第117話 避難
街の人達には悪いが、俺たちは避難させてもらうことにした。
元々街の衛兵とか強制依頼を受けている冒険者とは違い、俺たちは有志の一般人なためにそれが許される立場だった。
その女性騎士たちも、さちぽよが
せいぜい生き残って、さちぽよが魔物に攫われ生死が絶望的なことを国に報告してもらいたいところだ。
北門に着くと、既に門は閉ざされていた。
俺は結衣たちが街から脱出出来たかを確認するために、ひっぽくんと視覚共有を行った。
「ひっぽくん、視覚共有」
すると、そのひっぽくんの視界は森の中を疾走するものだった。
どうやら無事に北門から外へと出ることが出来たようだ。
「視覚共有解除。
チョコ丸、飛べるか?」
「クワア」
俺がそう言うとチョコ丸は翼を広げて街壁を飛び降りた。
そのおかげなのだろう、チョコ丸は落下ではなく滑空に近いかたちで地面に軟着陸した。
俺はチョコ丸に、そのまま北の街道から西に逸れるように指示し、森の中へと向かわせた。
ひっぽくんが予定通りに渓流を目指して西進し、その後南下したことが念話でわかったからだ。
「チョコ丸急げ、まだ魔物とは遭遇していないだろうけど、時間の問題のはずだ」
街壁防衛で周囲の冒険者から聞いたことだが、魔物は人の多い場所に寄って来るらしい。
なので、迷宮からの魔物の氾濫は、街の人口に誘われて街へと向かう傾向があった。
次に狙われるのが避難民なのだが、それは北の街道を魔物の来る方向と逆方向に全力で離れていくため、ほとんど追いつかれることはないそうだ。
ここで、俺は失策を犯していた。
結衣たちに西の街道の橋を目指すように指示してしまっていたのだ。
結衣たちの安全を考えるならば、北の街道を使って街から離れさせるべきだったのだ。
拠点へと帰ろうなどと考えたために、魔物が来る方向である南下を指示してしまっていた。
「ラキ頼むぞ」
頼みはラキの威圧に魔物がどれだけ拒否感を持つかだった。
ラキは上位の竜種らしく、その威圧は今まではかなり効果的だった。
それが魔物の氾濫という異常事態でも利いてくれれば良いのだが……。
どちらにしろが早く合流しなければならない。
チョコ丸ならば、ひっぽくんの倍以上の速度が出る。
早くひっぽくんに追いつき彼女たちを守らなければ。
◇
Side:
北門から出た避難する人たちは北へと向かって行き、西へと逸れる私たちに構っている暇はないようだった。
「ラキちゃん、私たちを守ってね」
「クワクワ」
皆は知らないけどラキちゃんは小さいけど竜なんだそうだ。
ラキちゃんは威圧というスキルを使うことで、魔物を寄せ付けない力があるらしい。
知らなかったけれど、私たちはラキちゃんにずっと守られていたんだ。
あの巨大カマキリの襲撃の時、私はラキちゃんを連れて行かなかった。
それが今まで安全だと思っていた場所が、急に危険地帯となった原因だったのだ。
いざとなったら、ラキちゃんはドラゴンブレスを使えるらしい。
あの私が解体した四腕熊という魔物の上半身を吹き飛ばしたのも、ラキちゃんだったのだそうだ。
このまま魔物に遭遇することなく、ラキちゃんの最終手段を使わずに橋を渡れれば良いのだけれど……。
「あ、渓流に辿り着いたね」
「ここから南下すれば橋に辿り着くはずなんだよね?」
「うん、でも気を付けて行かないと、はぐれの魔物とかち合う可能性があるんだよね」
私たちはラキちゃんの威圧頼みで、進んで行った。
「あ、バリケード……」
やっと渓流にかかる西の街道の橋までやって来たのに、橋にはバリケードが敷設されており、獣車での通行が出来なくなっていた。
ひっぽくんだけでも通過させたかったのに、それも叶わないようだ。
それは魔物たちに橋を渡らせないようにと封鎖するものであるので、ひっぽくんが通れるわけもないのだ。
「どうしよう。ひっぽくんを置いていけないよ」
私たちの命を守るためには、非情にならないといけないのかもしれないけど、ひっぽくんはもう大切な仲間だった。
ここに放置するという選択肢は私には無かった。
「あ、魔物!」
それは西の街道を進撃して来た魔物たちだった。
街道という移動し易い道があれば、魔物もそれを利用するということなのだろう。
私は決断を迫られてしまっていた。
ひっぽくんを見捨てて自分たちだけでも逃げるのかという決断だ。
「仕方ない、ひっぽくんにはこのまま来た道を引き返してもらおう。
私たちだけでも橋を渡って逃げるべきよ」
裁縫ちゃんが、そう言うけど、私は躊躇してしまった。
だが、そんな時間はもう残っていなかった。
私は貴重な時間を躊躇いで消費してしまったのだ。
「あー、もう逃げられないわね」
裁縫ちゃんが諦めたような台詞を吐く。
こんな時、また大樹くんが助けに現れてくれればいいのに。
「クワア!」
そう祈った私の胸からラキちゃんが飛び出した。
そして魔物の群にドラゴンブレスを吐き出した。
それは西の街道を東側の街へと向けて一直線に突き抜けて行った。
ラキちゃんのドラゴンブレスだった。
「結衣、無事か!」
そこへ大樹くんが紗希と共にチョコ丸に乗って駆け込んできた。
どうやらラキちゃんにドラゴンブレスを使うように指示してくれたのは大樹くんだったようだ。
「ごめんよ、俺のミスだ。
魔物がこんなに寄って来る方向に逃げろだなんて指示してしまって……」
「でも、助けに来てくれた♡」
「いや、間に合わなかったらと思うとぞっとしたよ。
ラキ、よくやった」
おそらく大樹くんの指示が無くてもラキちゃんは私たちを守ってくれたはず。
街の防衛に行くならラキちゃんの火力を当てにしたいところなのに、ラキちゃんを私に預けてくれたのは、私たちを守るためだよね?
その大樹君の気配りに愛を感じる。
「はいはい、後続が来ないうちにさっさと行動する」
裁縫ちゃん、邪魔しないでよ。
「そうだな、後続が来ない今のうちに、皆ひっぽくんの獣車を降りて橋を渡ってしまおう」
そう言うと大樹くんもチョコ丸を降りてしまった。
橋は人ぐらいしか渡れないように封鎖されている。
だからといって、チョコ丸とひっぽくんを置いて行くの?
「大丈夫。橋の向こう側で眷属召喚するから」
私が心配していることに気付いて、大樹くんが説明してくれた。
新しいサブスキルで眷属を呼ぶことが出来るようになったんだそうだ。
それなら大丈夫だね。
私たちは安心して橋を渡ることが出来た。
「眷属召喚、チョコ丸、ひっぽくん」
大樹くんがそう言うと、目の前にチョコ丸と獣車付きのひっぽくんが召喚されて来た。
良かった、本当に召喚出来るんだ。
もしかすると、私たちを安心させるための嘘かもしれないと、ほんの少しだけ思ってしまっていた。
ほんの少しだけだよ?
「そろそろ日が暮れる。
なるべく街道の脇でキャンプ出来るようにしたいが、ここからはもっと離れるべきだ。
チョコ丸とひっぽくん頼りだが、少し街道を進もう」
私たちの危険な一夜の始まりだった。
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