第97話 中古馬車を見る
お知らせ
89話の方角の表現が、当たり前のように北を上にしての地図的表現だったと気付きました。
南下してきた南を向いている状態の立ち位置からは、左右が逆になりますので、誤解を生む結果となっていました。
転校生は街道へと出て、一旦北を上にして考えて左右と言っているという表現に89話を修正しました。
南を向いているなら逆だろ?と思った方、作者の頭の中で転校生は北を向いていました。
それが表に出ていませんでした。すみません。
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俺が街へと入った城門は西門と呼ばれていた。
たしかに、俺は街道を東に向かったので街の中心からすれば西門で正解だ。
その西門から外へと出るのはほぼフリーパスだった。
別に事件も起きていないし、街の外に持ち出されては困るものもない。
そんな状態で衛兵がチェックすべきものなど何も無かった。
中には衛兵に怪しいと判断された者が抜き打ち検査をされていたが、それはレアケースであり、検査される者は運が悪かったとしか言えなかった。
俺もダミーの荷物をズタ袋に入れていたからか、疑われることなく通過することが出来た。
魔物素材の販売と買い物に来たはずの初訪問の男が、買い物もしてない様子で帰って行ったら、俺でも疑うだろう。
外に出ると、入場列の外側に街に入る時に見た屋台や露天が並んで商売をしている。
その後ろの一角に馬車が大量に止められている場所があった。
街に来たばかりの時は、その馬車も入場列の一部かと思っていたが、どうやらそれが中古馬車屋だったようだ。
俺はそこへ向かうと、馬車の構造を見て回った。
「やはり、こんな感じか……」
俺が思った通り、やはり馬車の構造は単純だった。
車輪の中心を通った車軸が馬車本体の車軸受けに嵌っているだけ。
それが2輪か4輪かの差しかなかった。
その車輪も固定されていないようで空転する仕組みだった。
ラノベお約束の知識チートであるベアリングもサスペンションも存在していなかった。
車輪も木製であり、高級そうな馬車だけそこに何らかの動物の皮が貼ってあった。
どうやらゴムタイヤも無いようだ。
「お、これは!」
俺が注目したのは馬と馬車、騎獣と獣車を繋ぐ構造だった。
地球の馬車の構造も良くは知らないのだが、そこは
馬や騎獣がアップダウンする動きを、
大八車や人力車のように直線的な引手で引いていると思っていたので、そこは目から鱗だった。
てっきりそれは馬を繋ぐ革紐で吸収しているのかと思ってたよ。
馬車は二頭立てのため、馬と馬の間に十字型の
それに対して獣車は一頭立てのため、騎獣を挟み込むように
「何か探し物か?」
馬車の構造を目で盗んでいると、中古馬車屋のオヤジに声をかけられた。
それは俺が馬車を買いそうな上客に見えたからではなく、馬車をしげしげと観察する俺を疎ましく思っての行動のようだ。
「獣車を探している。地走竜に繋げたい」
まさか俺が買いに来たとは思っていなかっただろう。
「そうでしたか、では、こちらなどいかがでしょうか?」
驚いた様子のオヤジはいきなり猫なで声になった。
あまりにも態度が変わり過ぎで、思わず吹き出しそうになった。
オヤジが薦めた獣車は、可もなく不可もなく、普通の幌馬車だった。
というか、獣車は幌馬車か荷馬車しか無かった。
まあ、お貴族様が乗るような箱馬車は数えるほどしか無いのだが……。
ちなみに〇馬車と呼んでいるが、それは種類の名前であり、騎獣用は全て獣車になる。
オヤジはこの中古馬車屋の中でも高い部類の獣車を薦めて来たようだ。
車軸は摩耗していない。軸受けも問題ない。
かなりの優良物件のようだ。
あとは値段の問題だろう。
「いくらだ?」
どうせ買えないと思って言ったのに、俺が買いそうな雰囲気なのを感じてオヤジが慌てる。
「き、金貨15枚です」
それは正直に言ってしまったのか、あるいはふっかけたのか、新品が金貨20枚だと聞いていたので、案外安いと俺は思ってしまった。
確かにこの構造ならば、俺でもいつかは作れるだろう。
だが、その時間が勿体ない。
ならば、この程度ならば買っても良いのではないだろうか?
そう思っていると、オヤジがしまったというような顔をしていた。
どうやら正直に言ってしまったようだ。
「買おう」
あのオヤジの様子ならば、値切る必要はないだろう。
「当然、騎獣とつなぐ革紐も付くんだよな?」
「もちろんです」
俺がそう言うと、オヤジはこれが売れないと困ると思ったのか、大きく頷いた。
どうやら、この世界でも頷きは「はい」で首の横振りは「いいえ」らしい。
革紐は獣車と比べてボロかったが、オマケなので致し方ない。
城壁の中に戻って買うよりはマシだろう。
構造さえ判れば、裁縫女子が革製品は作れるのだ。その手本になれば良い。
こうして、俺は女子たちの移動手段を手に入れた。
「地竜はどちらでしょうか?
預かりなら預かり賃が発生しますが?」
「いや、持って帰る」
俺が地走竜を連れていないと知り、預かりを申し出たオヤジに、俺は断りを入れた。
アイテムボックスに入れれば良いのだが、あまり他人に見せたくないので、ここは惚ける。
「空荷ならばこいつでも引けるだろう」
俺はチョコ丸を示し、チョコ丸で引くと言った。
「なるほど、ゆっくりならば可能でしょうな」
オヤジも納得したので、早速革紐を取り付けてチョコ丸に獣車を引かせた。
「クワア!」
チョコ丸が重いと抗議の声をあげる。
「悪いな。暫くの辛抱だ」
マジで、人目が無くなるまでの暫くなので勘弁して欲しい。
直ぐにアイテムボックスに入れてしまうからな。
こうして俺は拠点への帰路に就いた。
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