第85話 修羅場

 草原から温泉に帰還した。

ラキが守っているから魔物も寄り着いていないようだ。

今までの卵召喚で、ラキは一番のレアキャラだったようだ。

能力がずば抜けている。


 ゴラムによる壁の建設も、こちら側は終わっていた。

これで簡単には覗けないだろう。

建築を促進するには、ゴラムをもう1体欲しいところだが、狙って卵召喚出来ないのが困ったところだ。


「ホーちゃん、合図を」


 俺は入浴中の女子が居ても退避できるように、帰還の合図をホーちゃんに頼もうとした。


「あ、私たちがいるから問題ないよ」


「そうそう、先に行って確認すればいいんでしょ?」


 俺が覗くんじゃないかと常に疑っている懐疑派の裁縫女子とバスケ部女子がそう言うのならば安心だろう。

俺は1人、壁の外で待った。


「大丈夫。来て良いよ」


 バレー部女子にそう言われて壁に開いた入口を通る。

信じた俺がバカだった。

目の前には入浴中の女子たちがいた。


「え? なんで?」


「「「きゃーーーーーーーーー」」」


「ほら、覗いた」


 自分たちだけ服を着ている懐疑派のバスケ部女子、裁縫女子、バレー部女子の3人が勝ち誇っていた。


「いや、お前らが騙したんだろう!」


 俺は完全に玩具にされていた。

覗くなと言っていた本人たちが、覗きを促すってなんなの?

それに俺のことは堂々と覗いたよね?

そもそも、自分たちが覗かれなかったら、他の女子は見られて良いの?


「覗かれたくないってキレていたのに、これは何だよ!」


「えー、彼女たちは見られても良いって言ってたし」


「私たちが見られてなければ問題ないから」


 なんだよそれ!


「ごめん、皆、直ぐ出るから」


 皆、肩までお湯の中だし、大丈夫だ。

そこは懐疑派も気を使っているのだろう。

この状態でわざわざ湯から上がるもの好きは……。


「みんな、これぐらいどうってことないでしょ?

さあ、上がろうかな」


 サッカー部女子が、おもいっきり湯舟から立ち上がる。


「やめなさい! 見えちゃうでしょうが!」


 まあ、今日の温泉は湯気が仕事をしていて何も見えなかったんだけどね。

サッカー部女子は湯気に守られながら更衣室に消えた。

あれだけ堂々としていて隠れるなんてある意味奇跡だ。


「お背中……」


 あ、こら。マドンナもいつのまに湯舟から出てるんですか!

濡れたタオルが肌に張り付いて危険です。


「よし、作戦成功!」


「責任取れよ! 転校生!」


 どうやらマドンナと俺をくっつけるための作戦だったようです。

いつから俺とマドンナをカップルにしようなんてことになってるんだよ!


 拙い。なんとかしないと。


「責任とってくれるの?」


 マドンナさん、なんでそうなるの!

やばい、これはあいつら懐疑派にそそのかされたな。

だが、俺には心に決めた相手が……。

見ちゃったからには責任を取らなければならないけど、マドンナはギリタオルで見えてない。

まだ一線は越えていない。

でも、マドンナも勇気を振り絞ってこんなバカなことをしているんだ。

その気持ちにな答えたいところは確かにある。

でも、ごめんよ。

俺はクソ親父みたいに2つ家庭を持って、片方を犠牲にするなんて許せない。

あれ? 片方を犠牲にしたから悪いんで、両方幸せにすれば問題ない?

俺はこの時、パニックになって血迷っていた。


「見ちゃったからね。善処します。

でも、他にも見ちゃった子がいます。

2人一緒で良いですか?」


バシーン!


 俺の左頬に紅葉もみじが色付いた。

目の前には涙目で平手打ちするマドンナの顔があった。


「ですよねー」


 俺はその一撃で冷静になった。

異世界だからといって、ハーレムはNGでしょう。

拙い、これって女子の顰蹙を買ったのでは?


「だから、見ちゃったとはいえ、責任とるのは難しいです。

他の子はもっと見ちゃってますから」


「誰よ!」


 言えません。


「つまり、おまえ転校生は覗いてたってことだな?」


 マドンナの味方、懐疑派のバスケ部女子にそこを突かれてしまった。

やばい、余計なことを言ってしまった。

どうする? そうだあの手がある!


「医療行為だったから、仕方なかったんだよ!」


「ああ、あの時か……」


 懐疑派のバスケ部女子の弱いところを突くことが出来た。

あの時のことならば、彼女は引け目があるからな。


「えー、ということは、意中の人って僕なの?

確かに、今も見せちゃったし……」


 着替えを終えたサッカー部女子が話しに割って入る。

違ーーう! ああ、でもサッカー部女子にも医療行為をしたんだったわ。

それに今日のも湯気で見えなかったんだぞ。


「ごめん、僕は見られたからって平気だし、責任とらなくて良いよ」


 告白もしていない――いや、する気もない相手に振られました。

しかも、意中の人が空席になったと思ったマドンナの目が肉食獣のようです。


 いや、これで解決したならそれで良いか。

ああ、疲れた。いや良くない!

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