第95話 武器屋2

「新しい剣を手に入れないと困るんだ」


 俺は武器屋のオヤジに食い下がった。

ゴブリンソードではいつか対処不能になる。

それは同級生の命に関わるのだ。


「手入れが行き届いているが、それはゴブリンソードだな?

仲間の装備もそんなものか?」


「そうです」


 俺が頷くと武器屋のオヤジは剣を3本カウンターに出した。

それは店に陳列されているものとは少し違うようだ。


「なら黒鋼くろがねの剣のおまけで数撃ちのこれをやる。

繋ぎになるだろう」


 俺はその剣を受け取り抜いてみる。

ゴブリンソードとは明らかに違う。

しかも数撃ちと言いつつ、店頭の安物とはわけが違うようだ。


「いいのですか?」


「剣帯もつけてやる。

その代わり、絶対に使い手を連れて来いよ」


 そう言うと武器屋のオヤジは金板を受け取り、さっさと帰れとでも言うように手をひらひらさせ、俺を店から追い出した。

俺は剣帯をつけて黒鋼の剣を装備すると、ゴブリンソードと

3本の剣に剣帯をアイテムボックスに入れて外に出た。

なんだかんだ言いつつ、親切なオヤジだった。


 いや、俺もあの数撃ちの剣で良くね?

騙された気もするが……。黒鋼の剣も物は良いんだ。

ああ、これも女子に怒られ案件な気がする。



 次に向かうのは、馬車屋だろう。

ひっぽくんの獣車をみつくろわなければならないのだ。

馬車や獣車が日本でいう車の位置付けだとすると数百万円の代物だろう。

そしてレートの安い食品ではなく、レートの高い職人手作り製品だとなると、貨幣価値は額面通りと見て良い。

つまり百万G以上持っていないと、たぶん荷馬車も買えない。


 では、なぜ馬車屋に行くのか?

それは当然だがひやかしだ。

いまのうちに値段を見ておいてその金額を用意するか、基幹部品だけ買って後は手作りするかだ。

下手するとそんな基幹部品も手作り可能かもしれない。

それを見極めるためにひやかしに行くのだ。


 馬車屋に入ると、そこはこじんまりとした事務所だった。

馬車屋といいつつ、馬車が1台も置いてない。


「初めてかい?」


 俺がとまどっていると、馬車屋のオヤジが声をかけて来た。


「ここには馬車は置いてないよ。

ほら、ここは目抜き通りだろ?

馬車を何台も陳列しておくほどの広い店なんて、賃料が高くて借りられないんだよ」


 そう言うと、馬車屋のオヤジはミニチュアの馬車をカウンター下から出した。


「こうやって、小さな模型を見せて商売している。

獣車も馬車も受注生産でね。

この模型でタイプを決めて後は個人向けに追加装備オプションを決めるのさ」


 俺の思惑は見事にハズレた。


「なるべく早く手に入れたいのだが」


「それなら、街の外に中古屋がある。

そっちに行きな」


 馬車屋のオヤジは模型を引っ込めて会話を終了しようとする。


「参考までに竜型騎獣・地走竜の獣車は新品でいくらか聞いても?」


 俺はそこにあえて声をかける。


「かまわんよ。中古が気に入らなかったらうちで買ってくれればな」


「そうさせてもらうよ」


 新車を買うかもしれないとなると馬車屋のオヤジも無下に出来ないようだ。


タイプは箱型の乗車用か、荷役用の荷車かだが?」


「兼用かな? 人も乗れて荷も運べる」


「ならば、この幌馬車になるな。

地竜の獣車だと金板2枚――20万Gだな」


 あれ? 意外に安い。

そういや木工製品は安いんだったか。


「さすがに今は・・金がない。

金を用意してからまた来るよ」


「期待しないで待ってるよ」


 実は買える額なのだが、中古市場が気になったので一度そっちを見てみることにした。

もしかすると技術レベルが低くて自作できるかもしれないからだ。

それにしても、馬車屋のオヤジめ、俺が買わないだろうと思っていたな?

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