第98話 拠点に帰還する

お知らせ

 昨晩、間違えて17日公開予定の97話を公開してしまいました。

そのため昨日は96、97話と2話分を公開しています。

96話の読み忘れが発生している可能性があります。

お気をつけください。

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 人目につかない場所まで進み、獣車はアイテムボックスに収納した。


「クワア! クワッ! クワッ!」


 だが、無理をさせてしまったチョコ丸が、重かったと抗議して動かなくなった。


「悪かったな。これで機嫌を直してくれ」


 革紐を外してやってから、ご機嫌取りで巨大カマキリの脚を食べさせる。

素材としてバラした個体の、素材を除いた余剰部分の一部だ。

それをチョコ丸の餌として確保してあったのだ。


「クワア♪」


 どうやら無事に機嫌が直ったようだ。

チョコ丸が単純で助かった。


 チョコ丸に乗り、街道を西に進み、頃合いを見て街道を外れて拠点に向かう。


「ホーホー」


 街道から森に入るところで、ホーちゃんが合流する。

ホーちゃんには森の中での警戒を担ってもらっていた。

しかし、ホーちゃんはまだ雛なので、そのまま街の喧噪に連れて行くのは可哀そうだったので、森で待っていてもらったのだ。


 ラノベならば、ここまでの道のりで盗賊でも現れるところだが、何事もなく無事に帰路につけたことに感謝だ。

盗賊を倒して討伐報酬を得られるボーナスステージなのはラノベだけなのだ。

リアルでは生死を分ける大事件であり、そんな事件には簡単に遭遇しない方が良いに決まっているのだ。



 俺が拠点に戻ったのは、その日の夕方だった。

ホーちゃんの探知能力と、チョコ丸の速度もあって、なんと街まで日帰りで往復することが出来た。

泊まり掛け出張のつもりだったので、なんだか拍子抜けしてしまった。

チョコ丸は力こそは強くないが、速度が出せる。

次はひっぽくんに獣車を引かせて女子たちを連れて行かなければならない。

ひっぽくんは、力はあるが速度が遅いので、今度こそ泊まり掛けになるだろう。


「ただいま」


 俺が戻ると、女子たちが目を丸くした。


「え?」


「もう帰ったの?」


「街ってそんな近くにあるの?」


 入口付近にいた女子たちが驚きの声を上げる。


「ちょ、ちょっと、外で待ってて!」


「まだ入って来ないでよね!?」


「僕は良いんだけど……。あ、だめなのね」


 だが、奥では慌てる声とドタンバタンと焦っている様子が伺えた。


「彼女たちは、転校生くんがいないから、羽目を外していたのよ」


 裁縫女子がクスクス笑いながらそう説明してくれる。

それは女子高的な、男子が一人も居ないからこその、だらしないノリだったようだ。

男子の目の無いところでは、女子は下着でうろつくなど平気で行うらしい。

俺がいない拠点という閉鎖空間は、まさにそのような気分にさせる女子にとっての楽園パラダイスだったらしい。


「泊りじゃなかったのかよ!」


「早いよ!」


「男子の居る前だと、マドンナちゃんに怒られるんだからね!」


 なんか知らんが着替えて来た女子に怒られた。

俺が居ても、どうぞ下着姿でうろついてください。

声に出しては言えないが。


「丁度良かった。

運動部三人娘には剣を買って来たぞ」


 俺は、武器屋のオヤジにオマケで渡された数打ちの剣をアイテムボックスから取り出した。

数打ちと言ってもそこらの安物とは違う品質のものだ。


「おお、良いじゃないか」


「僕がもらって良いのかこれ?」


「いや、転校生の剣の方が上物だ」


 バレー部女子の一言で空気が変わった。


「たしかに」


「僕もそっちの方が良いな」


 やばい。黒鋼の剣は隠しておくか、説明してから剣を渡せば良かった。

運動部三人娘の目が恐い。


「これは武器屋のオヤジの面接を受けないと買えないんだよ。

次に街へ行く時は連れて行くからさ。

その時までの繋ぎだと思ってくれ」


 俺がそう説明すると、運動部三人娘も納得したようだ。


「なら良いわ」


「次はいつ行くんだ?」


「そもそも獣車はどうするんだよ」


 どうしよう。

獣車も買ったなんて言ったら、明日にでも街に行くと言い出しかねないぞ。

だが、後で買ってあったと知られた方が、もっと危険な匂いがする。

ここは言うべきだろう。


「獣車は買って来たぞ。

最初は作ろうかと思ったんだが、木工製品は安めでな。

中古が手に入る額だったから、買ってきた」


「「「「「おお!」」」」」


 俺がアイテムボックスから獣車を出すと、全員が感嘆の声を上げた。


「これでいつでも街に行けるの?」


「私も買い物に行きたい!」


「いや、そういうわけにはいかない。

裁縫女子、これを見てくれ」


 俺はひっぽくんと獣車を繋ぐ革の装具を裁縫女子に渡した。


「中古だったから、この革の装具がボロいんだ。

暫くは使えるかもしれないけど、これをコピーして新しく作ったが良いと思ってね」


 裁縫女子がしげしげと革の装具を見ると首を横に振った。


「技術的には作れるんだけど現実的には無理ね。

手持ちに丁度良い強度の革がないのよ。

革を仕入れるか、新品を買った方がマシね」


 盲点だった。

いま俺たちが手に入れている獣や魔物の革といえば、熊、猪、狼、兎だからな。

どれもが材料として不適格だった。

このような装具には牛革が定番だろうか。


「次に街に行った時に買うか」


 DIYはスローライフの定番だが、その過程を楽しめる人でないと向かないものだ。

時間が無駄だと思ってしまう人には無理なのだ。


「これお土産ね」


 裁縫女子には各種ボタンと洋服8着を渡す。


「おお」


「服が殊の外高くてね。

キャピコかクモクモの布で自作して欲しい。

それが完成しないと、セーラー服では目立ってしまうから、町行きは無理かな」


「そうだった。

まだ召喚者だとバレては困るんだった」


「そう。だから、この服のデザインを参考にして現地人に紛れる服を作って欲しい」


「仕方ないなぁ。

クモクモは協力してくれるのよね?」


「手伝わせるよ」


「了解」


 裁縫女子はサンプルの服を広げてしげしげと見ている。

そこに女子が群がって、ああでもないこうでもないと品評会が始まった。

こうなると介入は不可能だ。

他のお土産は明日にしよう。

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