていた

いつも半裸な2人組も、移動もあったからか今日は普通に服を着ている。

そこのことに安堵しながら、カーテンのことを説明する。


「なるほど、カーテンね。

それなら、その棒は僕が採取して来よう」


 紗希が黒鋼の剣を腰に括り付けて走って行く。


「全部で4本だからねー」


「承知」


 まあ、細い棒だから一人でも持ち運びは問題ないだろう。


「それより転校生、ベッドはどうする?」


「また床に毛皮を敷いて寝るつもりか?」


「それも、この硬い床に?」


 バレー部女子とバスケ部女子の指摘で、俺は初めて寝床の心配があることに気付いた。

俺はハンモックを使っていたけど、そういや皆は土の上にグレーウルフの毛皮を敷いて寝ていたんだった。

拠点は土の床だったから多少クッション性があった。

だが、この部屋の床は壁と同様に硬化されている。

寝るには不向きな床だった。

だが、ベッドのような大型の木工製品を、はいそうですかと作ることは出来ない。

木材を確保し、乾燥させ、製材し、部材を加工し、組み立てる。

どう見ても時間がかかることが判るだろう。

このような事態を想定していなかったから、街でベッドを調達して来てもいない。

しかも魔物の氾濫で街には当分寄り着けない。


「とりあえず、暫くはハンモックだな」


 俺はベッドの製造や手配など躊躇することなく諦めて、ハンモックにすることを選択した。


「眷属召喚、クモクモ!

クモクモ、ハンモックを3つお願い」


 俺はクモクモを召喚して、蜘蛛糸のハンモックを3つ、部屋の角を渡るように作ってもらった。

端はクモクモの糸の粘着力で固定した。

フックを錬成しても良かったのだが、これは後でベッドが完成した時にフックを戻す手間を無くし、さらに簡単に剥がせるようにという配慮からだった。


「今後、床を板張りにしたり、ベッドを製造するつもりだ。

それまではハンモックで勘弁してくれ」


「わかった。

んじゃ私たちは、木材を確保してくるよ」


 運動部2人組はそう言うと木材を採取しに行った。

木材は乾燥させなければ使用できないけど、それは時間経過庫を利用すれば期間を短縮できるはずだ。

まずはカーテンとハンモック、次に玄関と各部屋のドアと窓を塞ぐ木の板、その後でベッドの製造という感じだろう。


 引っ越しをすると新しい家具が必要になる。

ゴラムは土魔法でしか建築出来ない。

そのことを忘れていたよ。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る