第116話 防衛戦

 南門まで向かうとそこには街の衛兵と冒険者と思われる武装集団がいた。

その中心にさちぽよが担ぎ出されており、女性騎士が演説を振るっていた。


「諸君らは運が良い。ここに居られるのは我が王国の特務騎士様だ。

さあ、特務騎士様と共に街壁の外へと打って出るのだ!」


 魔物が氾濫したならば、街壁を固めて籠城迎撃戦が主流だろう。

接近する魔物が街の中に入らないように街壁の上から弓や魔法で迎撃するのだ。

そのための街壁であり、白兵戦は街門が破られた後からのことだろう。


「騎士様の都合に俺たちを巻き込むな!」


「そうだ、あの数の魔物の前に出るなんて自殺行為だぞ!」


「あんたらには、この街の衛兵や冒険者に対する指揮権はない。

やりたいなら勝手にしてくれ。

だが、我々は街の中で迎撃することに変更は無い」


 どうやら、街の連中は、さちぽよたち特務騎士?と共闘するつもりは無いようだ。

さちぽよを助けたいと思っている俺も、それは無いと思う。

一緒に出て行ったら、さちぽよを助ける暇も無く俺が死んでしまうことになる。


「くっ、ならば我々だけでも出してもらおうか!」


「えー」


 女性騎士の啖呵に一番嫌な顔をしているのはさちぽよだった。

たぶん、女性騎士たちと共にレベリングをしていたのだろう。

さちぽよの実力は、大量の魔物を倒せるほどのものなのだろう。


「キャスリーン様、大丈夫ですよ。

こんなピンチの時こそ、秘められた力が解放されるのです!」


 奇跡の力が解放されること頼みのようだ。

女性騎士たちは、何かに縋るように祈りを捧げている。

まるで狂信者のようだ。

俺たちにそんな奇跡の力は無い。はずだ。

やばい、さちぽよの死亡フラグが立ってしまう。


「いやーーーーーーーーーーーーー」


 衛兵により街門の通用口が開けられると、さちぽよは女性騎士に引きずられるように街の外に出て行った。

彼女たちが外に出ると通用口はしっかりと閉められ、内側からは補強材が打ち付けられていく。

あれじゃあ、さちぽよたちが戻ろうと思っても、もう通用口は開かないだろう。

可哀そうだが、今の俺にはどうしてやることも出来ない。

街壁の上から観察して、さちぽよがピンチになるのを待って、助けに入るしかない。


 衛兵や冒険者たちが、街門の前に陣取って門が突破されたときの迎撃態勢を整える。

バリケードや陣地が構築されていく。

もう既にさちぽよたちのことは忘れたかのような行動だった。

この街にはこの街の迎撃態勢がある。

それを邪魔するやつは例え国の騎士だろうが、排除するということなんだろう。


 俺たちは魔法攻撃が出来るということで街壁の上に行かせてもらった。

チョコ丸も一緒だ。街壁の上といっても、迎撃には機動力も必要なのだ。

魔物が攻撃を仕掛けるのは何も一か所ではない。

手の薄い場所が突破されるなどということもある。

なので、そんな場所には騎獣を使って即応する必要があるのだ。


 紗希は火魔法が使えるし、俺は……水魔法と火魔法のスキルを失っていたんだった。

だが、俺には眷属がいる。土トカゲと火トカゲが若干の攻撃魔法を使えるのだ。

その魔法をチョコ丸の機動力で使っていく。


 さちぽよを中心に女性騎士たちは扇形の陣形を組み街門の前に陣取った。

さちぽよも覚悟を決めたのか、魔法の詠唱を始めていた。


 街壁の上から見ていると、ついに視界に魔物の先頭集団が現れた。

それはゴブリンやオーク、オーガといった人型の魔物たちだった。


「数は多いが上位種はいないようだな」


 冒険者の間に安堵の声が上がり始める。

どうやら経験上、街で迎撃が可能なレベルの氾濫らしい。


ドーーーーン!


 その時、さちぽよの放った爆裂魔法が魔物の先頭集団の中でその破壊の力を炸裂させた。


「「「「おお」」」」

「さすが特務騎士様というところか!」


 その力は街の防衛に携わる者たちも驚くほどの強力なものだったらしい。

しかし、さちぽよはその一発で魔力切れを起こしたのかフラフラしている。

そしてMPポーションをがぶ飲みしだした。


 そこはかとなく、ダメさ加減が伝わって来る。

もうもうと舞う爆裂魔法による粉塵。

それが少し晴れたと思ったら、そこから魔物たちが飛び出して来た。

慌てて迎撃にうつる女性騎士たち。

どうやら、さちぽよが次の魔法を撃つまでの時間を稼ぎたいらしい。

俺たちは街壁の上から援護の魔法を撃つ事しかできない。


 いつのまにか、女性騎士たちは魔物の対処でさちぽよの周囲から離れて行ってしまったいた。

さちぽよも魔法を諦めて剣での応戦に切り替わっていた。

その剣戟は見事なものだった。

おそらくさちぽよは魔法剣士なのだろう。

そのため、街壁の上から魔法を撃つだけではなく、外に出て戦うという選択を女性騎士がしたのだろう。

これもさちぽよのレベルアップのためと信じて疑っていないのだろう。

そして、あの「ピンチの時こそ、秘められた力が解放される」という戯言を信じているのだ。


「あ!」


 紗希が息をのむ。

さちぽよがオーガの一撃を受けて吹き飛ばされてしまったのだ。

俺にはその場に助けに入ることなど出来やしなかった。

だが、手はある。


「眷属召喚、カブトン! さちぽよを攫え!」


 俺は隠れてカブトンを召喚した。

カブトンはまさにさちぽよの真上に召喚されて出現した。

カブトンは倒れたさちぽよを6本の脚で抱えると羽を広げてそのまま拠点の方向に飛び立った。


「ああ、キャスリーン様が!」


「なんでこんなところに鋼ビートルが!」


「おのれ魔物め!」


 その様子は女性騎士たちには、さちぽよが魔物に攫われたようにしか見えなかったようだ。

狙い通りだ。このままさちぽよを拠点に連れて行ってマドンナの治療を受けさせる。

それまでさちぽよには無事でいてもらいたい。


「俺たちも撤退だ」


 さちぽよ救出の第一段階は成功した。

後は俺たちが無事に拠点へと帰ることが出来るかだ。

俺と紗希はチョコ丸に乗ると北門を目指して街壁の上を走るのだった。

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