第94話 武器屋1

 俺たちの現在の装備はゴブリンが持っていた、ある意味中古の中古のボロボロの武器だ。

防具も木の盾しかない。

これはゴブリンと戦って亡くなった人の装備をゴブリンが奪って使っていたものらしい。

それが手入れもされずにゴブリンの間で引き継がれるためボロボロなのだ。


 ゴブリン装備など、ゴブリンを倒しても放置されてしまう。

それをゴブリンが拾ってまた使うということを繰り返しているのだ。

ゴブリン被害が出ないように、その武器サイクルを止めてしまえば良いのにと思うのは、俺が日本人だからなのだろう。

ゴブリン装備を回収するなんて重いだけの苦役であり、ここはそれをボランティアとして行うような優しい世界ではないのだ。


「おお、やっぱりあるんだ」


 俺の目の前には武器屋と冒険者ギルドがあった。

ラノベ異世界モノのお約束である冒険者ギルドは、剣と魔法の世界の秩序を維持するために必須の存在のようだ。

だが、ここで登録しようとして正体がバレるなどというヘマはしない。

討伐報酬が得られないが、素材売買はカドハチの所でもできるのだ。


 俺は冒険者ギルドの正面に店を構えている武器屋に入ることにした。

冒険者御用達ならば、それなりの店だろう。

店の横には騎獣をつなぐ駐騎所のようなものがあった。

俺は、そこにチョコ丸を繋ごうとしてクモクモのタオルを持ち出した。


「待ちな。ここは有料だ。

その代わり、盗まれないようにしっかり見張ってやる。

もし盗まれたら弁償する仕組みだ。

銅貨5枚だ。どうする?」


 たしかに、カドハチのところも見張りがいた。

あそこは店の顧客専用でタダだったのだろう。

よくよく見ると、ここは冒険者ギルドや他の店を利用する者の共同駐騎所のようだ。

銅貨5枚は入街税と比べて高いが、盗まれた時の保険料のようなものだろう。


「頼む」


 俺は銅貨5枚を払ってチョコ丸を預けた。

チョコ丸の首には番号札のついた紐がかけられ、俺にはその番号が書かれた木札が渡された。


「こいつ手綱がねぇ。しょうがねぇな。ロープでくくるぞ」


 そういや騎獣の鞍を買うべきだった。

今の状態は所謂裸馬ってやつだ。鳥だから裸鳥か?

なんか意味が違って聞こえるな。


「悪いね、まだ買う前なんだよ」


「まあ、そのために店に入る必要があるんだから仕方ねぇな」


 よくよく見ると武器屋の他に防具屋やアイテム屋、馬車屋まであった。

そういやひっぽくんの引く獣車もみつくろわないと。

まだ買えないと思うけどな。


 とりあえず、目的の武器屋に行く。

さすがにいつまでもゴブリンソードでは今後困難な状況も起こり得るだろう。

元はどこかの冒険者の装備かもしれないが、刃が欠けて錆びが浮いていたのをメンテナンスしただけのものだ。

最低でも新しい剣が4本は欲しい。


 武器屋に入ると、店のオヤジがジロリと睨んで来た。

冒険者ではなく、腰にはゴブリンソード、上客には見えないのだろう。


「剣を見せてください」


 俺は恐る恐る声をかけた。

オヤジの圧が凄いのだ。


「その背中に隠してるのはキラーマンティスの鎌か?」


「え?」


 実はゴブリンソードはサブウェポンだ。

いま俺がメインで使用しているのは巨大カマキリ――キラーマンティスの鎌なのだ。

それを折り畳み式に加工してクモクモに作ってもらった袋に収納し、背中にくくりつけていたのだ。

それを一目で見破られたということだ。このオヤジ出来る。


「そうです。良く判りましたね」


「少し見えている関節がそれだ。わかるさ」


 そう言うとオヤジは徐に奥から長剣を出して来た。


「お前さんには、これだな」


 武器の良し悪しはわからないけど、業物と見た。


「見せてもらっても?」


「ああ」


 鞘から剣を抜くと、それは黒い刀身をしていた。


黒鋼くろがねの剣だ。

キラーマンティスとやり合うなら、これぐらいの剣が必要だろう」


 重さも丁度良くしっくり来た。

これを一目で見極めたのか!


「いくらですか?」


「金板1枚」


 つまり金貨100枚――10万Gだ。

食べ物ならば1千万円相当だ。

もろもろ買って減っているので所持金の2割近い。

めちゃくちゃ高い。だが、欲しい。

それと4本買うだけの所持金がある。

いつまでもゴブリンソードではいられないんだ。

ここは買うべきだろう。


「ならば、4本ください」


 俺は運動部女子3人の分も買うことにした。

俺だけ高い武器を買っていくわけにはいかないのだ。

なので平等に同じ武器にするつもりだ。


「はぁ?」


 なぜかオヤジが訊き返して来た。


「仲間の分も欲しいので、4本ください」


 俺がはっきりそう言うと、オヤジは急に渋い顔になった。


「それは使い手を見なければ売れん」


 どうやら本人たちを連れて来なければ売ってくれないようだ。

せっかく儲かるのに、なんなんだこのオヤジは?

いや、ある意味信用出来るということだろうか?

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