第115話 街からの脱出
「そんなことより、早く逃げるべきだと思う。
幸い、魔物は南から来ている。
今なら西門から出て森に向かえば回避できるかもしれない」
「そうね。緊急事態だったわね。
でも、後でしっかり聞かせてもらうからね」
あー、誤魔化せなかったか。
でも、直ぐに逃げないとというのは事実だ。
この街に残って一緒に戦うなんて義理はないんだ。
「ああ、さっさと逃げるぞ」
俺たちは、チョコ丸とひっぽくんの獣車を宿の厩から引き出すと西門へと向かった。
だが、遅かった。
俺たちが西門に着いた時には、既に西門は閉鎖されていた。
「ダメだダメだ! 街から出るなら北門を使いな!」
門を守る衛兵が避難民を誘導する声がする。
それはそうか。魔物が南から来るとはいえ、街壁を突破できずに回り込んで来たら、西門と東門は直ぐだ。
街の守りを固めるならば、北門ぐらいしか開けておけない。
その北門だって、いつまでも開けてはいられないはずだ。
「どうするの?」
「仕方ない。北門から出て西へ向かうとしよう」
「でも、橋は西の街道にしかないんじゃない?」
この街へとやって来る時に、南下の目安としていた渓流を越える橋を渡っていた。
俺たちの拠点はその渓流の向こう側ということになる。
ひっぽくんの獣車では橋がなければ渓流を越えられない。
選択肢は西の街道の橋へと向かって多少南下して渡るか、北の街道からあるかもわからない上流の橋を目指すかだ。
「そうだね。それに橋の向こう側というのは魔物が行き辛いから安全かもしれない。
渓流がいわば堀と化して向こう側には魔物が来ない可能性もある」
街と西の街道の橋は多少離れている。
北門を出て森の中を西に向かい、渓流沿いを南下して橋を渡るというルートで逃げるとしよう。
俺たちは早速、北門へと向かった。
だが、遅かったようだ。既に、北門への道は大渋滞していたのだ。
「通しなさい! キャスリーン様が魔物を倒しに行くのだ!」
女性の大声が聞こえたので、そちらに注意を向けるとさちぽよと女性騎士たちだった。
さちぽよと女性騎士4人の計5人は避難民の波に逆らいながら南門を目指していた。
「さちぽよじゃん」
裁縫女子が気付き、小さく声を上げる。
「え? さちぽよ戦えるの?」
瞳美ちゃんもさちぽよが戦えるのかと心配の声を上げる。
「キャスリーン様、こちらです。
今こそキャスリーン様のお力を示す時です!」
どうやらさちぽよは、召喚勇者様の出番と、お付きの女性騎士たちに担ぎ出されたようだ。
さちぽよの顔は青くなっており、どう見ても余裕で魔物を狩れるというレベルには至っていないと思われた。
お付きの女性騎士たちは、多少腕が立つのかもしれないが、大丈夫なのだろうか?
いや、これはチャンスかもしれない。
さちぽよがピンチに陥った時に、密かに助けられれば、彼女は魔物に殺されたということに出来るかもしれない。
そうなれば、俺たちの存在を隠しつつさちぽよを救出できるかも。
このままでは北門からの脱出は時間がかかるっぽい。
ならば、女性騎士たちと同様に俺と紗希で魔物を倒しに行って結衣たちを逃がす時間を稼ぐしかない。
その間にさちぽよ救出の機会を伺うとしよう。
「結衣たちは、このままひっぽくんの獣車で脱出を試みろ。
ラキ、結衣たちを頼むぞ」
「クワァ!」
ラキが結衣の胸元で元気に了解の返事をする。
相変わらずラキは結衣の双丘の間が定位置となっている。
いつでも念話で結衣たちの様子を伺えるのは強みだ。
いざとなったらドラゴンブレスで魔物を薙ぎ払ってでも脱出して欲しい。
「紗希は俺と一緒に南門まで来てくれ。
魔物と戦いつつさちぽよの救出を試みる」
「! わかった!」
さちぽよ救出と聞き、紗希も気合が入る。
「さちぽよを助けるの? 危なくない?」
結衣が驚きの声をあげる。
まさか俺がさちぽよを助けに行くとは思っていなかったのだろう。
「出来ればだがな。
だが、チャンスはこの時しかないだろう。
お付きの女性騎士が魔物の対処中に、さちぽよが魔物にやられたように偽装して助ける」
「でも、
「ああ、わかってる。
俺たちは冒険者でも市民でもないから、この街に何の責任も持たない。
いつ逃げても誰も文句は言わないさ」
さすがにこの街と一蓮托生というわけではない。
自分たちが危なければ、無理してさちぽよの救出を実行するわけでもない。
「いざとなったら、紗希と一緒にチョコ丸に乗って逃げるよ」
「約束だからね」
まあ、結衣たちが脱出する時間ぐらいは稼がないとな。
そしてさちぽよを救出できたら御の字というところだ。
俺と紗希は結衣たちと分かれるとさちぽよたちを追って南門へと向かった。
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